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これは、、、
と或る、裕福なお屋敷に、
起こった出来事でございます。
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そのお屋敷には、
父と母、娘が2人と、息子が1人、
住んでおりました。
とても素敵な、素敵な、ご家族。
ご近所が、羨む程でございました。
父親は、某有名会社の社長、
母親もまた、お綺麗で、
それに嫁ぐに相応しい名家のお嬢様。
そのご家族は、何1つ不自由も無く、
この上なく、お幸せに暮らしておられました。
1番上の娘は、
母親に、とても良く似てございまして、
愛らしく、綺麗で、
ピアノのコンクールだの、
バレエの発表会だの、
学業の成績も、よろしくて、
大層、ご両親のご自慢でございました。
2番目の娘は、
長女こそ見劣りはするものの、
可愛く、愛嬌のある性格でございまして、
やはり、
可愛がられておりました。
しかし、、、
息子は、
勉強はできない、運動神経も良くない、
おまけに、容姿まで、、
あまり、お良ろしくは無かったそうです。
母親は、いつも、いつも、
父親に言われたそうでございます。
「あいつは、、、
あの子供は、
オレの、息子では無いだろう!?
他の男との子供じゃあ、ないのかっ!!」
「違いますっ!
確かに、あなたとの子供です!!
あなたも、お世継ぎを、、、と、
仰ってたじゃあ、無いですかっ!!
だから、、、
やっと産まれました、男の子、ですのに、、、」
母親は、
そんな父親が、憎くてたまりませんでした。
しかし、それと相反して、
息子の事を、
大層と、お可愛がりになられたとか。
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そんな矢先の、出来事にございます。
次女が、学校から帰る途中に、
事故に遭われたのです。
それは、、、
とてつもなく、とてつもなく、
酷い、酷い、
事故だったそうでございます。
すぐに、病院に搬送されたのですが、
次女の様態は、とても悪くございまして、
1度は、生死の境を彷徨われたとか。
その後、
何とか無事に、こちらの世界へと、
戻って来られたのですが、
事故の当時は、
右の顔は、グチャグチャでして、
ミンチ状態だったそうでございます。
右の腕は、、、
タイヤに、
巻き込まれて、しまわれたんでしょうか、、、
すでに、肘から先が無かったとか。
右足からは、所々、折れた骨が突き出し、
惨劇とは、この様な状態を言うのか、
そんな有り様だったそうでございます。
そうして、次女は、
かなりの間、
寝たきりの状態でございました。
右目はやはり、お潰れになったそうで、
左目だけの、、、生活。
右手も、肘から先がございませんし、
右耳も難聴に、
なってしまわれたそうです。
尤も、次女は、
右耳の外観も、
あんなに綺麗だったお鼻まで、
失われてしまいましたので、
母親は、整形手術で、
何とかお鼻だけでも、と、
思われていらっしゃいました。
しかしながら、
父親は、1度もお見舞いには来られなかった
そうでございます。
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次女は、その後、リハビリをされましたが、
しかし、、、
車椅子での生活を、余儀なくされたそうで
ございます。
おまけに、右手が、お有りになりませんし、
右目も右耳も、、。
次女は、
右利きで、いらっしゃいましたので、
家族が、ご協力なさいまして、
何とか手助けをされたそうでございます。
次女は、幾度となく、母親や姉、弟の前で、
「こんな状態で生きていたくはない、
死にたいっ、、、!!」
と、お可哀想に、
ポロポロと、涙を流されながら、
そうして、
お暴れになられたそうでございます。
父親は、
介護の手伝いどころか、
次女とお会いになる事も、全く無く、
長女には、
「他の家族と関わるな、
お前の人生が、台無しになる」と、
仰ったのだとか。
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それから暫くの時が経ちまして、
長女は、18歳になり、
高校卒業の年で、ございました。
次女は、16歳、
弟は、12歳と、なっておいででした。
長女に関して、申し上げますと、
「是非、息子の嫁に!」
そんな言葉は、
100程にあったそうでございます。
父親は自慢げに、
「今日は、
あの名家から、お誘いがあったぞ?
