中編6
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近所の空き家

私が小学校3年生の頃に、ある話題の場所があった。

ものすごい広さの敷地がある空き家だ。

とは言っても、庭が異様に広いだけで、家はよくある日本家屋。

以前は人が住んでいた気がするのだけれど、気がついたら空き家になっていた。

小学校の通学路に面していたので、たちまち小学生のたまり場となっていた。

かく言う私も、その中の一人だ。

そして、いつからだろうか、噂が流れ始めたんだ。

殺人鬼がいるだの、幽霊がいるだのという、まあいかにもありきたりなうわさだ。

まだ幽霊屋敷などと言うには、あまりに新しすぎるので、恐れている人はほぼいなかった。

無論私達もそうだった。

当時エアガンが私たちの中では流行っており、学校帰りに公園に行って的当てなどをして遊んでいたのだが、さすがにエアガンを学校へ持っていくのはやばいということで、その空き家の庭に生えている雑草や、家の中に隠していた。

その日も、いつものメンバーで学校帰りに空き家に寄ってエアガンを取って遊ぼうということになった。

そこで、友人の1人、仮にSとしよう。

Sが顔をにやけさせ得意気に言った。

「今日はよ、取っておきのでかいヤツがあるんだ!」(ははーん、ライフル系のエアガンでも買ったんだな?)

そんなことを思いながら空き家に到着。

Sが「デカいんで家の奥に隠したんだ、ちょっと待っててくれ」と言って家の奥に入っていく。

30秒くらいで、Sは戻ってきた。

私含めその場にはあと3人いたのだが、全員そのデカさに目を奪われた。

エアガンが?ああ、確かに大きなライフルだった。130cmくらいはある代物だ。

しかし、それではない。

大男がいたんだ、Sの後ろに。

180cmはあろうその巨漢は、Sの後ろからものすごい形相でついてくるのだ。

まるで、今まさに人を殺さんばかりの鋭い目だ。

当のSは、何故か気づいていない。

「おーい!これだ!すげえだろ!」

なんてライフルを自慢していたくらいだ。

すると、Sの左側から何やら光るものが見えた。

ナタだ。

巨漢にナタ、そしてあの形相。

只者じゃないことだけは小学三年生の小さな脳みそでもわかる。

最初に声を上げたのが、私だった。

「おいS!後ろ!!早く逃げろ!!」

一瞬戸惑ったSだが、後ろを見た途端、ご自慢のライフルを投げ捨て、一目散に逃げた。

私もとにかく走った。本気で。本気で。

走ってる途中で気づいた、全員とはぐれたことに。

必死に走っているせいか、足音は聞こえない。だが、背後からは異様な気配がする。

それでも後ろなんて見ちゃいない、見る暇なんて、見る余裕なんてない。

小学生3年生の走りについて来れないような爺さんじゃないんだ。

絶対私についてきていると直感で感じた。

運が悪いことに周りには人が誰もいない。

まだ16時前なのに。

そしてひたすら走った。

人間命の危機を察すると限界を超える力が出せるのは本当らしい。疲れなんて感じなかったんだ。感じる余裕がなかったのかもしれない。

やっとの思いで、家が見えてきた。

信号なんて待っているわけが無い、車が来るかどうかも気にせず、道路を渡った。

幸い車は来なかった。

そしてついに家に着いた……のだが

人がいる。

うちの家は3階建てのマンションで、自転車置き場を通って入るタイプなんだけど、その自転車置き場に、人がいたんだ。

自転車置き場は外から見えないように1枚の壁があるのだけれど、その壁から頭が出ていたので認識できた。

まさか…やつが…?とも思ったが

「いやぁ、まさか。あいつが俺の家をわかっているはずがない。」

なんて思いながら人がいる事について安堵して中に入った。

しかし、誰もいない。

誰かが家の中に入っていった形跡もない。

気味が悪いが、今はそんなことなんてどうでもいい。早く母さんにドアを開けてもらって中に入ろう。

そう思った矢先、後ろで人の気配がした。

振り返るとやつが、いた。

手にはしっかりとナタを握ってて、こちらを先程の形相で睨みつけてきた。

私はとっさに、自分の横にある自転車を持ち上げ、戦闘態勢に入った。

今思えば勇敢だったと思う。

当時学年の中では1番背が高かった私、腕力も比例していた。

小学三年生とは言え自転車を持ち上げて構えるくらい造作もなかった。

今思えば火事場の馬鹿力だったのかもしれないが。

(まずはこの自転車をあいつに投げて、怯んだところであのロードバイクを頭めがけて当ててやる!)

