短編2
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ぷるぷる

祖父から聞いた話だ。

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じいちゃんがまだ子供だった時分は、この辺りも民家がまばらにしか建っていなくてな。そこここに森や林があったんだ。

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当時、八幡さまの裏手には池があってな、「雨の日に池に行ってはいけない」と言われていた。

「良くないモノが出るから」と。

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ある時、ある男の子が友達と一緒に、ことの真偽を確かめに行ったんだ。

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雨の日。

八幡さま。

裏手の池。

その場所に。

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池は降り続く雨にどんよりと濁り、周りを囲む木々の黒い影を静かに映していたそうだ。

ふたりは池のふちに立ってしばらく様子をうかがっていたが、何も起こらないので、やがて飽きて帰ろうと言うことになった。

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その時だ。

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不意に辺りが真っ白になって、轟音が鳴り響いた。

男の子が、雷に驚いてしまったことへの照れ隠しに笑いを浮かべつつ友達の方を振り向くと、そこに彼の姿はなかった。

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慌てて辺りを見回すと、岸から離れた池の中に、ぽっかり、彼の頭だけが浮かんでいた。

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いつの間に、どうしてあんなところに、と驚いていると、次の瞬間、透明のクラゲのようなモノが池の中から現れて、友達の口の中にものすごい勢いで飛び込んで行ったかと思うと、そのまま、彼の頭は水中に没したんだそうだ。

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男の子は泣きながら家に帰った。

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その友達はどうなったかというと、一週間ほど失踪した後、ひょっこり戻ってきた。

幸い怪我はなかったが、失踪前後の記憶もなかった。

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そんな友達に男の子は、「お前は良くないモノにさらわれて、中身をすっかり喰われてしまったに違いない。お前は一体何者だ」と詰め寄ったそうだ。

自分だけ逃げ出しておいて、ひどい奴だ。

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しばらくして、今度はその男の子が行方不明になった。

そして、二度と見つからなかったそうだ。

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「その時の『友達』っていうのが、じいちゃんのことだ」

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そう言って、私に向かってひきつった笑いを浮かべていた祖父も、先日亡くなった。

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葬儀の日、火葬の後でお骨を拾おうとしていた私たち親族は困惑した。

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祖父の骨が、ただの一本も見つからなかったからである。

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