中編3
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俺に感謝しろ

これは外国人の友人から聞いた話です。

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私は日本で働いて20年近くになります。

その日は母国の友人と一緒に日本観光をしていました。

その時はまさか友人があんな事になるなんて思いもしませんでした・・・

友人は昔から短気な方でしたが今にしてみると彼を旅行に連れて行った事がそもそもの間違いだったのでしょう。

ある地方都市のお寺を観光をしていた時です。

友人がいつもの軽口を言いました。

「大悪党が!日本人は我々の祖先を神として崇拝しイナリ神社を作ったのに今は倭寇安倍は独島を強奪しようとする!本当に盗人猛々しい民族性だ!」

そうだよな。

古代日本を建国したのは我が民族なのに。

「○日本人め!これ全部盗んだもんだ!○野郎め!」

今日はどうしたんだよ?

酔ってるのか(笑)

「お前は平気なのか?盗んだものなんだから母国に返却すべきだろ!」

友人は少し酔っている様だった。

私は観光案内カタログに目をやる。

違うよ。

「なに?」

確かにこの仏像は我が国から日本に伝来したタイプのものだが、この寺のものはかなり後の時代に日本人の仏師が作ったレプリカだ。

倭寇野郎はウザイがこの寺の仏像は倭寇が盗んだものではない。

「ハァ!?お前は本当に馬鹿なのか。日本人の作った観光ガイドマップなんて全部デタラメが書かれてるに決まっているだろう。これは全部我々から盗んで後から適当に由来を捏造したに決まってる!日本なんかにこんなに沢山仏像が残っている事をおかしいと思わないのか?」

酔った時の友人はいつもこうです。

理屈が通用しなくなる。

その日の夜、その寺の近くのホテルに泊まって友人と一緒に一服していた時。

「ちょっと便所に行ってくる。」

友人が席を外した。

何故か嫌な予感がして窓から屋外トイレの彼を覗いてみた。

浴衣姿のまま旅館の柵を越えてさっきの寺に入って行く彼の姿が見えた。

私は急いで着替えて寺に向かいました。

残念ながら私の嫌な予感は的中していました。

無惨にも地面に叩き落とされた狐像は頭部が砕けていました。

「泥棒日本野郎!祖先の怒りが分かったか(笑)」

何やってるんだ!これはやり過ぎだ!お前こそ祖先に謝るべきだろ?

「お前、何を怒ってるんだ?たかが石像一つでどうしたと言うんだ・・・」

ふざけるな警察を呼ぶ!

私は呆れ果てて110番通報をしようとした。

おかしい・・・繋がらない・・・

直後に背後に誰かの気配を感じた。

私は反射的に気配に向かって言葉を発していた。

「すみません。お寺の方ですか?

友人が酔って壊してしまって・・・

本当に申し訳ありません。

今、警察に通報しますので。

本当に申し訳ありません。」

振り返って確認した気配の正体は僧侶とも神主とも違っていた。

韓国の時代劇でも見た事がある様な古風な衣装に身を包んだ男性だった。

恐らく日本のものだとは思うが・・・

ただ彼は人間とは思えない程に血走った目をしていた。

「すいません。

本当に馬鹿な奴でして・・・

本当にすいません。

必ず償わせますので。」

「何だコイツ?どっかのカンヌシか?ふざけるな。俺は倒れてきたこの石像に潰されそうになったんだぞ?俺に謝れ!俺が怪我をしていたらどうする気だったんだ!俺に感謝しろ!」

そうですか。

それはそれは大変申し訳ありませんでした。

それでは貴方にお役目を与えましょう。

ピー

古風な衣装に身を包んだ男性はそう言うと指笛を吹いた。

すると友人が奇声を発し狐像の鎮座していた台座の上に飛び乗った。

古風な衣装に身を包んだ男性は満足そうに笑みを浮かべると寺の裏へと消えていった。

「すみません。必ず私が弁償しますので振込先を教えて頂けませんか・・・」

そう言って追い掛けたが寺の裏にあったのは大きな石碑だけだった。

立て札を読んでみるとどうやら渡来人に纏わる石碑らしく背筋が寒くなった。

友人の元に戻ってみると砕けた狐像は跡形も無く消えており元通りの姿となっていた。

私は狐像を凝視した。

その頭部は紛れも無く友人のそれだった。

友人の目は血走っていた。

その視線は必死に何かを訴えていた様だったが最早私にはどうする事も出来なかった。

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