これは東京のある女性から聞いた話です。
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恐ろしい事を経験しました。
その日の私は当時5歳の息子と一緒に図書館に行く約束をしてたんです。
恐竜の図鑑を借りたいとせがまれてましたから。
だけど朝イチで訪れた最寄りの図書館は閉まっていました。
どうやら館内整理日だった事を失念していた様で私は息子の為に別の図書館を探す事にしました。
区の中央図書館ならば空いてるかなーと思って自転車で向かっているとスマホに「この前訪れた○○公園はいかがでしたか?」というマップアプリの通知が届きました。
マップで確認すると普段は見向きもしない道路脇に有刺鉄線柵で囲まれた小さな公園があるみたいでした。
枝葉の多い街路樹のせいで日当たりも悪く地面は枯れた雑草が生い茂っていましたが古ぼけた遊具らしきものも映ってました。
ラッキー!
遠い中央図書館に行くのが面倒だった私は直感的に何かあると思ってマップアプリを頼りに公園を探し出しました。
イメージ通りの寂しい公園ですが私と息子を何よりも喜ばせたのはかわいらしい野良猫の存在です。
子猫が3匹じゃれて遊んでいたのです。
そして公園奥には角錐屋根の小綺麗な建物がポツンとあります。
とても小さな建物だったので最初は分館か、もしかして本屋さんだろうか?それとも大きめの公園トイレ?とも思いました。
あっ図書館だったらいいなーと思って玄関に近付いてガラス扉の向こうを覗くとそこは本当に図書館でした。
息子と一緒に10分位動画を撮りながら子猫とじゃれて遊んでから中に入りました。
本を手に取ってみましたが値札も貼って無いのでどうやら本屋さんでは無い様です。
しかしカウンターも無人で電気も点いていません。
小綺麗にしてはいますが全体的に古びた感じの寂しい図書館という印象です。
テーブルで恐竜図鑑を息子に読ませていましたが無人と思っていた図書館の奥の床に寝そべって何かをしている子供を発見しました。
見た感じ息子と同い年位です。
その子は画用紙に一生懸命何かを書いています。
何を書いてるの?と言おうとした時です。
おばちゃん!○○村の本無い?
突然の事に私は面食らってしまいました。
子供は更に続けます。
○○村って知ってる?僕ね!○○村の本を探してるの!
へぇー偉いね!坊やお勉強してるの?○○村について調べてるの?
と私が言うと
あのね!このとしょかんはね!奥にねあの奥のとこの部屋にね!
○○村のご本がいっぱいあるよ!それ読みたいんだボク!
でもねでもね僕だとね高くてね棚が届かないからね読めないの!
私はガッテン承知とカウンター奥の資料室に入っていきました。
すみませーん!子供が高い棚の本を読みたがってるのですが司書さんはおられますか?
ウンともスンとも聞こえず資料室も無人の様でした。
何で誰も居ないのだろう?
トイレの大きい方だろうか?
無用心だなーと思いながらも私は資料室の本棚を眺めていました。
すると「○○村郷土研究」「○年度○○村地名総覧」「○○村の歴史」「○○村の鬼退治伝説」「○○村民芸品展」という感じの○○村にまつわるタイトルの本を数冊見つけました。
確かに最上段にあり子供の背では届きそうもありません。
私は○○村に関する本を全て手に取るとあの子の元へと戻りました。
これでいいのかな?
ホントにこんな難しいご本読んでるの?
ボク凄いね!
おばさん、どうもありがとーございます!
と子供らしい元気な返事を貰った。
しかし分厚い郷土史料を目を輝かせて読みたがる子供なんて私は人生で初めて見ました。
チラッと読んだ内容も子供には難解に思えました。
将来地理学者でも目指すのだろうか?
それにしても○○村なんてこの辺にあったのだろうか・・・聞き覚えの無い村だから合併して今は無いんだろうなーとか恐竜博士の息子と遊びながら色々考えてました。
それから2時間位経ったでしょうか。
息子が眠いとぐずり出したのでそろそろ帰り支度をしていたら郷土史博士の子供が気になり様子を覗いてみました。
私は絶句した。
○○村の○○○○はころした○○○○はもうこのよにいない
○○村の○○はけした○○はもうこのよにない
○○村の○○○はなかったことにした○○○はこのよにない
○○村のやつらみんなくってやったみんなくってやったくってやった
画用紙一杯に紫色のクレヨンでビッシリと書き連ねてあった。
不気味を通り越して異様だった。
す、凄いじゃん・・・これ何かのゲームなのかな?
