21年02月怖話アワード受賞作品
長編17
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コウヘイ

この話は残酷な描写、グロテスクな描写、不快な表現を含んでいます。

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ファミレスのテーブル席に座る男女三人。

一人は私の姉だが、他の二人は見覚えがない。

みすぼらしい服装の老婆、スーツ姿の男性。

「お待たせ!」

「…」

姉に声をかけるも、まるで聞こえていないかのように無反応。

「それでは、次は私ですね…」

男性が語り始めた。

「これは、とある会社員の話なんだけど…」

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目的地に到着し、とある家族を降ろすとタクシーは走り去った。

興奮した様子で目の前の古民家にカメラを向け、シャッターを切る双子の姉妹、ナオとミオ。

古民家の入り口には丸太で作られた看板があり、一文字ずつ漢字の書かれた木の板が三枚、釘で打ち付けられている。

「あれ?」

ナオが看板の上にもう一枚置かれていた木の板を手にした。

【月】の一文字が書かれている。

「なんで外れてるんだろうね?」

ナオとミオが首を傾げていると、母親が後ろから声をかけた。

「もともとは【鏡花水月】って四字熟語だったんじゃない?もしくは【水月鏡花】かな?ほら、この看板、三文字しか入らないから…」

「あ~なるほど、発注ミスか何かで一文字入らなかったから、店名を変えた感じかぁ」

「それにしてもお父さんよくこのお店予約できたよね。聞いてから調べてみたんだけど、数年先まで予約で埋まってるみたいだよ」

「今日はお父さんに感謝しなきゃね!ほら、入ろうよ!」

ミオが古民家の引き戸をゆっくりと開けた。

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「イラッ、シャイマセ~!」

綺麗な刺繍が施されたチャイナドレス姿の店員が片言の日本語で出迎えた。

「ドウゾ、コチラヘ~!」

案内された先には非常に大きな円卓の中華テーブルが置かれている。

中華テーブルの中央には鏡面仕上げの大きな花瓶が置かれ、カラフルな花々が生けられている。

外観が古民家である為、店内のギャップが激しい。

家族が席に着くと、水の入ったコップを三つ乗せたトレーを手にした店員がテーブルにコップを置いた。

「本日、コース料理トナッテオリマス!最後マデオ楽シミ下サイ!」

店員は満面の笑みを浮かべながら【本日のお品書き】をテーブルの上に置くと、厨房の方に消えていった。

「ねぇ、大丈夫かなこの店?」

「どうして?」

「だってこのメニュー…フレンチのフルコースだよ…」

「ほんとだ~。お店の外観は和食、内装は中華、そして実際に出てくる料理はフレンチ…」

「…」

父親は無言。

ナオが父親をフォローするかのように口を開いた。

「大丈夫だよ。これ見て!」

先日、父親から教えてもらったお店のホームページには口コミが多数書き込まれており、ほとんどが5つ星評価。

「ほんとだ、美味しいってコメントばっかり!色々ちぐはぐだけど、味は確かなんだろうね」

「ねぇ、あんたさっきから何を真剣に見てるの?」

無言で携帯の画面を見つめるミオに話しかける母親。

「あ、前に友達から送られてきた話を読んでたんだけど…何か似てるなぁと思って…」

ミオが携帯電話を操作し、赤字で【コウヘイ】と書かれたページの概要を話し始めた。

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無言で走り続ける男性。

「【コウヘイ】さん、こんばんは~」

「あ、どうもこんばんは~」

隣のランニングマシンで走り始めた体育会系の男性、K田に挨拶を返した。

K田とはこのスポーツジムで二年くらい前に知り合った。

お互い既婚で家族関係が良くないという共通点から意気投合し、ジム後に飲みに行くこともしばしば。

「どうです?今日一杯行きますか?」

「良いですね!」

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駅前の個室居酒屋。

「乾杯!」

一気に飲み干すK田。

「K田さん、今日は上機嫌ですね?何かありました?」

「あ、やっぱりわかっちゃいます?実はですねぇ~」

それから三十分、K田は延々と講釈を垂れた。

要約すると、数年先まで予約が取れないレストランに家族を招待し、とあるサプライズをきっかけに家族関係が良くなったそうだ。

「【コウヘイ】さんもどうです?良かったらこのお店予約しときますよ?」

「え?でもなかなか予約取れないんでしょ?」

「私の親友がこのお店に食材を提供してて、店主とコネがあるんですよ。ちょっと値は張りますけど、どうです?」

【コウヘイ】は家族関係の修復は全く期待していなかったが、予約が取れないレストランには興味があった為、お願いすることにした。

