中編3
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別れ

おーい、A。オーイ。

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 親友Bの声がする。

 呼ばれて振り返ると、そこは、夕陽に照らされた一面のひまわり畑だった。

 遠くで、Bが手を振っている。俺たちの間には、幾重にもひまわりの壁が立ちふさがっていた。

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 ああーーここは以前、Bと一緒に旅行に行った時に、たまたま立ち寄った、どこかの田舎のひまわり迷路だな、と俺は思った。 

 ひぐらしの輪唱が聞こえる。

 Bの声がする。

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 おーい、A。オーイ。

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 俺は声のする方へと走る。

 背の高いひまわりに囲まれた小径を、右へ曲がり左に折れて、行きどまってはまた戻る。

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 おーい、A。オーイ。

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 声がだんだん近くなる。

 Bは気の良い奴だった。ゼミの飲み会で知り合って意気投合し、それからいつもつるんでいた。

 やがてC子という後輩女子を取り合って険悪になったこともあったけど、それも今では笑い話だ。

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 あの日。

 強い雨が降っていて視界が悪かった。

 俺たちの車はとある峠で道を踏み外し、谷底へと転落した。

 俺は痛みの中、助手席で目をつぶったままのBの額から、おびただしい量の血が流れていくのを見た。

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 おーい、A。オーイ。

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 陽が山際に暮れかけて、薄闇に包まれたひまわり迷路の向こう。

 血まみれで手を振るBの姿があった。

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 ドン!ドン!ドンーー!

 何かを激しく叩く音に目を覚ます。

 しかし目の前は闇だった。

 身体は、動かなかった。

 目の前に、木の板があることが気配でわかる。扉だろうか?

 扉の向こうに人の気配がする。

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 おーい……Aぇぇ。オーイィィィ……。

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 何故だ、B。あれは夢だったんじゃないのか?お前は死んだんじゃなかったのか?

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 Aぇ……、Aぇぇ……、Aぇぇぇ……!

 やめてくれやめてくれやめてくれ!

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 不意に目の前の闇が四角く切り取られた。

 光だ。

 光の中に逆光のBの顔があった。

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「ーーごめんな、A!ごめんなぁ!」

 頭に包帯を巻いた、くしゃくしゃな表情のBがそこにいた。

「ありがとうね、B君。Aの運転のせいで大怪我をした貴方が、お葬式にまで来てくれて……」

 今度は俺の母親の顔が覗く。

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「いえ、本当にすいませんでした!俺が運転を代わってやっていれば、こんなことには……」

 その言葉に号泣する母親。

「A君……なんでぇ……?嫌だよぅ……」

 震えるC子の肩を、Bの腕が力強く抱いている。

 おい、テメエなにやってんだ!

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「皆様、そろそろお別れの時間となりました」

 誰かの声がそう告げて、俺の顔の前にある小さな穴ーー棺の小窓を閉じた。再び闇に包まれる。

「これから火葬場に向かいます。皆様、お車の方までーー」 

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 おい馬鹿やめろ!俺はここにいる!やめろ、やめてくれ!

 テメエ、B!出せ!出せ!ここから出せぇぇぇ!

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 俺は声の限り叫んだが、それは誰の耳にも届かないようだった。

 小窓が閉まる前、Bの口元は確かに笑っていた。

 俺は深く絶望しながらも、誰にも聞こえない叫びを上げ続けるのだった。

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