なんて思った時には、既に自転車を後ろに回し、投げようとしていた。

自転車を前に回しまさに手を離そうとしたその時。

動きが止まった。

やつが?いや、私だ。

何が起きたかわからなかった。

(緊張?恐怖?なんだ、何が起きている?!ダメだ、体が動かない!)

そこでふと、壁の端にある隙間から向かい側の道路に人が見えた。

齢70はあろうかという老人だ。

しかし人間、こういう時には誰にでも助けを求めたくなる、まさに藁にもすがる思いってやつだ。

今でも思い出すと笑えるのだけれど、その時は「助けてー!!」ではなく、何故か「Help meー!!」と叫んだのだ。

本当に必死だったのだろう。

実際「T」より「H」の方が叫びやすいから、とっさにそっちが出たのではないかと思う。

まあそれはいいとして、叫んだのだ、絶叫とも言える勢いで。

しかし老人が気付いてくれるかを確かめる間もなく、

私には、男がナタを振り下ろすのが見えた。

死の間際、スローに見えるだの、走馬灯が見えるだのと言われるが、本当だった。

男性一人がナタを振り下ろすに費やす時間なんて0.2秒程度だろう。

その時間を私は4、5秒にも感じた。

目を閉じる暇もない。

ナタが目の前に振り下ろされた。

それと同時に、確かに見えたのだ、目の前に浮かび上がる大きな1文字が。

「罪」

確かに見たんだ、視界の8割にもなる大きな「罪」という文字が。

そこで私の視界が飛んだのだ。

意識が飛ぶ、の方ではなく、物理的に飛んだのだ。

ほぼ真上、おそらく肉体から7、8m上にいた。

そこから私を見下ろす私。

もうあの大男はいなかった。

いたのは仰向けに大の字で倒れている私と、その上に覆いかぶさった自転車だけだ。

(幽体離脱ってやつか?…)

とは思ったが、不思議と死んではいないという確信があった。

次の瞬間、私は目を覚ました。

自室のベッドの上にいたのだ。

窓から下を見てみると、あの自転車があった。

(どうやら、夢ではないらしい…)

どうやってここまで戻ったかは覚えていないが、まあ無事ならそれでよかった。

次の日、学校に行ったが、あの大男は3人のところには現れていないようだ。

昨日の出来事を話したが、信じてはくれなかった。

まあ別にいいんだ、私の中では確かな事実であるから。

その日から、あの空き家についての情報を集めたが、

特にこれといった情報はない。

目撃者は何人か見つけたが、大男の存在だけは確からしい。

あの容貌で消えたり現れたりとしているのも共通していた。

友人みたいに見ただけの人もいれば、私みたいにああいった体験をした人もいる。

だから殺人鬼と幽霊というふたつの噂ができたのね、なるほどなるほど。

幽霊と仮定すれば、瞬間移動も、私の体が動かなくなったのも金縛りということで納得がいく。

そんな私も小学六年生に上がると同時に転校した。

たまに前いた地域へ行くことがあるが、今では空き家も取り壊されており、2軒の一軒家と女性専用の美容室、そして小さな歯科クリニックができていた。

しかし、中には気になるものもあった。

以前にはなかったお地蔵様があるのだ。

そこで友人たちと会った時にふと聞いてみたのだが、地蔵付近では小学生を中心として交通事故数がやたらと多く、私が引っ越してから5件はあったという。

そのうち2人は亡くなったとの事。

(あぁ…その子たちもきっと、あいつの姿を見て逃げていたんだろうな…)

と、少し悲しい気持ちになった。

私も、タイミングが違えばこうなっていたのかもしれないな。

そういえば、結局あいつは何者だったのだろうか。

私の視界を遮った「罪」という文字はなんだったのだろうか。

私の罪はなんだったのだろう…

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@あんみつ姫
初めまして!
お読みいただきありがとうございます!
感想が素晴らしすぎてもうお恥ずかしい限りです(;・∀・)
あんみつ姫さんのお話も読んで勉強させていただきます!

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@アンソニー
お読みいただきありがとうございます!
そうですね、なかなかしっかり者ですよね。

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怖い!この小学生、3年生にしては冷静でしっかりしてる。

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