ある街に、Aという子供がいた。Aはよく夜更かしをしては親を困らしていた。
そんなAにはRという歳の離れたいとこがいた。
温厚なRは、Aにとって兄のような存在だった。
決して、怒らず声を荒げることはなかった。
しかし、一度だけRはAに怒鳴ったことがある。
それは、満月の夜にAが夜更かしをしたいと言った日のこと。
人が変わったようにRは怒り出した。
Rは鬼のように怒り、それを見た大人達ははびっくりして止めに入った。
しかし、それ以降はRは怒ることはなかったしAもAであまりRを怒らせないようにした。
Aが高校に上がる頃Rがザントマンの話を聞かせてあげる。
と言った。
ザントマンは、眠りを運ぶ妖精だよ。
Rは、優しく微笑んだ。
彼は子供に会いに来るんだよ。
とも言った。
Aは、妖精や妖怪が好きだったため会いたいと、はしゃいだ。
「それは難しいね。」
Aは、なんで?と尋ねた。
すると。Rは、微笑んだまま言った。
「夜更かしする悪い子の目玉を抜くからだよ」
と言った。
Aは、Rが冗談を言ってるのかと思ったが。
「もし、Aの目がなくなったら兄さんは悲しくて倒れてしまうな」
と、Rが悲しそうにいうので。
Aは、夜更かしをしないと約束した。
眠れない時には、手助けしてくれる妖精だよ。
とRは微笑んだ。
それにね。
とRが続ける。
「僕の右目は、ザントマンにくり抜かれたんだ」
と眼帯をつけた目を指差す。
Aは、硬直した。
その様子を見たRは、
なーんてね。
と言い笑った。
ただ、Rの片目は笑っていなかった。
今まで見たことのない表情にAは固まった。
それに、とRが口を開く。
「もし、危なくなったら。兄さんが助けてあげるよ」
と微笑んだ。
その笑顔はとても悲しげだった。
その日を境にAは夜更かし無いように心がけた。
ザントマンの話が怖かったのもある。
何より、Rの右目の眼帯の下の目が気になった。
あれは確か。
五年前からつけてたはずだ。
Aは、Rに聞いた。
「その眼帯の下、どうなってるの」
Rは、ただ微笑むばかりで何も言わなかった。
そんなある日、如何しても寝れない日があった。
体育の授業で足を捻ったせいで痛くて眠れなかった、ふとRの言葉が蘇る。
夜更かしするとザントマンが来る。
コンコンコン。
扉をノックする音がする。
Aは、行きたくないと思った。
冷や汗がツーっと背中に流れた。不意にRの声が蘇る
「夜更かしをしている子の元にザントマンは来るよ」
そして、玄関の鍵が勝手に開き扉が開いた。
袋を抱えた身なりのいい老人がいた、彼はAに尋ねる。
「夜更かしはいけないよ」
「、あっ。お、俺。足痛くて、寝れなくて」
と言うと老人は持っていた金具を引っ込め穏やかに微笑んだ。
「そうかい、そうかい。可哀想に、これで寝れるはずだよ。」
と言い、老人はAの目に砂をかけた。
その夜、Aはぐっすり眠れた。
翌日学校に行くと。
同級生のBが通り魔に襲われたそうだ。
左右の目玉をくり抜かれた、Bは所謂不良で夜な夜な街に繰り出してはスリや恐喝など犯罪まがいのことに手を出しタバコを吸い、酒を浴びるように飲み、何度も警察の世話になることは数え切れないくらいあった。
先生の話では、いつものようにBは街に繰り出した先で、身なりのいい老人に声をかけられたそうだ。
「夜更かしはいけないよ」
と。
Bは、老人に掴みかかり煩いと怒鳴ったそうだ。
「君は、いけない子だね。悪い子の目玉はとってしまおうね」
と言い目を金具でくり抜かれたそうだ。
その瞬間。
Rの言葉が頭をよぎる。
夜更かしする子はザントマンに目をくり抜かれるよ。
そういえば、Rがあまり夜更かしのことを怒らなくなったのは、5年前だ。眼帯をつけ始めた日と同じだ。
Rに聞いても、何も答えてくれず。
いつもと違う微笑みを浮かべ。
「知らない方が幸せだと思うよ。」
と笑った。
もし、Aも足が痛くないのに起きていたらBと同じように目をくり抜かれていたかもしれない。
そして、もしかしたら。Rも彼に持っていかれたのだろうか?
作者宵月の梟
妖精ザントマンをモデルに思いついた話です。