1
銭湯の脱衣場にて
「俺はなあ、人を殺した事があるんだよ。誰にもバレてねえけどな」
「マジっすか?」
「さては信じてないなお前。見ろ。このイヤリングは殺した奴から奪ったもんだ。ほら、ここに血がついてるだろ?」
「へー。因みにいつの話なんすか?殺人やったの」
「明日でちょうど2年だな」
「それが本当の話なら、警察行かなくていいんすか?」
「馬鹿。自分から行くわけねえだろ」
「それもそうっすね」
2
一人部屋にて
「鏡に映る自分は鏡の世界の自分だって怖い話をたまに聞くが本当だろうか」
「そんなわけないだろう。鏡ってのは光の反射でちゃんと理屈が‥」
「わかったわかった。例えば俺が今右手を上げると、鏡の中の俺は左手をあげる訳だが‥」
「どこもおかしくないだろ?」
「今お前がこうやってしゃべっている事だって、俺自身が話しているのだから何も不自然じゃない」
「そうだぞ。変な事を言うのはやめろといつも言っているじゃないか。‥下で母親が呼んでるぞ。さっさと飯食って学校行け」
「一人で何ぶつぶつ言ってんの?!さっさとご飯食べなさい!」
3
学校の教室にて
「昨日変な夢をみたんだよ」
「どんな?」
「その夢の中でな。俺何十年もすごしたんだよね。目覚めたら一晩だったけど」
「へー」
「いきなり戦争みたいな事始めて」
「ふうん」
「爆弾が落ちて、戦争は終わるんだ。んで技術とかめちゃめちゃ発展して、でもなんか公害みたいなのが出て、そうかと思えばビルに飛行機がつっこんだり、宗教団体が悪いことしたり、変なウィルスが‥」
「その話長い?」
「いや、起きる直前にみたのはさ、またでっかい戦争がおこんの。しかも昔みたいな奴じゃなくて、もっと‥」
「おい授業始まるぞ」
4
とあるマンションの一室にて
「あー出張疲れたわ‥2週間位この部屋留守にしてたからな‥まずは掃除しねえと。あれ、なんか部屋が寒い‥?今は夏なのにおかしいな」
5
深夜、姉妹の寝室にて
「ねえ。他人の寝言に相づちを打ってはいけないって知ってる?」
「知らない。なんで?」
「寝言ってのは寝ている間に脳が色々処理しててる最中に漏れた言葉で、それに反応すると脳が混乱しちゃうみたい」
「そうなんだ」
「オカルト的な言い方をすると、寝言ってのは寝ている間の別の自分が発した言葉で、それに反応しちゃうと体の主導権をとられたり、自分の中に存在する悪い霊の言葉だから自分の魂を持ってかれちゃうとか、ね」
「へー。ところであんた寝てたんじゃないの?さっきまで」
「Zzz‥」
6
とあるサバンナにて
「動物に感情ってあるんだろうか」
「色んな説があるけど、俺個人的な意見としては無いんじゃないかなって」
「なんでだよ」
「いや、そりゃもし動物に憎しみみたいな
感情があったらよ。俺ら絶対無事じゃないだろ。あいつら力強いし。荷車ごと俺らなんか一瞬でバラバラだよ」
「ははっそれもそうか。おっ今度のはわりと牙の質が良さそうだ。仕留め損なうなよ!高く売れんだから‥」
7
夕暮れ時に、誰もいない田舎道を一人であるいていると、背の高い女の人が前から歩いてくる。日差しの加減で顔がちょうど影になって見えない事がある。そんな時ふと思うのだ。本当に彼女はこの世の者なのだろうかと
8
とある研究施設にて
「ネズミの大量死って知ってるか?とあるネズミはな。数が一定数以上になると、増えすぎたネズミの一部が同じ種同士の争いを避けるため一斉に川とか海に飛び込んで自殺するらしい」
「はあ」
「んでな?これは遺伝子に組み込まれてるから、自殺因子って呼ばれてて、これを解明できれば意図的に人を自殺させる事ができるかもしれないって話なんだよ」
「アホらしい。ネズミならともかく、人を大量に自殺させる必要なんかあるか?」
「パッとは思い付かないけどさ」
「そんな話は置いといて‥そういやこの間提出した国の秘密兵器の試験結果、報酬はいつ貰えるんかな。おい、いきなり走り出してどうしたよ。そっちは危ないぞ!」
9
本屋や図書館を巡っていると「あなたのための物語」そう題名に書かれた本が見つかるかも知れない。その本には読者のこれまでとこれから、つまり人生が全て記されているという。めったに見つかる物ではないのだが、もし運良く見つける事が出来たとしても、中身は見ない方が良いだろう。何故ならこの先の自分の未来に何が起こるか、なんて知ってしまったらつまらないじゃないか。
という噂があるが、これは真っ赤な嘘である。何故見てはならないのか。それはページを開いた瞬間にあなたそのものが本の中身にされてしまうから、である。
10
「つまりね。現実世界を生きている連中だって、我々作中人物とそう変わらないって事さ」
「どういう意味だよ」
「我々は作家の手によって書かれたシナリオ通りに行動させられているけどね。現実世界を生きてる人間だって、多分それより次元の少し高い、まあ神とでもいっておくか、の書いたシナリオ通りに行動させられているにすぎないんだよ。本人も知らない内にね。そこんとこ我々は作中人物だって自覚がある。それに気がついていない彼らよりマシじゃないか」
作者嘘猫
現実世界が忙しくて、ちょっとてかながーく期間が空いてしまいました。リハビリもかねていつもとは違う趣向で書いてみました。いつもはこういった話の骨格に装飾を加えて話を書いていますが、今回は装飾抜きで短編集となりました。楽しんでいただけたら幸いです。