21年07月怖話アワード受賞作品
中編3
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格安の理由(短い話5)

「おいおい、マジかよ?

ここが1ヶ月、2万円だって?」

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そう言って俺は、グラスのアイスコーヒーを一口飲む。

午後からの講義が休講になり、特に予定のなかった俺は、クラスメイトの東山のマンションにお邪魔していた。

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地下鉄の駅までは、徒歩3分。

築2年の5階建てマンションの3階角部屋。

間取りは、3LDK 。

こんな好条件のマンション一室の賃料が、なんと2万円らしい。

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8帖程のゆったりしたリビングには、ベージュのカーペットが敷き詰められている。

壁際のソファーで、俺と東山は寛いでいた。

白のTシャツにジーパンというラフな格好の東山は「だろう。最初は俺も、信じられなかったんだよ」と、少し興奮気味に言う。

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「いやいや本当は何かあるんじゃないか?この部屋。例えば事故物件とか、、、」

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そう言って俺はちょっと疑わしげな目で、東山の横顔をちらりと見た。

彼はしばらくうつむき無言だったが、やがて俺の方を向いて、こう言った。

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「事故物件というか、なんというか、、、

最初の内覧の時に不動産屋の営業が言ったのは、ある一室のことを無視さえ出来れば、本当にお得な物件なんです、ということだったんだ。」

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「ある一室?」

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俺の最後の一言と同時に東山は立ち上がると、「ちょっと、こっちに来てくれよ」と言って歩き出した。

わけが分からず、彼の背中に従う。

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東山はリビングの扉を開けると、玄関に続く廊下を歩き、左側にある一室の扉をじわりと少し開くと、「まあ、見てくれよ」と言って俺の顔を見る。

言われるままに、扉の隙間から中を覗く。

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その部屋は6帖くらいで家具も何も無くて、殺風景だった。

照明器具は使えないのか、薄暗い。

奥に一つだけある小さな窓には、安っぽいレースカーテンがぶら下がり、そこから緩やかな午後の陽光が射し込んでいて、ゆらゆらと光の斑な文様を床に形作っていた。

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特にこれといった特異な光景は見当たらない

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「俺には普通の部屋にしか見えないけど」

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そう言って、俺は東山の横顔に視線を移す。

彼はじっと室内を見ながら「最初は俺もそうだった。でも入居して数日して気付いたんだ。」と呟くと、奥の窓を指差した。

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俺は窓の辺りに目を凝らす。

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そして彼の言うことがようやく認識できた瞬間、腰から背中に向かってぞわりと冷たいものが走った。

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初めは窓からの午後の日差しが強く、そちらに目がいって気がつかなかった。

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それはちょうど束ねた白いカーテンの傍ら。

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女がいる。

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カーテンと同じ白のワンピースを着た長い黒髪の女が何をするわけでもなく、うつむき、ただじっと立っている。

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俺は堪らず目を逸らし、「何だ、あれは?」と言って、東山の横顔に視線を移す。

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俺の言葉に東山は無言で首を横に振ると、「分からないよ。ただいつ覗いても、ああやって窓辺に一人、突っ立ってるんだ」と呟く。

それから一回だけ大きくため息をつくと、最後にこう言った。

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「かといって、こっちに何か悪さをするようなことはないみたいだし、この部屋使わないようにすれば済むことだしな、、、」と呟くと、ニヤリと笑い、扉を閉じた。

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Fin

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@あんみつ姫 様
ありがとうございます(^-^)

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