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長編10
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リサイクルショップ『K』

それは猛暑続く8月初めの昼下がりのこと。

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大学が夏休み中だった俺は、

パンパンに本を詰めた段ボールを三つ車の後ろに乗せて自宅を出た。

国道を15分ほど走ると左手にお馴染みの看板が視界に入ってくる。

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「あなたの街のリサイクルショップ『K』」

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ゆっくりハンドルを切ると、広々とした駐車場の向こうに巨大な濃い青一色に塗られた平屋建ての建物が忽然と現れた。

日曜日ということもあり駐車場はかなり埋まっている。

区画されたスペースに車を入れ停車すると予め準備していた台車に先ほどの段ボールを積み上げ、ゴロゴロと押し進んで行く。

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四角の中に【K】というショップロゴの入った自動ドアが左右に開くと、賑やかな広い店内が目の前に広がる。

奥まで続く幾列かの陳列棚に様々な生活用品が整然と展示されていて老若男女様々な人たちが思い思いに商品を吟味している。

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すぐ右手にあるカウンターの前で立ち止まり段ボールを次々とカウンターの上に置いていると、濃い青の制服姿の細身の女性スタッフが笑顔で現れ、

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「こちら買取りですね ありがとうございます。

それではこの紙に必要事項を書き込み願います」

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とA4サイズの用紙を手渡してくれた。

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椅子に腰掛けると、ボールペンで空欄を埋め始める。

すると、

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「買取り査定には約30分掛かります。

マイクでお呼びしますからこちらの番号札を持参してください」

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と「3」と印字されたプラスチックの札を手渡された。

用紙を記入し終えた俺はブラブラと店内を歩き始めた。

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電化製品食器類と目的もなくただ漫然と棚を眺めてどんどん奥に進むと、一段フロアーが低くなって家具のコーナーがあった。

ベッド、ダイニングテーブルそして箪笥と値札が貼られた家具を漫然と見ながら歩き進んでいくと、いつの間にか店の奥まで来てしまった。

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最奥の仕切り壁には鉄の扉が3つ並んでいて、真ん中はトイレでその右側は【搬入口】左側は【立入厳禁】というプレートがしてある。

ちょうど尿意をもよおしていたのでトイレで用を足した後に再び、入口の方に歩こうとした時だ。

何故か左隣の「立入厳禁」のドアが気になり周囲に気を付けながら、そっとドアノブを回してみた。

ドアは難なく開き隙間からそっと中を覗いてみる。

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中は意外と広く体育館くらいはあるだろうか。

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天井に並ぶ蛍光灯が白々と灯りを灯しながらジージーと寂しげな音を響かせている。

その下にはコンクリート剥き出しの寒々としたスペースが拡がっていた。

そこに十人ほどの男女と、その周囲を青い制服姿のショップスタッフ数人がうろうろしていた。

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男女は全員、胸や局部など身体の最低限の部分を黒い布の下着で隠しているだけだ。

年齢は20歳くらいの若者から初老の者までバラバラのようだ。

皆片手に黄色い用紙を一枚だけ持っていて、体重計に乗っている者もいれば身長を測ってもらっている者もいる。

また室内の奥まったところにはパーテーションで仕切られた一角があった。

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─何だこれは?スタッフ採用のための身体測定か何かか?

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何気に見ていると室内手前の方に見知った者が1人いることに気付き驚く。

俺が通っている大学の同期生、松山だ。

地方出身でアパート住まいの2回生で最近は全くキャンパスで見かけていなかった。

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黒い布パンツ一枚の松山は手前にある事務机の前に座っていて、その正面に座る若い女性スタッフがファイルを開きなにやら説明をしている。

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俺は耳に意識を集中する。

はっきりとは聞き取れなかったが、

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「B、H の場合は800万円、L の場合なら、、」

と聞こえる。

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車や家とかなモノを売ろうとしているのだろうか?

いや、松山にそんな資産らしきものがあるようには思えないのだが、、、

すると、

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「番号札『3』のお客様、買取り査定が済みましたので、買取りカウンターまでお越しください」

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店内アナウンスが耳に飛び込んできた。

俺はそっとドアを閉じると、なに食わぬ顔をして入口の方に向かって歩きだした。

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「あーあ、締めて2,000円なりか、、、まあ、そんなもんか」

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と一人ぼやきながら駐車場を歩き車に乗り込んだ時だ。

突然濃い青の大型ワゴン車が前を横切り、建物裏手の搬入口辺りで停車した。

車の側面には四角の中に【K】というあのロゴマークがあった。恐らくショップの専用車だろう。

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すると助手席から濃い青の制服姿のスタッフが降り、素早く後方のドアのところまで走るとガラリとスライドさせて開ける。

すると搬入口奥の暗がりからぞろぞろと男女が現れると次々にワゴン車に乗り込みだした。

皆白いガウンのようなのを着ている。

最後に乗ったのは、あの松山だった。

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俺は不審に思いながらもエンジンをかけると、ゆっくり車を動かし始めた。

