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長編8
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怪異

俺は卓也。大学3年生。日々の授業に追われながらも毎日をなんとか過ごしている、ごく一般的な大学生である。

「おい卓也!明日のテストの勉強、ちゃんとやってるか?」

「やべーよ。全然やれてねえ」

「うっし。今日は俺の家で徹夜で勉強すっか!」

「それ結局勉強しないオチじゃねえの?まあ行くけど」

「んじゃ決まりだな。部屋片付けないと‥」

こいつは優也。俺と同じ大学の3年生で、普段からまあつるんでる奴。試験前はこいつの家に泊まりこんで勉強会という名のゲーム会をよくやっている。

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「よく来たな。待ってたぞ」

「お前これほんとに片付けたのかよ」

「大丈夫だって。とりあえずゲームするか。やっぱり格闘ゲームは相手がお前じゃないとつまんなくてな」

「勉強しなくていいのか?」

「後でやるって。明日までまだまだ時間はあるんだから」

「まあ。とりあえずやるか」

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「やべぇ。もう23時やん」

「大丈夫だって。徹夜すりゃまだ時間あるんだから‥とはいえ流石に勉強するか」

「とりあえず飯作るわ。卓也も手伝えよな」

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「相変わらずお前の飯はうまいんだよなあ」

「だろ?家来てよかっただろ」

「勉強どうするよ」

「別に良くね?もう0:00やし日付越えてまった。夜更かしは体に毒」

「23:00までゲームやってた奴が今更なにを‥まあなんとかなるか。これまでの期間に勉強一応やってはいるし」

「な、お前裏切りやがったな?!勉強やってないんだろ?」

「いや、試験範囲全部覚えんのは無理だからもうやまかけて出そうな所だけ覚えた。外れたら終わりだけど、なにもしないよりはマシだろ」

「もう寝る。あ、布団はあるから勝手に使え」

「俺も寝るか‥なんか眠いし」

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「目が覚めちまった‥今何時だ?うわ2:30か。なんか飲んでもっかい寝ないと‥ん?あれはなんだ?」

最初はよく見えなかったが、それは確かに「人の生首」だった。状況はまるで理解できなかったが、俺らが飯を食べていた机に生首が乗っていた。しかも首からだけの。

「うわ‥」

俺は腰から崩れ落ちてしまった。動けない。転んだ拍子になにかを押してしまった。これが金縛りというものなんだろうか。 

その首はゆっくりとこちらを振り向いた。髪は短いが女だ。それも化粧が濃い‥顔の特徴は‥いや、そんなことを述べている場合ではない。しかもその女は、声を出してケラケラ笑っている。その首が俺の顔のすぐ近くに来ようとして‥

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「おい起きろ!テスト遅刻するぞ!」

「あ‥?テスト?」

「なに寝ぼけてんだお前!今日はテストの日じゃねえか!」

「いやお前そんなことよりもだな。昨日」

「わかったわかった。話は後で聞くから!にしてもおっかしいな。昨日確かに目覚ましかけたんだけど‥ならなかったのか‥?」

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あれは夢だったのだろうか。冷静に考えたらあんなことあり得る筈がない。俺は別に霊とかを否定してる訳ではないが霊感がある、と自称する奴はあんまり好きではないし、まさか自分が当事者になるとは考えもしなかった。となると、やはり夢を現実と間違えた可能性が高い‥いやにはっきりしていたが。

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そんなことを考えていながら臨んだ試験は、それに反してかなりの高得点だった。いつもは半分とれるか怪しい位の俺がこんな点数をとれたのはなんてことはない。たまたま勉強した所がそっくりそのまま試験に出たのだ。それも全部。俺は少し気分が良かった。いずれにしても、優也に話を聞かないとな。

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「試験結果はどうだったよ」

「最悪だよ。勉強全然やってないし当たり前なんだけど。お前は?」

「わりと。そんな事より、この前お前の家に泊まった時にすごい事があったんだけど」

「?」

俺はこの前の事を全部話した。

「お前それ夢を見ただけじゃねえの?俺3年間ずっとあそこに住んでるけど、幽霊話なんか聞いたことないぞ。俺は見たこともないし」

「そうなのかなぁ‥」

「気にしすぎだって。家賃だって普通だし、事故物件って訳でもないはずだぞ。なんなら大家に聞いてみるか?恥をかくだけだろうけど」

「いや。それはいいわ。すまんかったな」

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ところが、話はこれで終わらなかった。

それから1ヵ月位後の深夜に、俺は突然目を覚ました。当然、場所は自宅の俺の部屋である。

「参ったなあ目を覚ましちまったよ。今何時だ?うわ2:30か‥まてよ?前にもこんなことが‥」

俺の部屋には勉強机がある。ふとそこに目をやると、あった。同じ女の生首だ。二回目となるとあの時に比べ恐怖は少し薄らいだが、ゲラゲラ笑っている女の生首を見続けるのは気分の良いものではないし、生理的な恐怖もある。相変わらず体は動かない。女の生首がこちらを振り向き、飛びかかって来ようとして‥

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「うわ!」

「どうしたの?あんた今日も大学でしょう?遅刻するわよ。それにしても昨日は部屋で一人でゲラゲラ笑って、なにしてたの?」

「笑ってた?俺が?」

「そうよ~夜遅くに。まあ私はすぐに寝ちゃったけど、近所迷惑だからやめてちょうだいね」

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「って事があったんだよ。やっぱりおかしいて。なんかあるんだよ絶対」