「じゃあ、早速予約できるか確認しますね!」

K田は携帯電話を片手に席を外し、しばらくすると暗い表情で戻ってきた。

「あ、予約取れませんでした?」

K田は暗い表情から一転、満面の笑みを浮かべると、親指を立てた。

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数か月後。

目的地に到着し、【コウヘイ】を降ろすとタクシーは走り去った。

レストランの入り口には丸太で作られた看板。

「こんなところにレストランがあるなんて…」

K田からの指示通り、【コウヘイ】は予約の一時間前に到着した。

家族には仕事で急遽行けなくなった旨、伝えたが、残念そうな素振りを見せることなく、いつも通り淡白な反応だった。

この調子で本当にサプライズが成功するのか一抹の不安を感じていると、レストランの入り口が開き、K田が小走りで近づいてきた。

「【コウヘイ】さん、今日はよろしくお願いします!精一杯、頑張らせていただきます!」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「本日の詳しい流れを説明しますので、お店の中にどうぞ」

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店内には解読不能な文字が書かれた掛軸、派手な龍が描かれた絵画、日本刀や弓矢が飾られていた。

案内された先には非常に大きな円卓の中華テーブル。

中華テーブルの中央には鏡面仕上げの大きな花瓶が置かれ、カラフルな花々が生けられている。

「どうぞお掛けください。あ、飲み物はビールで良いですか?」

「え?あ、お願いします」

K田は小走りで厨房の方に向かうと、キンキンに冷えたビールジョッキを二つ手にして戻ってきた。

「それでは、本日のサプライズの成功を願って、乾杯!」

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数分後。

「…」

「どうしました?」

「これ、本当に上手く行きますかね…」

手渡されたタブレット端末にはK田が実際にサプライズをした時の映像が映し出されていた。

中華テーブルに座るK田の家族。

画面が暗転し、次の瞬間、中華テーブルの中央を突き破り、何処か見覚えのある露出度の高い衣装を身にまとったK田が飛び出した。

大声で叫びながら次々に奇妙なポーズをするK田。

それを見て凍り付くように動かなくなったK田の家族。

映像はそこで終わった。

「大丈夫ですよ!この後、大笑いでしたから!」

「…」

サプライズ無しで食事だけ楽しみたいと喉まで出かかったが、ここまで協力してくれたK田を目の前に【コウヘイ】は口を噤んだ。

「そろそろ準備しましょう!衣装に着替えてもらって…、あ、お手洗いは忘れずに済ませてくださいね。テーブルの中では用を足せませんから」

「あ、はい…」

「もしもの時の為に紙オムツも用意してありますけど、穿きます?」

「大丈夫です…」

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支度を終えた【コウヘイ】は中華テーブルの下に潜り、引き戸を開けると、人ひとりかろうじて入れる中央の空間に正座した。

「あ、これマジックミラーなんですね!」

中華テーブルの中央に置かれた鏡面仕上げの大きな花瓶の中は空洞になっており、【コウヘイ】の首から上は花瓶の中に位置する。

床も回転するようになっており、正座した状態でくるくる回すと、花瓶越しに周囲を見渡せた。

「こちらからは見えないので安心して下さい」

【コウヘイ】に向かって手を振るK田が見えた。

「あ、ご家族が到着したみたいです。引き戸は忘れずに閉めて下さいね!それではご武運を!」

厨房の方に走り去るK田。

しばらくすると店員の後に続いて【コウヘイ】の家族が入ってきた。

皆、家では滅多に見ることの無い、嬉々とした表情を浮かべている。

不安しかない【コウヘイ】のサプライズが幕を開けた。

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『飛び出すタイミングはメインディッシュの直前ですからね!』

K田から何度も念押しされた【コウヘイ】は今か今かと待ちわびる。

定期的にグルグルと回転しながら家族が美味しそうに食事する姿を観察した。

向こう側からは見えていないとはいえ、視線が合う度にドキッとさせられたが、【コウヘイ】が変顔をしても無反応の為、すぐに安堵した。

(それにしてもお腹空いたなぁ…空きっ腹にビール一杯だもんなぁ…)

眼前に広がる光景と食欲をそそる香り。

こんなにも待たされることになるとは露知らず、【コウヘイ】の空腹は限界に近づいていた。

お腹に力を入れたり、腹式呼吸で紛らわす。

「ぐぅうう~~~~!!」

【コウヘイ】の努力も虚しく、鳴り響くお腹。

(まずいっ…)

お腹を押さえるべき所ではあるが、咄嗟に口を押えてしまった。

周囲を見渡すと家族全員、食事を止め、無言になっている。

(まさか、聞こえた?!)