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入学したての頃の松山は明るくて人当たりの良い奴だった。

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その頃までは俺も結構仲良くしていて、他の奴と連れだってたまに遊びにいったりもしていた。

だが初めての夏休み中に何気に立ち寄ったパチンコで大勝ちしたのをきっかけにどんどんはまりだしたようで、休み明けにはホールに入り浸るようになっていたようだ。仕送りやバイトの金では足らなくなって、やがて俺や他の奴らに金を無心しだし挙げ句の果てはサラ金にまで手をだすようになってしまったみたいだ。

二回生にあがる頃にはキャンパスでその姿を見かけることは殆どなくなっていた。

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聞くところによると、友人やサラ金会社からの支払い催促攻勢によりとうとう精神に異常をきだしてしまい、普段は殆どアパートの部屋に閉じ籠るようになってしまっているという。

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それから長い夏休みが明け10月の中期テストも終わり、学内も落ち着きを取り戻しだした11月のある日。

午前中の講義が終わって講義棟を出てからキャンバス内の舗道を歩いていると背後から声がする。

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「おい、中西!」

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振り向くと入学時からの友人の浜中が立っている。

少しいいか?と言われたのでベンチに2人並んで腰掛け話しだした。

前を通りすぎる学生たちのファッションはすっかり冬のコーデだ。

おもむろに浜中が切り出す。

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「お前、ここ最近松山見掛けたことあるか?」

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「いや、ないな。お前は?」

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俺は例のリサイクルショップの件は触れなかった。

彼は「俺もない」と一言呟きしばらく俯いていたが、再び続けた。

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「実はな俺、あいつと同じアパートに住んでいるんだけど、この間1階の集合ポストのところであいつのポストを見たら、郵便物が溢れかえっていたんだ。その時たまたま来てたオーナーのおっさんが言うにはあいつ家賃を数ヶ月滞納しているらしくて、それで何度となく呼び鈴を押したりドアを叩いたりしているのだけど一向に出てこないらしい」

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「そもそも、あいつアパートにいるのか?」

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俺が尋ねると、浜中は深刻な顔をしながら続けた。

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「そうなんだ、それでオーナーのおっさんアパート防犯カメラの映像記録を遡って、あいつのアパート退出の記録を調べたらしいんだ。そしたらなんと8月半ばの夜に部屋に戻って9月1日に一度だけ出掛けて戻ってからは一歩も外に出てないということが分かったらしい」

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確かリサイクルショップで松山を見たのは8月の初め。

それから10日ほどして帰ってから9月1日に一回しか外に出ていないというのか?

今日はもう11月の7日だというのに、、、

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「それでな、いい加減オーナーも心配になったようで、とうとう明後日の日曜に合鍵を使って中に入るらしい。

それで友人の俺も一緒に立ち会って欲しいと言われたんだ。もし良かったらお前も一緒に来ないか?」

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そう言って恐る恐る俺の顔を覗く浜中の目を見て俺はコクりと頷いた。

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そして日曜日の午後3時。

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俺、浜中、アパートオーナーのおっさん3人は、4階建てアパートの入口前で落ち合った。

オーナーを先頭にエレベーターホールまで歩くと、3人はそのままエレベーターに乗り込む。

3階で降り、ぞろぞろ廊下を歩き進んでいると突然先頭のオーナーが305号室の前で立ち止まった。

俺と浜中も止まる。

どうやら、この部屋のようだ。

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ドアポストを見ると、ここも郵便物で溢れている。

二、三抜き取って見た。

─プロ○ス、ア○フル、○○信販、、、

どこかで見聞きしたようなところから聞いたこともないようなところまで、恐らくは消費者金融会社の封書ばかりだ。

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「すげえなあいつ、一体何社から借りてたんだよ?」

俺が呆れながら呟くと、浜中がこっそり耳打ちする。

「あいつの実家さあ田舎の大地主みたいでな、恐らくそういう事情があるから単なる学生のあいつにも貸すところが結構あったんだろうな」

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するとオーナーがドア横にある呼び鈴を押す。

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─ピンポーン、、、

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何の返事もない。

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何度か呼び鈴を鳴らすと今度はドンドンとドアを叩きながら「松山さーん、松山さーん」と呼び掛ける。

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やはり何の返事もない。

そしてとうとう最後は「松山さん、悪いけど鍵開けさせてもらいますよー」と言いながらマスターキーをドアの鍵穴に差し込む。 

カチリという金属音がするとドアノブを下げ、ゆっくり手前に引き出した。

幸いドアチェーンはされていないようだ。

「松山さーん」と言いながら隙間から顔を覗きこんだその時だった。

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「う!」

オーナーが思わず呻き声を漏らし背後に仰け反る。

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「どうしました?」

浜中が心配げに声をかけた。

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「何だろうこの臭いは?」

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そう言って険しい顔でオーナーは一気にドアを開いた。

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「うわ!」

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「何だ、この臭いは?」

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生ゴミ臭と獣臭をブレンドしたような臭いが鼻を直撃する。

3人は各々鼻と口を手で押さえながら進んだ。

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目の前に伸びる薄暗い廊下。

どんよりした空気が漂っている。

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突き当たりにドアが一つ。

廊下沿いにも幾つかドアがある。

右側一番手前のドアだけが少し開いていた。

玄関口には踵を踏んだ汚れたスニーカーが一足、片隅にポツンとあるだけだ。

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「松山さん、すみませんがお邪魔しますよ」

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型通りの挨拶とともにオーナーは靴を脱ぐと、廊下にあがる。