「そんなこと言われてもなあ。大家に聞いたら逆に怒られちまった。アパートに文句があるなら出てってくれ!だと。現に、俺にはなんも見えないし。そもそもお前、あれより前にも結構俺の部屋来てただろ?その時はなんもなかったじゃねえかよ」

「そりゃそうなんだけど‥これからどうしよう」 「なんも言えねえよ。しばらく様子を見るしかないんじゃね?実害は無いみたいだし」

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それからしばらく、あの生首は出て来なかった。代わりに俺につきまとう女が現れ始めた。

例えば、大学内の廊下を歩いていると柱の陰から俺をにらんでいたり、俺がふと自分の部屋から外を見ると、違う家の陰から俺の家を見ていたり。結構な頻度で見かけるが、一体なにをしているのだろうか。別に見られて困るような事はしていないが、気分の良いものではない。数日で飽きると思っていたが、かれこれ数週間ずっと続いている。その内ちゃんと問い詰めなければ‥

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「あなた一体何なんですか?警察呼びますよ」

「それはこちらの台詞ですよ!私にストーカーみたいなことをして!」

「どういう事ですか?俺はあなたにつきまとわれて‥」

「逆です。私が行く先々であなたが私の事を睨んで来たんじゃないですか。いつも先回りして‥もう怖かったのなんの‥もしかして違うんですか?」

「これは状況を確認する必要がありますね。ちょっとそこの喫茶店で話をしましょう。あ、別に怪しいものじゃないですよ」

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女の話をまとめると、女は優也と同じアパートの違う部屋に住む大学4年生で、ある日を境に俺につきまとわれる様になったそうだ。話しかけられたりはしなかったが、今までこんな経験はなかったため不安になっていたとのこと。勿論俺に覚えはない。

「その、ある日ってのは‥」

「こんな話、信じてもらええないでしょうけど。私の研究の成果をまとめて、論文を書かないといけなかったの。だからその日パソコンで作業してて‥寝ちゃってたのよね。それで深夜に目を覚ましたら‥」

「ゲラゲラ笑う女の生首があったんですか?」

「どうして知ってるの?!」

「いや、その日俺も見たんすよそれ。自宅の俺の部屋で」

「うーん‥あなたも経験してるとなると、私の見た幻覚って訳ではなさそうね‥」

「一体なんなんでしょうこれ。因みに、それから現実でなにか変わった事はありましたか?」

「変わった事と言って良いのかわからないけど、その日から没データばかりの実験が上手くいくようになったのよ。お陰でなんとか論文にできそうで‥他にはとくに無いわ」

「僕もそうなんですよ。悪いことは特に無いんです。でもあなたの住んでいる所が優也と同じアパートとなると、やっぱりアパートに何かしら関係がありそうですよね?」

「それは私も考えたわ。私の方でも少し調べてみようかしら。差し支えなければ、成果を報告できる様にあなたの連絡先を‥」

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そんなこんなで連絡先を交換して、俺は彼女と色々と関わっていく事になった。出会い方が出会い方だったし、そもそも俺は女の人と連絡先を交換したことが無い。色々他の話もしていく内に、自然と仲良くなっていった。勿論、例の件に関する話も進む。

「結局、大家に確認しても無駄ね。知らぬ存ぜぬの一点張り。でも不思議なのは、この辺りで殺人事件が起こった、自殺したっていう記録もないのよ。他の部屋の住人にも聞いたけど、女の生首なんて見たこともないらしいし」

「僕の方でも調べましたけど、何もわかりませんでした。結局生首もあれ以来見てませんし‥因みに優也、あ、僕の友達なんですけど、相変わらずあの部屋で過ごしてますが、幽霊は見かけないそうです」

「私も同じ。そう言えば、あれ以来変な人につきまとわれることもなくなったわね」

「なんだったんでしょう本当に」

「ねえ。色々調べていく内に、こういった幽霊の専門家なるものが心霊相談をやってるっていう広告を見つけたのよ」

「逆に胡散臭くないですか?こういうのって」 

「でも、私達だってこんなめにあっている訳だから、話だけでも聞いてもらいに行かない?ここから近いし、値段も最初は無料だから」

「まあかまいませんけど」

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「‥で。あっしの所にやってきたと」

「あなた本当に幽霊の専門家なんですか?」

「別に専門家を名乗ってるつもりはないんですけどねぇ。まあその方が客入りがいいんで。あ、初回無料ってのもそのサービスの一つで‥」

「色々と聞きます。私達には何がとりついているんですか?あのアパートはどんな関係があるんですか?生首だけなんですか?笑っている理由は?」

「そーあせんないでくだせぇ。話は一通り聞かせてもらいやしたが、こっちからも質問が一つ。あんたら、この生首に遭遇してから実害はないんだよな?」

「そうですね」

「んで?試験が良かっただのデータがとれるようになったと良い事があったと」

「はい」

「さらに、これがきっかけであんたらはそこそこ仲良くなったと」

「まぁ‥」

「その幽霊に理屈をつけることはできるんすよ。何年も昔に、悲惨な境遇の女がいて、そいつは悲惨な境遇に負けないためにいつも笑って過ごしていた、でもある日‥」

「それで?」

「いや、これはあっしの想像。ほら、それっぽいこと言えばあんたらみたいな一般人は騙せるんすよ。適当な助言してお金を巻き上げることもできる。でも、あっしはまあ良心的な怪異の専門家だから、そんなことはしやせんよ。それに別段悪いことは起こらず、むしろ良い事が起こってる。下手に深入りせずこの辺で大人しくしているのが吉だと思いやすがねぇ。それとも、あくまでも真相を知りたいとおっしゃる?まあ解るわけねぇんですけど」

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