お前を唯一、褒めるとしたら、
綺麗で、気品のある、
1番上の娘を、産んでくれた事だけだな。
さて、、、
何処へ嫁がせようか、な、、
あの会社の息子に嫁がせれば、
うちの会社にも、、、」
などと、
父親は、まるで、
戦国時代を思わせるかのような、
お考えを張り巡らせておりました。
言わば、政略結婚でございます。
そうして、
そんな父親をご覧になり、
母親が、仰ったそうでございます。
「あの娘が、、、
本当に好きな人と、
結婚させてあげれば良いのでは、、
ございません、か、、?」
父親は、
ギロッと、母親を睨みつけました。
「お前の意見などは、
聞いてはおらんっ!!
ワシは、お前の事が好きで、
結婚した訳じゃあ、無い。
親の都合だっ!!
お前の事を、好きだと思った時など、
一瞬足りとて、無い。
お前は黙って、
この家の恥である、どうしようも無い、
残りの2人の子供の面倒を、
それだけを、見てればいいのだ!!
付け上がるなっ!!」
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母親は、
とても、とても、
お悲しく、おなりになりました。
( 少しだけでも、、、
ほんの、少しでも良いから、
私の事を、好いていて下さる、、
そう、思って、、いましたのに、、、。)
台所の隅で、
母親は泣いておりました。
「、、お母さん、、、どうしたの、、、?」
急に、、不意に、声を掛けられました。
それは、息子でございました。
母親は、
息子を抱きしめながら、涙を流しました。
その涙は、息子の頬へも伝いまして、
恰も、息子まで、
泣いているようにございました。
「お母さん、、、?」
「ごめんね、、、
何でも無いのよ? 早く、寝なさい?」
「僕も、もう12歳だよ。
何があったのか、聞かせて?」
母親は、、、とうとう、
息子に縋ってしまいました。
今までは、母親が、
父親から息子を守って来たと言うのに。
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暫く後、
息子が言ったそうです。
「お母さんは、、どうしたいの、、、?
お姉ちゃんを、
好きな人と結婚させたいんでしょう?」
母親は、
黙ってしまわれました。
「お母さん?」
「、、、、、、、。
、、お母さんはね、、、
お姉ちゃんが、
本当に好きな人と、結婚して欲しいの。
お母さんと、お父さんみたいな、、
結婚じゃあ無くて、ね、、、」
「、、、
お姉ちゃん、って、、好きな人いるの?」
「さぁ、どうかしら?
でも、、、
たまに、遊びに来る男の子は、いるわ。
お父さんには、内緒だけれど、、、。」
息子は、暫し黙られた後に、
そうして、
母親に、仰ったのでございます。
「全部さ、
お父さんが、、悪いんじゃあ、無い?
お母さんの事も、お姉ちゃん達の事も、
そうして、僕の、事も、、、。
お母さん、
ちょっと待ってて?」
息子は、
「これ、借りてくね!」
と、台所から2階へ、
駆け出して行かれたのだそうです。
「ちょっと!何処へ行くの!」
しかし、母親には、
もう追い掛ける気力さえ、、、
残っておりませんでした。
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それから、、、
彼此、30分程、経ちましたでしょうか。
息子が2階から、下りて来ました。
息子は、息を弾ませて母親の元へ行き、
こう言いました。
「お母さん!
もう大丈夫だからね? 安心して!」
それは、それは、嬉しそうに仰います。
「一体、何が大丈夫なの、、?」
母親は、不安げにお聞きになります。
息子は、答えます。
「全ての事が、だよ!!
ねぇ、お母さん!
サランラップって、凄いね!!」
( 、、、?
、、サランラップ、、、?)