「何か聞こえなかった?」

「そう?」

「気のせいじゃない?」

再び食事を始める家族。

それからもお腹が鳴るか鳴らないかの攻防戦はメインディッシュの直前まで続いた。

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「お待たせ~!」

(えっ?)

聞き覚えのある声。

こちらに近づいてくるK田が見えた。

【コウヘイ】の妻が立ち上がり、K田に近づくとハグをした。

(えっ?!えっ?!)

状況が飲み込めず、【コウヘイ】は薄い頭をかきむしる。

K田は何事も無かったかのように、空いていた席に座った。

その直後、店員がメインディッシュをテーブルに並べ始めた。

【コウヘイ】は飛び出すタイミングを失い、ただただ呆然とした。

「いや~せっかくお誘いいただいたのに遅れてしまって申し訳ありません」

「いえいえ~アイツが来れなくなったので、良い機会だと思って…。こちらこそ突然お呼びして申し訳ないです」

談笑するK田と【コウヘイ】の妻。

「はじめまして。お母さんとお付き合いさせていただいているK田と申します」

「あ、はじめまして…。ちょっとちょっと、お母さん!やるじゃん!何処で知り合ったの?!」

「私の彼氏よりイケメンなんですけど~」

娘達の反応を見て自慢げな表情を浮かべる【コウヘイ】の妻。

「それにしても、アイツと比較するとまさに雲泥の差だねw」

「アイツほんと臭いし、見た目も気持ち悪いし、生理的に受け付けないんだよねw」

「お姉ちゃんは良いじゃん!お母さんに似て美人で!私なんてアイツに似たせいで背は低いし、目は小さいし、鼻は低いし…あぁ~早く整形したい!」

「でも、アイツに似てるおかげで可愛がられてるから良いじゃんw」

「全く嬉しくないしw」

「そういえば【お前は日本に収まる器じゃない!将来は必ず海外で活躍する!いつか海外に引っ越そう!】とか言われてたよねw」

「ほんと言ってること意味不明だよねw」

「そもそも英語とか無理だしw」

「お前一人で行って来いよって感じだよねw」

娘達からの罵詈雑言に【コウヘイ】は意気消沈した。

「ちょっと待ってください!」

会話を遮ってK田が口を開いた。

真剣な眼差しで【コウヘイ】の次女を見つめている。

(K田さん、フォローしてくれるのか…)

【コウヘイ】は少し救われた気がした。

「私、有名な美容皮膚科のY木先生と知り合いなので、整形する際は是非!モニター価格より安く施術可能ですよ!」

「ちょっと~ひどいんですけど~でも安いならお願いしちゃおうかな?」

(…)

耐えかねた【コウヘイ】は怒りに身を任せ、サプライズの実行を決意した。

(もう、どうにでもなれっ!)

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【コウヘイ】は中華テーブルを突き破ろうと渾身の力を振り絞り、立ち上がろうとした。

「痛っ…!あれっ?!」

中華テーブルの内側は発砲スチロールのような素材になっており、簡単に壊れそうに思えたが、全く微動だにしない。

再度、立ち上がろうと試みるも結果は同じだった。

どうやら、天板は普通の木材で、内側に発砲スチロールが貼り付けられているようだ。

「ちょっと!K田さん出れないんですけど!」

【コウヘイ】が大声を出し続けるも、まるで聞こえていないかのように談笑を続ける【コウヘイ】の家族とK田。

(あ、そうだ…)

