──民家の片隅で産声が聞こえた。
大きな桃が真っ二つ。そっから赤子が飛び出した。
爺さん婆さん、子がいない。だから、たいそう喜んだ。
桃から生まれたそういうわけで、名前はもちろん桃太郎。
それから月日は過ぎてって、村には鬼がやってくる。
鬼は女をさらっていって、女はとうとう帰らない。
鬼が住むのは鬼ヶ島、取り返しに行く勇気もない。
村人みんな困ってた、そのとき一人が名乗り出た。
桃から生まれた桃太郎、自分が行くと言い切った。
だけれど爺さん婆さんは、とても心配でたまらない。
そんな爺さん婆さんに、桃太郎はこう感謝した。
これは自分の天命だ、このために僕は生きたんだ。
今までほんとにありがとう、かならず鬼を討ち倒す。
こうして彼は鬼ヶ島へ、赴くことになったのだ。
道中、家来を従えた。犬猿雉の家来たち。
お腰につけた黍団子、一つ私にくださいな。
そうして、一つあげたなら。彼らは共に来てくれた。
心強いや心強い。きっと討てるに違いない。
どんどん歩みは進んでく。家来を従え進んでく。
こうしてとうとうやってきた、かの鬼ヶ島へやってきた。
そこではひどい悪臭が、あちらこちらに溢れてる。
咽せ返るほどの悪臭で、家来たちはもう参ってる。
奥へ奥へと進んでいく。女の四肢が転がっている。
頭、胴、手足、バラバラに、女の四肢が転がっている。
なんて酷いと桃太郎、怒りがふつふつ湧いてきた。
そのとき大きな高笑い、とうとう鬼と対峙した。
刀を振るう桃太郎、それに続けと家来たち。
鬼の力は強大で、あれよあれよとただ一人。
家来たちは皆、殺されて。残ったのはただ一人だけ。
しかし、負けじと桃太郎。最後の力を振り絞り、刀を一太刀、鬼の首。
見事に首を討ち取って、成し遂げられた鬼退治。
鬼ヶ島には財宝が、湧き出のように溢れ出る。
財宝湧き出るその島は、まさにこの世の桃源郷。
村の皆んなでその島に、移り住むことになったとさ。
英雄になった桃太郎、殿様になった桃太郎。
贅の限りを尽くしても、なぜだが満足したりない。
そうして月日が過ぎてって、角が生えてきた桃太郎。
肌は朱色に染まっていって、人の言葉はわからない。
こうしてまたまた世界には、鬼が姿を表した。
──民家の片隅で産声が聞こえた。
作者Yu