「はい、ここに返しとくよ?」
息子はそう言うと、台所のテーブルの上に、
サランラップを置くのでした。
「 、、ねぇ、
、、何かに、使ったの、、、?」
母親の問い掛けに、
息子は、お答えになったそうです。
「うん!
僕も、もう12歳だからね。
じゃあ、もう寝るね。
おやすみ!」
あまり深くは、、
聞かない方が、良いのやも知れないと、
母親は思いましたが、
やはり、気になります。
2階へ、お行きになったそうです。
2階には、父親と長女の部屋が、ございます。
母親は、まず、
長女の部屋のドアをお開けになられました。
長女は、ベッドで、
静かに休まれています。
次に、
父親の、、、
いいえ、自分達の寝室のドアを、
お開けになられました。
部屋の中は薄暗く、
ランプの灯りだけが、
部屋を、照らしていたそうでございます。
自分の旦那は、
ロッキングチェアにゆらゆら揺られながら、
窓の外を見ておいでです。
「 、、、あ、なた、、?」
お返事は、ありません。
お返事が無いのは、
何時もの事でございます。
ふと、母親は、
床に落ちている物に、目が留まりました。
( 、、、こ、れは、、?)
それは、丸められたナイロンの様にも
見られましたが、
すぐに、
サランラップを丸めた物だと言う事に、
お気付きになれました。
そうして、旦那を見たそうです。
旦那は、、ロッキングチェアの後ろで、
両手が縛られておいでです。
サランラップの様な物で。
母親は、
旦那の前に、お行きになられました。
、、、、、、、、、!?
旦那のお顔には、
全面に、サランラップが張り付いており、
誰が見ましても、
お亡くなりになっておいででした。
( 、、、ま、さか、、あの、子が、、、)
すぐ様に母親は、息子の部屋に急がれます。
勢い良く、ドアを開けまして、
そうして、息子に、仰いました。
「、、あなたっ!!
お父さんに、、
何かっ、何か、したのっ!?」
「、、、ぅ〜ん〜ん、、、
、、お母さん、、、?
何〜?
、 、、僕、寝てたよ、、、」
母親は言います。
「あなた、、、
さっき、何かしたの、、、?
お父さんに、、、」
「あーーー、
、、お父さん、、、?
僕さ、学校の授業で習った事を、
お父さんに、言いに行っただけだよー。」
「でっ、あなたは、
お父さんに、何したのっ!?」
「えぇー、別に、何にもしてないよー
僕、学校で習った事が、嬉しくって、
それで、お父さんにも、教えてあげたんだ!
いつも、お父さんは、
僕の話なんて聞いてくれないから。
、、、ねぇ、お母さん、
僕、もう眠いからさ、、寝て良い?」
「、、お父さんを、殺した、の、、、?」
「えっ?
殺すって、何?
どう言う風にするの?
僕は、お母さんが泣いたり、
お父さんが、みんなにイヤがるような事を、
言わないようにしただけだよー。」
母親は暫くの間、
言葉が出なかったそうでございます。
「、、、もう、
お父さんに、会えなくなるのよ?
あなた、、分かる、、、?」
すると、息子は無邪気な笑顔で、
こう言ったそうでございます。
「うん!!分かるっ!!
、、、、、、
、、やっと、あいつが居なくなったね!
ね?、、お母さん?
クククッ。
ケ〜ケッケッ。
お母さん!嬉しいねっ!!
じゃ、僕、もう寝るねー、
、、、お母さん、おやすみ。」
そう言って、
息子は眠りに就いたのだそうです。
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その後、そのお屋敷がどうなったのかは、
わたくしも詳しくは、存じ上げませんが、
何でも、
父親が、急性心不全で、
お亡くなりになられたそうでございます。
長女は、お嫁にお行きになられ、
今のお屋敷には、
お3人が、住まわれて居らっしゃるのだとか。
今でも、お屋敷の方々が、
お幸せでいらっしゃると、良いのですが。
そんな、お話でございます。
作者退会会員