長編10
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ルームシェアの怪

今住んでいる自宅に越す前に、同じ若い仲間とルームシェアで暮らしていたのは、エレベーター付き4階立てというなかなか大きな一軒家でした。この一軒家の持ち主の初老の男性は僕とは前から顔見知りで僕と同じような若い者達を共同でそこに住まわせて一人暮らしの資金がたまったら出ていってもらうと言うのをやってました。期限は3年。僕もそこのメンバーだった。なにかと色々な事がある家だった…

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異変はかなり最初の方からあった。

外出して帰って来てみたら、同じ自室の仲間が僕達が使ってる部屋の前にいてなにやら騒いでいる。仲間が僕の方を見るなり「大変やぞ❗俺らがいない時に誰か入り込んどる❗めちゃくちゃに荒らされてるがな❗」部屋の中を覗いて騒然とする「なんやこれ」僕らの衣服からなにから部屋の中の物がめちゃくちゃに散乱している。

「ドッキリかなんかのつもりにしたってやり過ぎやぞ」僕が仲間にそういうと、仲間は「そんな事するかい❗」の一点張りだったがおかしな事はまだまだ続く。

その家は入るのも出るのも入り口は1つだけ。

正面玄関の扉を暗証番号を入力してロックを解除し、扉の向こうにあるエレベーターに乗って2階に登る。その2階部分が僕らの住居スペース。つまりそこに入るのは僕達関係者だけと言う事。ある時仕事から帰って来た時、エレベーターに乗ろうしたら、その乗り際に僕とすれ違って降りていく女の人がいた。

新しいメンバーかなと思って、「こんにちわ」

と声をかけたのに返事がない。「今日から一緒に住むのに愛想のないこっちゃ」と多少心の中でムッとしつつも、そのまま自室に帰ってその日の夕食の時間、集まったメンバーを見てみるとさっきの女の人はどこにもいない。

「なあ今日入って来た新しいメンバーはどこなん?なんか愛想が悪い女の人やったけど」

それを聞いたメンバーの一人が、「なにいってんの?新しいメンバーなんかきてへんやん」

「さっき仕事から帰って来た時に確かにすれ違ったで」そんな会話を交わしていると別のメンバー達で、「いや、確かに今日新しいメンバーが来てたよ女の人だった。」「いや来てないよ」とあちらこちらで言い合いが始まったのだ。

結局家主の男性に確認を取ると、「新しい子は誘ってないよ」との事だった。こんな事がルームシェアで生活していた3年間で何度もあったのだ。しかも謎のメンバーが出現するバリエーションは豊かで、例えば共同の洗濯室で鉢合わせしたりさっきとは逆にこちらが出かける時のエレベーターで一緒になったりする。男だったり女だったり人相もバラバラ。

まだまだある。

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僕が体験したパターンだと、

そこはお風呂場も共用なのだがそこまで大きくなくて使用できるのは一人だけ。

そこで一人で体を洗っていると、後ろの方に気配がして振り向くと浴室の透明なドアの向こうの脱衣場に明らかに人影がある。

「なんやねんせかしなや。」あわてて体を荒い脱衣場にでるが誰もいない。というかちゃんと鍵をかけているのになんで入ってこれる?

他には廊下を両足だけが歩いていたとか言う人もいれば、みんなでしゃべっていたら明らかに声質がちがうどす黒い男の声が聞こえたり、2階にある部屋にいるのに窓から誰かが覗いていたという声が上がったりetc.…

ここまで連発して色んな事が起きるのに、僕を含めて3年きっかりで出ていく物が多かったのは、異常な家賃の安さ故。大阪の近郊にあり生活には困らない場所ながら家賃はなんと三万円。家族から離れながら一人暮らしの資金を貯めたいと思っていた僕らには理想的過ぎる物件だったのだ。まれに俗に言う見える対質の人達は3日と立たない内に出ていく事も珍しくなかったが、金に執着したご乱心モードの僕は3年間耐えきって見せた。しかしそんなアホな僕でも「もう出ていこうか」と心が折れそうになった事が2度程あった。

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ルームシェアでの共同生活を初めてから初の大晦日。その日、僕らは酒や食べ物等を皆で持ちより宴会をしていた。

カウントダウンを過ぎた後もどんちゃん騒ぎを続け、部屋に戻って横になったのは深夜2時を過ぎた頃だった。酒も入っていたからかすぐに寝オチしてしまった。

…そこからどれくらいたったかわからない内に体の違和感で目を覚ます。

「金縛りや…」体が固まってしまい全く動かない。そうしている内に、

カツ、カツ、カツ

足音が近づく。「こんな時間に誰が入ってきたんや?」足音は自分と同室のメンバーの方のベッドへ向かっている。足音が止まった。

「あいつももう寝てるよな?何をしてるんやろ?」やがて足音がこちらに向く。その瞬間気がついた、「こいつメンバーやないぞ。確実にあかん奴や」

カツ、カツ、カツ

足音が今度は僕の前に止まるといきなり手で顔を押さえつけられた。そしてもう片方の手で僕の体をあちこちいじり始めた。手の感触はとても冷たく気持ち悪く顔を本気で抑えつけられているので全く息が出来ない。「早く終われ❗終わってくれ❗」僕はそう祈るので精一杯だった。

