中編4
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ひっぱられた

大学受験で証明写真を貼らねばならないが見つからない。

結局見つからなくて翌日駅の構内で撮った。

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証明写真を探している時に昔の写真が出てきた。

懐かしい。

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色んな写真が出てくる中、茶封筒に入った数十枚の写真がでてきた。

私がまだ小学5年生の時の写真だ。

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小学2年生の時にできた1つ下の友達、T君との写真だ。

とても良い友人で、今でも繋がりがある。

数ヶ月前にお泊まり会をしたばかりだ。

そんなT君も小学4年生の時、つまり私が5年の時に、問題行動が多かった為、学校から嫌がらせをされて郊外の方に転校させられていた。

まあ、あいつはどこでも器用に生きていくから案の定快適に暮らしている様子。

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話は戻して、私が見つけた写真は、T君が転校した直後に、彼の母が私とT君を連れて関東地方のとある水上アスレチックのある公園に連れていってくれた時のものだ。

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とても広い公園だ。

行く途中の道、バスを降りて少々歩くのだが、やたらと地蔵が多かったのが印象的だった。

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公園に入ると、まずT君の母に紙が渡されて、何かを書いていた。

当時は分からなかったが、今思い出してみるとあの紙は誓約書だ。

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「当園での事故等における一切の責任を追求しない」

そんな内容だった。

ちなみに、私はこの時まで、水上アスレチックがあることなど知らなかった。

今考えてみると、なかなか恐ろしいT君の母であったなと思う。

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さて、T君と仲良く遊び始めた私。

縄ばしごなど、陸上アスレチックを小さな体でこなしていく。

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しばらく遊んだ後に、いよいよT君のお待ちかね、水上アスレチックだ。

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真ん中に縄があり、それに捕まり向こう岸へ飛ぶというアスレチックだ。

まあ、軽いターザンみたいなノリだったね。

調子のいいT君は案の定叫びながら飛んでいく。

私も飛ぶ。

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身長が他の子より大きかったので、別に苦労はなかった。

一方T君は水に落ちまくっている。

なぜそんなに落ちる?と思うくらいに落ちていた。

いや、もうそもそもあいつは飛んだ瞬間からわざと落ちようとしていたのだろうなあれは。

まあ、見てる分には面白かったからいいけど。

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さあ、私も何回目かのジャンプ。

しかしこれがまずかった。

T君が落ちまくっていたのが災いして、縄がめちゃくちゃ濡れていた。

なのにそのまま私は飛んだ、大丈夫だと思ったのだ。

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しかし、油断していた私は水に落ちた。

「バシャーン!」

水しぶきが飛ぶ。

「あー!ついに落ちた!」と笑うT君。

子供向けのアスレチックではあったので、一応落ちても安全なようにはなっている。

しかし、おかしい。

足がつかない。

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私より身長が10cm近くも低かったT君ですらついたのに、私は足がつかない。

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なんだ??おかしいぞ

とは思いつつも、バタ足で戻ろうとする。

数回足を動かした時点で違和感を感じた。

足が…動かない…

正確には動かせなかった。

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右足に確かに感じる重量感。

沈みゆく中分かったんだ、掴まれているのだと。

もうそりゃあパニック状態。

本当に怖かった。

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途中にある木の着地板を掴んだ。

しかしそれにも勝る力で引きずられる。

水面から何メートルかなあ、身長的に考えて3mくらいは沈んだと思う。

有り得る?そんなこと。

3mって、子供向けどころが大人でもつかないって。

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そんなこと考えるうちに酸欠が近くなった。

あ、やばい、死ぬ

おそらく人生でこう思ったのはこの時が最初だろう。

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その途端、体の浮力が一気に仕事した。

一瞬で水面まで戻されて、何とか息ができた。

急に足もついた。

急いで元いた場所へ戻る。

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まじでしばらく放心状態。

T君とその母が駆けつけてくれて、大丈夫?!

と心配してくれた。

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「あと……、あと3秒で、死ぬとこだった…」

心の奥から本気でそう思った。

しかし悲しいかな、未だにそのセリフがT君一家の中で笑いの種にされている。

この前もこの話で笑われた。

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こっちからしたらまじでシャレにならんかったのに…

いやまあ、別にいいけどね。

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そして時が経ち私は大学受験の時期。

私はこの時、死にそうな顔をしながら泳いでくる自分の写真を見つけ当時のことを思い出して、調べてみることにした。

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「S公園…ねえ…」

今でも普通に営業しているその公園。

しかし、情報を見てみると、私が溺れかける数年前に、男子児童の溺死事故があったようだ。

言うまでもなくゾワっとした。

と同時にあの現象に納得がいった。

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その子も寂しいのだろうか、辛いのだろうか。

いや、もしかしたらその子を巻き込んだもっと他の存在がいたのかもしれない。

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