震える声で問い質したが子供は何も答えない。
代わりに・・・
「あ"ははははははは!み"んだ食ってやった!み"んだ食ってやった!○○のやつ"らみ"んだ食ってやった!」
さっきと同じ子供が出しているとは思えない野太い不気味な声で叫んでいた。
私が顔を背け走り出すよりも早くその子はこっちに振り向いた。
ほんの一瞬だけ・・・1秒も無かったと思うがこの世で見てはならないものを私は見てしまった。
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満面の笑みを浮かべていたがその顔色は血の様に真っ赤で歯茎には歯では無く鋭い牙がいびつに並んでいた。
眼光は鋭く虚ろで瞼は縦に裂け耳は尖っていた。
額には二つの突起がありその顔はまるで昔話に登場する鬼を連想させた。
私は腰が抜けてしまい息子を抱えて出口まで必死に這いながら逃げ出した。
鬼もゲラゲラと雷の様な叫びをあげて這いながら追ってくる。
私は床を這いながら必死に辿り着いたガラス扉を蹴破り血だらけになりながら地面を進み自転車にすがりつき立ち上がる。
体感的にはまだお昼の3時も回っていない筈だったのですが辺りはもう黄昏時だった。
昼間に遊具に見えたモノは雑木林の切り株や不法投棄され朽ち果てたゴミやタイヤばかりで遊具など皆無だった事に気付く。
私は寝息を立てる息子を自転車の荷台に放り込み近所の神社の方向へ一目散に走り出した。
あの野太い絶叫と地面を這う音で鬼が追ってきているのは後ろを振り向かなくても分かった。
神社に鳥居から自転車で盛大に突っ込んだ。
鬼に掴まれそうになったのか息子の手足には幾重にも引っ掻き傷が付いていた。
神主さんが驚いて社務所から飛び出して来たので事情を話すと警察を呼んでくれた。
息子と私は安心からかその場で大泣きした。
長々と事情聴取されたが結局警察では仮装した変質者や不良の悪質なイタズラとして処理された。
息子の傷を見せて説明しましたが信じて貰えませんでした。
夫にも話したが「面白そうだから肝試しがてら俺と一緒に行ってみよう」という信じられない事を言われた。
勝手に一人で行けと言ったら本当に一人で公園に向かった。
数時間後に家に戻って来た夫が青ざめた顔で
「あんなの公園じゃねーよ!何であんな寂しい雑木林に図書館なんかがあるんだ?」
「あんな人気の無いとこに子供連れて入るとかお前おかしいんじゃねーの?
それこそ変質者に誘拐されたらどうするんだ!母親としての自覚が足りないぞ!」
と逆に叱られました。
普段ぐうたらで愚鈍な夫ですら何かを感じ取る位にヤバい場所って事なんでしょう。
そして恐怖はこれで終わった訳ではありませんでした・・・
この本じゃないか?
○○村郷土研究
私は再び絶句しました。
例の図書館から借りてきたそうです。
何時間待っても司書が来ないのであの独特の雰囲気に耐えられず夫が自分で勝手に貸出手続きして持って来たそうです。
早速ページを捲ってみました。
○○村につつつつ肝ついて敬ぐぐぐぐ肉貪ったぐぐないないもももきえきえ
伝承には鬼に皆殺しにしされた鬼曳岩はかつて鬼に誘拐された子供供供供供
供供供供供供供供くわれ1400年前から伝わる鬼曳岩はかつて鬼に誘拐された
子供供供供供供供供供供供供供くわれ1400年前はかつて鬼に誘拐された子供
供供供供供供供供供供供供くわれ1400年前はかつて鬼に誘拐された子供供供
供供供供供供供供供・・・・
本はこういう感じの誤字や重複ばかり延々と続いておりとても読めたものではありませんでした。
ただ、この一部抜粋文だけでも禍々しさは十分伝わりますよね?
あの図書館の本は全てこんなものばかりだったそうです。
息子に聞いても子供向けの恐竜図鑑が意味不明な文字の羅列ばかりだったので恐竜の絵の方をずっと見ていたそうです。
もしかしたらあそこは図書館じゃなくて返品本を置いておく倉庫だったのでしょうか?
私が目を通した時はちゃんと読めたのに。
しかし私の体験は全て夢では無かったと断言出来ます。
そうです。
あの息子と一緒に撮影した子猫の撮影動画を確認したんです。
動画を再生した途端私は夫や息子と一緒に絶叫しました。
神社に逃げ込んだ時にどうして息子の手足に無数の引っ掻き傷が付いていたのか分かりました。
黒い無数の影や人の顔みたいなのがある白い影みたいなものが絶叫しながら息子の手足にまとわりついていたのです。
子猫なんてどこにも映ってません。
そして・・・・動画は唐突に図書館のガラス扉の方を向き直りました。
目を背ける時間などありません。
あの鬼がガラス扉の向こうからあの怒りの形相でこちらを睨んでいました。
そんな事もつゆ知らず動画の中の息子と私は図書館のガラス扉へ向かいます。
そんな、鬼はまだこの時は気付いて無かったでしょ?
女の勘でしょうか、この動画を見ている内に嫌な予感がしました。
私が玄関に走り出し園芸用の木槌を持ってリビングに戻った時には動画の中では鬼が物凄い形相で息子の右腕に牙を喰い込ませていました!
動画の中の私は尻餅をついて腰を抜かして呆然としています。
嘘!こんな事知らない!こんなの体験してない!なにこれ?何が起こったの?
私が混乱していたその時、絶句して画面に釘付けになっていた夫と息子が突如悲鳴を上げました!
息子の右腕が消えていたのです!
初めから息子には生まれつき右腕が無かったかの様に腕の先から指が消え失せ丸くなっていました。
私は殆ど脊髄反射的に無我夢中でスマホに木槌を振り下ろしていました。
shake
スマホが叩き割れると同時に息子の腕が元通りになりました。
まるで悪夢でも見ていたかの様に。
それからインターネットや別の図書館で調べた範囲なのですが○○村なんていう村は日本のどこにも存在していない事が分かりました。
あの本もスマホを破壊した後に忽然と消えていました。
あの本は、あの村は一体何だったのか?
私が鬼に本を読ませてしまったから○○村が消えてしまったのでしょうか?
一つだけ確かな事は今もあの公園に図書館は健在という事です。
今でも新しいスマホに「この前訪れた○○公園はいかがでしたか?」という通知が届きます。
なるべく見ない様にしているのですがどう見ても廃墟です。
これが公園とは思えません。
ちなみに息子が悪さした時には鬼さんの所へ行こうか?と言うと大体大人しくなります。
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