中華テーブルの下から出れば良いと思った【コウヘイ】は手探りで引き戸の取っ手を探したが、内側にはそれらしきものが無い。

「すみません!K田さん!聞こえてますよね!出れません!あ!ひょっとして逆サプライズ的なやつですか?」

これはドッキリだと確信した【コウヘイ】は冷静を取り戻し、騒ぐのを止めた。

すると、【コウヘイ】の家族とK田が四方から中華テーブルの中央を見つめながら、薄笑いを浮かべた。

「本当にこの中にアイツがいるんですか?」

「はい。あ、見ます?」

頷く【コウヘイ】の妻。

K田は真っ白な手術用手袋をはめ、ドライバーを取り出すと、花瓶を固定していたネジを外し始めた。

【コウヘイ】の視界が開けた。

中華テーブルの中央から顔だけ出している【コウヘイ】を嬉々とした表情で見つめる家族。

「あれ~?今日仕事になったんじゃないの~?」

「こんなとこでサボってたらダメでしょw」

「真面目に働けよw」

「つーか覗きとか変態かよw」

【コウヘイ】は黙り込み、K田を睨みつけた。

「それでは皆様、事前にお渡しした連絡用携帯電話を回収させていただきます。こちらの袋に入れて下さい」

携帯電話を取り出し、K田の指示に従う家族。

「ありがとうございます。事前にお預かりした皆様の携帯電話につきましては、位置情報をオンにした状態で隠れ家レストランに届けてあります。本日、皆様は隠れ家レストランに滞在しており、こちらの民家には来ていません。いいですね?」

無言で頷く面々。

「これにて【円満離婚プラン】は完了となります。成功報酬につきましては別途ご連絡させていただきます。表に車を手配しておりますので、メインディッシュにつきましては隠れ家レストランにて引き続きご堪能下さい。料金につきましては旦那様から事前にいただいております」

笑みを浮かべる面々。

「本日はご利用ありがとうございました」

お辞儀するK田。

「じゃあね、あなた。今までありがとう」

「え?ちょっと待って?!意味わからないんだけど?どっきりだよね??」

【コウヘイ】の声だけが空しく響く室内。

K田が店内の飾り時計を見つめていると、店員と共にスーツ姿の男性が現れた。

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彫りが深く、中性的な顔立ちで容姿端麗な男性がK田に会釈する。

「いつもご利用ありがとうございます。お手数ですが、あちらに作業着を用意しておりますので、お着替えをお願いいたします」

スーツ姿の男性は無言で頷くと、K田と共に、別室に向かった。

【コウヘイ】が必死に叫んでいると、店員が近づいてきた。

「お願いだ!助けてく…」

店員は【コウヘイ】に猿轡を取り付けると、何処かに行ってしまった。

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しばらくすると、目元と口元が開いた覆面を被り、パンツ一丁の人間が二人現れた。

頭のてっぺんから足元まで透明なビニール袋のようなもので覆われている。

「それでは始めさせていただきます」

顔は見えないが、K田の声であることはすぐに分かった。

K田は壁に飾ってあった日本刀を手にすると、もう一人の人間、おそらく先ほどのスーツ姿の男性に手渡した。

日本刀を受け取った男性が無言で頷くと、K田は中華テーブルの上に乗り、開脚しながら【コウヘイ】の頭髪を掴んだ。

【コウヘイ】が必死に抵抗すると、薄くなった頭髪がぼろぼろと抜け落ちる。

「【コウヘイ】さん、もう少しの辛抱です!あ、もしかして残された家族が心配ですか?大丈夫です!あなたの生命保険で今よりゆとりある生活になります!成功報酬として私も潤いますけどねw」

【コウヘイ】はその後も必死に抵抗したが、やがて動かなくなった。

喉元をめがけ、何度も日本刀を突き立てる男性。

刃こぼれしても気にせず、しばらく左右にスライドし続けると手を止めた。

「お疲れ様でした。これにて【斬首プラン】は完了となります。オプションはいつも通り【唇】でよろしいでしょうか?」

無言で頷く男性。

K田は【コウヘイ】の頭部をテーブルに置くと、手術用メスを男性に手渡す。

男性は手慣れた手つきで上唇と下唇を切除した。

店員が小走りで駆け寄り、液体が充満した袋に上唇と下唇を入れて封をすると、小型のクーラーボックスに収納した。

「これにてオプションの【唇】も完了となります。成功報酬につきましては別途ご連絡させていただきます。本日はどうもありがとうございました。またのご依頼をお待ちしております」

深々とお辞儀するK田。

男性はスーツに着替え、K田に会釈すると帰って行った。

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しばらくすると、人相の悪い二人組が現れた。

「ありがとうございます。その辺りに置いて下さい」

K田の指示に従い、二人組は抱えていたもう一人の男性を床に下ろした。

床に寝転がる男性の意識は朦朧としており、両腕には痛々しい注射痕が多数見受けられる。

K田は先程の日本刀をその男性に握らせると、床に放り投げた。

「これにて【廃棄プラン】は完了となります。成功報酬につきましては別途ご連絡させていただきます。本日はどうもありがとうございました。またのご依頼をお待ちしております」」

