短編2
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美しすぎた夜の蝶

北海道の中央に聳える大雪山系トムラウシ山。

山頂周辺は「カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)」として崇められ、手付かずの花畑や湖沼が今尚残る名峰だ。

2009年7月、夏山登山としては異例となる、9人もの犠牲者を出した遭難事故も記憶に新しい。

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絶好の登山日和のある日。

登山道の入り口に華やかな登山客集団の姿があった。

ススキノの路地裏に店を構える飲食店の従業員、つまりは夜の蝶たちの慰安旅行の一団5人だ。

登山初心者ばかりだったが、皆体力には自信があり、晴れ渡る青空の元、意気揚々と出発した。

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数時間後、ようやく山頂付近カムイミンタラに差し掛かったところで、穏やかだった天候が一変。

猛烈なにわか雨のあと、氷点下まで一気に気温が下がり始めたのだ。

雨は瞬く間に雹へと移り変わった。

突然の雨で雨具を用意する間もなかった一団は、濡れた身体を冷たい雨風と雹に曝され、急激に体温を奪われていった。

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低体温症により、ある者は顔面蒼白で一歩も動けず、ある者は幻覚によって意味不明な言葉を口走り、中には発狂して全裸になる者さえいた。

熟練のツアーガイドすら対処出来ないほどの天候の急変によって、一人また一人と息絶え、ついにはガイドを含む6人全員が命を落とすこととなった。

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古来より、神が宿るとされる名峰は女人禁制とされてきた。

それは、山の神は嫉妬深い女神であり、女人が山に踏み入ると、嫉妬心によって厄災を引き起こすと言い伝えられてきたためである。

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この厄災の原因は、他ならぬ山の神の仕業によるものだった。

夜の蝶たちが、山の神の嫉妬心を刺激してしまったからだ。

なぜなら、一団は皆、あまりに美し過ぎたのだ。

「女性らしさ」を追い求め、誰よりも美容とファッションに気を使い、身体にメスを入れることすらいとわなかった夜の蝶たち。

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その美しさは、山の神の嫉妬心を刺激し、怒りを買うには、十分すぎた。

それほどまでに美しかったのだ、彼らは。

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