俺も浜中もあがった。

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開いている右手の室のドアの隙間からオーナーが「松山さん、ここですか?」とうかがうように声をかける。

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「どうやら、臭いはここからのようです」

鼻と口を押さえながらそう言うと、ノブに手をかけ開いていく。

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そこは脱衣室だった。

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右手に洗面台があり、正面に洗濯機がある。

その上に何故だか一冊の預金通帳とA4の紙が一枚無造作に置かれていた。

そして左側には折り畳み式ですりガラスのドアがあるから、その向こうが浴室だろう。

浴室からはシャー、、、というシャワーの音がしている。

間違いなく臭気は強まっていた。

明らかに怪しい雰囲気だ。

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浜中がオーナーと俺の顔を交互に見渡すと真剣な顔で一回大きく頷き、折り畳み式ドアの取手を掴んで開けていった。

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「松山、、、」

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弱々しい声で呼び掛けながら中を覗きこんだその直後だ。

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「う、うわあ!!」

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突然けたたましい悲鳴とともに、浜中は後ろにしりもちをついた。

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「どうしたんだ?」

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言いながら、俺は駆け寄り浜中の両肩に手をのせる。

彼はブルブルと小刻みに震えながら、ただ浴室を指差している。

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俺は勇気を出して一気にドアを開いた。

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強烈な腐敗臭に混じって錆びた鉄の臭いが鼻をつく。

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そして中の情景が視界に入ってきた途端、冷たい何かが背筋を通り過ぎ両膝がガクガクと震えだす。

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それは目を覆うような惨状だった。

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壁の上方に引っ掛けたシャワーヘッドから浴槽に向けて水流が出続けている。

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浴槽には血だらけの全裸の男(多分松山)が仰向けに横たわり、シャワーからの水流を浴び続けていた。

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周囲を数匹のハエが忙しげに飛び回っている。

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松山は血の気を失った顔を天井に向けポカンと口を開けているのだが、その両目は各々あらぬ方を睨んでいた。

そして右手は浴槽の縁からだらりと垂れており、その先端には何故か指が一本もない。

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タイルも酷い惨状だった。

あちこち付着する赤黒い血痕の間に切断されたと思われる大小の指があちこち散らばっている。

その中に紛れて一本の刺身包丁そしてその傍らには生々しい赤黒い臓器らしきものが無造作にあった。

浴槽の中を見ると、

松山の胸から腹にかけては切り裂かれており、中から加工前のソーセージのような血にまみれた腸が飛び出していた。

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呆然と立ち尽くす俺の横でオーナーは携帯を片手に持つと、震える指で110に電話していた。

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警察の到着を待つ間に俺は、さっきから気になっていた洗濯機の上にあったA4の紙を手に取るとバレないようにそっとポケットに突っ込んだ。

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警察が現場に到着したのは午後4時過ぎだった。

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その後現場検証が行われている間、俺たち3人は事情聴取を受け結局解放された時は6時になろうとしていた。

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アパート前で2人と別れた後、帰りの地下鉄の中で俺はポケットからあの紙を出し目前で拡げた。

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その内容は、信じられないようなものだった。

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【緊急に現金が御入り用の方々へ】

~リサイクルショップKのプレミアムプラン~

Brain 【脳】……¥8,000,000

Heart 【心臓】……¥8,000,000

Lungs【肺臓の片方】……¥5,000,000

Stomach【胃】……¥5,000,000

Eyeballs【眼球の片方】……¥5,000,000

Liver【肝臓】……¥5,000,000

Kidney 【腎臓1個】……¥2,000,000

Intestine【腸】……1mあたり¥50,000

……

Fingers【指】……人差し指は¥500,000

その他の指は¥300,000

※※※※※※※※※※※※※※※

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激しい心臓の拍動を感じる。

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紙を持つ手が、いつの間にか震えていた。

その時俺は最後に松山を目撃したリサイクルショップでのことを思いだした。

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黒いパンツ一枚でパイプ椅子に座り、彼はショップスタッフから確か次のような説明を受けていた。

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「B、H の場合は800万円、L の場合なら、、」

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俺はその時ようやく、その意味が分かった。

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数日後に自宅に来訪した警察の話によると、

松山の解剖結果からの警察の推測は、今回は事件性が無く精神錯乱による発作的な自傷行為だと結論付けていた。

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ただ一つだけ不審な点は、ここ半年以内に何らかの外科的な処置により、彼の腎臓の片方が摘出されていることが分かったらしく、警察はここに関して現在調査中ということだった。

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Presented by Nekojiro

Concrete
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