二人組は慌ただしくその場を去って行った。

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しばらくすると、ポリタンクを手にした店員が戻ってきた。

「ありがとうございます。その辺りに置いて下さい」

店員は床に寝転がる男性の隣にポリタンクを置いた。

K田はポリタンクの持ち手を男性に握らせ、ポリタンクの表面も何度も触らせた。

続いて、ライターを男性に握らせた。

「これにて【再出発プラン】は完…いえ、もう一仕事ありましたね。成功報酬につきましては終わり次第…」

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『続いてのニュースです。昨日、覚醒剤取締法違反の疑いで指名手配中の〇〇容疑者が、××市の民家に押し入りました。通りかかった男性が助けに入り、民家の住人はその場から逃げ出せましたが、〇〇容疑者は日本刀で男性を殺害後、室内に灯油をまき、火をつけました。民家は全焼し、焼け跡からは〇〇容疑者と通りかかった男性とみられる二人の遺体が見つかりました』

『民家の住人からコメントをいただいております』

『本当に怖かった。あの男性が来てくれなければ私はきっと殺されてた。助けていただき本当にありがとうございました』

『現場からは以上です』

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ミオは【コウヘイ】の概要を話し終えると、中華テーブルの中央に置かれた花瓶を見つめた。

「まさかね…」

「お父さんそこにいるの?」

『コン、コン』

「え…」

中華テーブルの下からノックするような音がした。

「嘘でしょ…」

『コン、コン』

再びノックする音。

「お父さん、閉じ込められてるの?」

『コンッ、コンッ、コンッ、コンッ、コンッ!』

激しくノックする音。

ナオとミオが怯えた表情を浮かべていると、母親が口元を押さえながら笑っている。

「何がおかしいの?」

「いやね、まさかひっかかると思わなかったから。私が下からテーブル叩いてただけだよ」

『コン、コン』

「ね?」

母親はペロッと下を出してウインクした。

「ちょっとお母さんいい加減にしてよねw」

「信じられないんですけどw」

「ごめんごめんw」

「それにしてもお父さん遅いね。もうそろそろ着くかな?」

父親を待ちながら家族の晩餐会は続いた。

『コン』

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甘酸っぱさと腐敗臭が混ざったような臭いが漂う。

中華テーブルに並べられた食べかけのメインディッシュ。

母親は中華テーブルの上で突っ伏し、ナオは床に倒れている。

ミオは中華テーブルから少し離れた所で匍匐前進をするような体勢のまま動かない。

全員、白目を剥きながら吐血し、息絶えている。

「もう、出てきて良いですよ」

男性の声が聞こえたのか、中華テーブルの下から中年の男性が這い出てきた。

立ち上がり、中華テーブルの傍らに立ち尽くす中年の男性。

「気が気でなかったですよ。もしかしたら俺だけ殺されるんじゃないかって…」

「…」

「さっき、ミオ…娘が話してた【コウヘイ】って話、創作じゃないだろ?」

「さぁ?聞いてませんでした」

「あんたがK田なのか?」

「K田?知りませんね。それよりもどうなさいますか?【一家心中プラン】継続なさいますか?いざ、人が死ぬのを目の当たりにすると、やっぱり死にたくないとキャンセルされる方が多く…。ご依頼主様には最終確認させていただいております…」

「キャンセルだ…」

「承知いたしました。キャンセルの場合、ペナルティが発生しますが、よろしいですね」

「あぁ、構わん。どうせ金だろう?こいつらの保険金で払うさ。いくらだ?」

「いえ、お金は結構です」

背後から別の人間に羽交い絞めされる男性。

「えっ?ちょっと!おい!やめろ!」

手術用手袋を着用した手が近づく。

「当店は守秘義務第一。キャンセルするような方は信頼致しかねますので、今回のやりとりを【見聞きする際に使われた部品】につきましては、こちらで預からせていただきます」

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ファミレスのテーブル席に座る男女三人。

「…おしまい」

話を終えた男性は席を立つと、そのまま戻ってくることは無かった。

「はいっ?」

突然背後から肩を叩かれ、声が出てしまった。

(あれ?いつの間にか声が出せる)

振り向くとあからさまに不機嫌な表情の妹がいた。

ここで待ち合わせしていたのをすっかり忘れてた。

「いつ来たの?」

「だいぶ前からいるんですけど!先客の話が長そうだったか、後ろのテーブルでお茶してた!」

ドリンクバーのコップを持って空いた席に座る妹。

「それじゃぁ…つぎは…わたしのばん…」

「え?」

老婆が語り始めた。

「これは…とある…おとこんこのはなし…」

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