これは妹の友達から聞いた話です。
プライバシー配慮の為に登場人物は一応全員仮名です。
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私の高校生の妹はオツムの出来が良く進学校に通っていた。
その頃に妹から俄には信じられない怖い話を聞いた事がある。
妹が言うには一学年上の先輩に地元でも有名な天才が居たという。
小学生の内から論文発表して特許を複数持っていたり図工の授業でも凄い絵を描いていたりスポーツも万能。
世界中の大企業や大学から色んな形でオファーも来ていたそうだ。
だけど妹の通ってた進学校には問題もあった。
イジメが結構深刻だった。
そんな時に先輩の幼馴染みが精神を病んで不登校になるという事件が起こった。
原因は言う迄も無いだろう。
だが学校側はイジメの隠蔽に走ったそうだ。
先輩も何とかしようと色々奔走してたらしいのだけどこの事態に至ってしまい遂にブチギレてしまった。
先輩は何をしたか?
何もしなくなった。
学校も研究も全てほっぽり出して幼馴染みに付きっきりになってしまった。
ガチギレ状態で「しばらくの間この世界全てとの絆を絶つ!絶対に許さない!」と言って海外の大企業と進めていた研究の特許も全部引き上げてしまったそうだ。
こうなると大騒動になってしまい激怒した何人かの社長さんや株主さんが先輩の家に怒鳴り込んで来たらしい。
先輩はその全てを面会謝絶したらしいが。
それからだと言う。
先輩が学校に来なくなって半年位した頃だった。
学校に見た事も無い先輩がやって来た。
妹は最初「誰だろう?転校生かな?」と思ったそうだ。
暫くして先輩の机に腰掛けているその転校生に声を掛けたそうだ。
「久し振り!」
という返事が妹に返って来た。
勿論聞いた事も無い声だった。
名前を聞くとソイツは先輩の名前を名乗った。
同姓同名?
他にも色々と質問してみたがソイツは自分を先輩本人だと言って譲らない。
SNSメッセージを送っても電話を掛けてもソイツのスマホに繋がる。
気味が悪くなってそれ以降はソイツと口も利かなくなった。
ソイツは先輩と同じ位に天才児だった。
先輩と同じ様に休み時間には大人達と一緒に研究や商談について話し合いを行っている。
ただ顔と容姿だけが先輩と違う。
いや、幼馴染みや妹に気持ち悪い位に関心を示さない事もおかしい・・・絶対にこんな奴が先輩の訳が無いと妹は言っていた。
妹はソイツの顔写真を引き籠ってる幼馴染みに見せてみた。
幼馴染みは確かにソイツを先輩だと言った。
妹は自分の頭がおかしくなったのかと思ったそうだ。
しかし納得出来ない。
妹は行方不明になった先輩の事を心配して悶々とした日々を送っていた。
そんなある日、おかしな場面を見てしまった。
「ユウコ!」
隣のクラスのユナちゃんがうちのクラスのユウコちゃんを呼んでいる。
「ユウコちゃんドッチやろ!」
「うん!」
他愛の無い会話の筈だった。
妹だけは見てしまったそうだ。
「ユウコ」と呼ぶ声を聞いた途端ソイツがユナに振り向いて手を振ろうとして咄嗟に何かに気付き止めた様な素振りを見せた事を。
コイツは先輩じゃない!
偶然だけどコイツの名前はユウコなんだ!
方法は分からないけどこのユウコが化けて先輩のフリをしてるんだ!
絶対に許せない!
そう妹は思ってソイツを睨んだ。
妹によればソイツは確かに妹の疑念の視線を察した様に気味の悪い言葉をボソリと放った。
「あ~あこんなガキ相手にバレちゃったか(笑)」
妹は昼休みにソイツを呼び出してカッターナイフを首に突き付けて脅しながら絶叫した。
「てめぇ!おいてめぇ!ユウコ!てめぇ先輩を!先輩をどうしたんだお前ェ!」
ソイツはこう言ったそうだ。
「・・・・はぁ(呆れと見下しの混ざった様な溜め息)
本物の先輩ちゃんは歯を全部抜かれて手足を切断された上で北の軍幹部さんか、でなけりゃ中国の大富豪さんの愛人になっている筈だわ。
今ごろ猛反省してるわね(笑)
だって当然の報いよ!日本人の癖に!
あれだけ責任ある立場にあったのにあんな下らない私的問題で世界中のクライアントを怒らせるなんて!
特殊な薬で親族や貴方達は騙せた筈なのにアンタにだけは効かなかったみたいね(笑)」
妹はその場に泣き崩れたそうだ。
ユウコは笑顔で続けた。
「あのねぇ・・・お嬢ちゃん(笑)
世の中には背広を着たゴロツキさんだって居るのよ?
世間知らずの小娘が当然の報いを受けたというだけの話よ。
泣く程の事じゃ無いわ(笑)」
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でも妹にそんな天才の友達が居たなら俺も知ってる筈だろって言ったんだ。
妹によればある日を境に記憶を害する薬を水道か何かにかなりの規模で撒かれたんじゃないかと・・・
嘘をつくタイプじゃ無いんだけど妹はこの話になるとムキになってこう言う。
先輩の存在が無くなった訳では無いけど何者かによってかなり情報が歪まされている。
先輩を知っている筈の人はもっと居た筈なのにとても多くの人が先輩の事を忘れていると言う。
作者退会会員