やがて顔を抑えていた手の感触はなくなり、足音も部屋から去って行った。その後再び眠りにつき朝になり起きて見ると近くの部屋から怒声が聞こえる。

「正直に認めて謝り❗」「だから俺らはしらんって言うとるやないか❗」

同室のメンバーと怒声がした部屋の方に行って見ると女性のメンバーが泣いていてそれを庇うようにして泣いている女性と同室のメンバーの女性がそれを庇うように立っている。かなり怒っているようだった。僕らより先に来ていた男性メンバーの二人はかなり困惑している。

「なにがあったん?」僕が恐る恐る訪ねると怒っていた女性が、「あんたら二人にも聞くわ。あんたら二人の内どっちかが昨日の夜中に私らの部屋に入り込んで私らの顔を抑えつけたり体をさわりまくったりしたやろ❗」

このままいったら警察沙汰にされそうな勢いだった。昨日の事を話そうとした時、僕と同室の彼が先に話しだした「昨日俺もおんなじ事をされた。やった奴の顔を見たけどそいつの顔グシャグシャに潰れてて男か女かすらわからんかった」全員言葉を失くした。じゃあ昨日自分等の部屋に来たのがそいつだったのかと思うと寒気が止まらなかった。それが部屋に来たのはその一回切りだったがこれが自分が心が折れかけた出来事の一度目だった。

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二度目は僕がその家から退去する半年程前の出来事。同室のメンバーと共に部屋でくつろいでいた時だった。「入れてえな。中に入れてえな。」そう言いながらドアをノックする音がする。ドアを開けてみるとお隣のメンバー達だった。「今日は俺ら二人ともこの部屋に泊めてほしい。」「なんで?自分等の部屋に帰って寝たら良いやないか。」「今日はあの部屋で寝るのは恐ろしゅうてでけへん。」二人の話しによるとこんな事があったのだそうだ。

二人の内の一人が自分達がいる2階の部屋の窓から公園の方を見ていると赤ん坊を抱いた女性の姿が見えた。赤ちゃんを連れて夜の散歩かなと思っていたらある異変に気がつく。

「ここの家から公園までそこそこ離れてんのになんであの母親はここまでハッキリ見えるんやろか。ましてや夜の公園で電球なんかつけられてないのに服装までわかるやなんて」

彼の中である事が浮かぶ。

「あの母子、異常にでかくないか?あんなん絶対人間やないやろ。」

すると後ろから「おいあんまりみんなや」と彼と同室のメンバーが声をかけてきた。「あんまり見るなて、お前前からしってんたんか。」

「しってたよ。あの母子前から不定期で現れんねん。こっちが向こうの存在をわかってんの向こうに知れたら絶対なんか仕掛けてきおる感じがするからあえて無視してたんや」

その時二人同時に悪寒が走った。

なんだか部屋の空気が変わった気がした。

嫌な予感がして母子がいた公園の方を見てみる。

いない、さっきまで公園の方にいた母子がどこにも。

「こっちに来てるんやないか?どないしてくれんねん。」母子の存在を前からしっていたメンバーが怯えながら呟いた。

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「だから怖くなって今日はお前らの部屋で寝かせてもらおうと思ってきたんや。なっ?ええやろ?」

こいつらどんな動機で俺らの部屋に来とんねん…

僕はそう思ったし僕と同じ部屋のメンバーもそう思っただろう。

このまま部屋に追い返すか?この二人をどないしょう?

僕らが頭を悩ましていると、

ガタン❗ガタン❗バキン❗

彼らの部屋から物音がした。いよいよ中に入って来たのかもしれない。

さすがに帰れとはいえなくなり、二人を部屋に入れた。その後も二人がいた部屋から怪音が続き、こちらの部屋にもなにか起こるのではと僕は内心怯えていたが、特に何も起こらず2人がいた部屋からも怪音がしなくなりしばらくたった時、僕と同室のメンバーがタバコを酸いに行きたいと言い出した。先程の恐怖が薄れたのもあって

僕ら4人はタバコを吸いにベランダに向かった。ベランダで4人がタバコを吹かす。何気なく周りを見渡す内に僕の目に奇妙な物がうつった。メンバーの一人が椅子に腰掛けている。

そのメンバーの足元に白いモヤがある。そのあたりの空間とは別に独立した映像に見えた。

それはだんだん形をなしていく。

「人の…男の首や」

首は表情1つ変えず僕をじっと見ている。

唖然とする僕をよそに4人の内の一人、僕と同室のメンバーがとんでもない事を言い出す。

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「今からこの4人で怖い話しをしようや」

僕を含めた残りの3人が言い出した1人を一斉に見つめる。「こういう事あった後やから余計に雰囲気でるやん。なあやろうや」

「お前なにいってんねん。」

僕ら3人は必死で反対するが、彼は聞く耳を持たない。結局その場で全員が一人1話怖い話を話して部屋に帰ろうという事になった。1人目2人目が話し終わって次に僕の順番がまわってきた。いつの間にか僕が見た首だけの男は消えていた。僕が話したのは怖話に以前投稿した僕の話しによく出てくる霊感の強いS君と死んだ女の子にまつわるお話し。

