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幽霊は至る所にいる。
これは霊感の強い私からしたら常識である。
交差点でいつもすれ違う幽霊がいる。
この前夜中に道端でうづくまる霊がいた。
昨日は車を運転しているときに遭遇した霊を轢いてしまった。
帰り道に寄ったコンビ二で店員だと思って話しかけたら幽霊だった。
朝も夜も昼も、まるで人間のように彼らは日常生活に溶け込んでいる。
幽霊とは基本どこにいても遭遇してしまうけれど、生活する中で一つだけ安全地帯があることを私は知っている。
それはトイレだ。
トイレの個室の中であれば、家や会社に限らず幽霊を見ることはない。今までで一度もだ。
たまに先回りされて便器に座っていることもあるが、何故か私が入るとどこかへ行く。
家の中にいる男女の幽霊さえトイレには侵入してこない。
だからよくトイレに関係する怖い話を聞くことがあるが、あれは嘘だと思う。閉鎖的なトイレの中の空間を勝手に怖がっているだけだろう。
怖がるなんてとんでもない、人にも幽霊にも会わず一人で過ごせる場所であるトイレは私の聖域だ。
帰宅後、今日も私はつかの間の癒しを求めてトイレに一人籠った。
作者お礼ちゃん
語り手は幽霊のことを「まるで人間のように彼らは日常生活に溶け込んでいる」と言っています。普通の人間のように幽霊が見える、というならば日常生活のなかで幽霊と人間の区別をつけることはできるのでしょうか。そもそも語り手には本当に霊感などあるのでしょうか。
語り手は精神を病んでおり、周りの人間をもういない「幽霊」扱いすることで心の安定を守っています。文中にあった「家の中にいる男女の幽霊」とは語り手の両親のことです。また、語り手が唯一幽霊を見ないというトイレの個室の中ですが、トイレの個室には普通自分一人しか入らないので語り手の言う「幽霊」すなわち他の人は絶対にいるはずありませんよね。
語り手が言う「幽霊」が本当の生きている人間だと考えると、語り手が運転中に轢いた幽霊だと思っていたものは……