話しもいよいよ佳境に入った頃怖い話しをやろうと言い出した彼がおかしな事を言い出す。

「なあ、その幽霊って女の子なん?」

「?S君は女の子やったって言うてたで。」

「嘘や、女の子やない。大人の男や」

「嘘やない。S君は女の子って言うてたで」

「そいつはもう死んでるはずや❗」

「S君は死んでないて。生きてるよ。死んでるのは女の子。出たのは女の子の幽霊なんや。大丈夫か?様子がおかしいぞ、お前」

「…1つ質問したいねんけどさ…お前がしてくれた話しが、全部お前が話したとうりならさっきまでお前の後ろにいた男はだれなん?」

僕らは話しを打ち切って逃げるように部屋に帰った。数日後、彼になんであのタイミングで怖い話しをしたいと言い出したのか聞いて見たが彼はわからないの一点張りだった。

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やがて入居期限の3年が来た。出ていく前に、家主の初老の男性に今までの事を話してみたら男性の反応は意外な物だった。

「そうか。お祓いしたんやけどな。でてしまったんや」どういう事かと話しを聞くとこの家は元々、男性の父親が所持していた物を父親の死後に男性が引き継ぎ、1階から3階に至る部分だけ大がかりに改修工事を施した物だと言う。

生前父親には4階の奥の部屋には近づくなと、何度も言われていたらしい。父親いわくあまりに良くない物があるのだという。

「改修工事の時に一応、霊能力者の人を呼んで1階から3階まではお祓いしてもらったけどでした4階は入るのも嫌やて言われてしもた。4階の部屋をなんとかしないと意味がないとまで言われたわ」

話しが終わりかけた頃男性が、「なあ君ら俺と一緒に4階を見に行ってくれへんか」僕らは絶対に嫌だった。今そんな話しを聞いて行くというアホどこにいるんや、という感じだった。

「いつかは見に行かなあかんと思ってたんやけど、俺一人じゃ心ぼそいんや。みんなでいったらなんにも起こらへんて。」

結局男性に押しきられる形で、僕らは4階に動向する事になった。

4階にはエレベーターでは行けない。男性の住居である3階から4階につうじる怪談があり、そこから4階に行くのだ。4階につくと長い間使われていなかったのは嘘ではないらしくあちこちホコリまみれだった。

ほとんどの部屋には特になにもない。

しかし1つの部屋の壁にかなり昔、40年も50年も前の昔の洋画のポスターが張ってあった。

家主の男性はポスターを剥がすと大きな穴がでてきた。男性が穴の中を懐中電灯のライトで照らしながら確認する。確認しおえると男性は僕の所に無言で近寄ってきた。

「おっちゃん、どないやった?なにがあったん?」

男性は「いや、これは、そんな」

答えに困っているようだった。

今度は僕が懐中電灯を受けとり中を覗いてみる。そこにあったのはちゃぶ台の上におかれた壺だった。壺にはお札が無数に貼られ線香までさされている。異様なのはそれだけではなかった。

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shake

その壺がある部屋の壁には無数の、

お札

お札

お札

お札

お札

お札

お札

お札

お札

お札

お札

お札

お札

お札

お札

お札

お札

お札

お札

お札

お札

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「もうここを誰かに貸すのはやめた方がええで…」

「うんそうする…」

その後家主の男性はそこを更地にしてしまい、現在あの家が立っていた場所は新しくアパートが立っている。大阪近郊にある住宅が密集した場所の話である。

Concrete
コメント怖い
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@愛と感動のオタク戦士「大佐」 様
早速のコメントありがとうございます。
とても興味深いお話でしたので。
つい、お節介をしてしまいました。
ご無礼をお許しください。
私の作品は、逆に、句読点が多すぎて、読者様にとって読みにくいかもしれないなぁと思いました。こちらこそ、愛と感動のオタク戦士「大佐」 様に喜んでいただけるような作品を仕上げたいと存じます。日々、精進いたしますので、これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

返信

@あんみつ姫
あんみつ姫さんありがとうございます
すいません、配慮が足りませんでした。
今後は頂いた言葉を制作の糧として執筆していきます。ありがとうございました。

返信

初めまして。
あんみつ姫ともうします。
いつも楽しく読ませていただいております。
本作、文字、文章と文章の間に、句点「、」が使われておりませんが、意識的にそのようにしていらっしゃるのでしょうか。
ストーリは、たいへん興味深く、内容も面白いため、つい読み進めてしまうのですが、出来れば、句点「、」を入れていただければ、もっと読みやすくなると思います。
書き手としての配慮というか、基本的なことだと思いますから。

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