中編3
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日常怪談「カードキー」

ある日、偶然にも、俺の部屋のカードキーで、隣の部屋の開錠ができることを知ってしまった。

アパートの部屋の話である。

大学から帰ってきた俺は、徹夜明けの上に期末考査の試験を受けて相当に疲れていて、208号室の自分の部屋ではなく、間違えて隣の209号室の鍵口にカードキーを差し込んでしまった。

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しかし、いつも通りのカチャッという軽い音がして、その時まで自分の間違いに気づいていなかった俺は、大きなあくびをしながらドアを開けた。

その奥に広がっていたのは、別世界だった。

俺は慌ててドア横の部屋番号を確認して、ようやく自分の間違いに気づいた。

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しかし、俺はすぐには自分の部屋に戻らなかった。

ややあって隣の208号室の鍵を開け、背負っていたリュックサックを玄関に置いて、外に出るとまた鍵を閉めた。

そして、俺は再び209号室のドアを開けると、今度は躊躇なく部屋の中に足を踏み入れ、あろうことか施錠までした。

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その時の俺の胸は、これまでにないほど高鳴っていた。

というのも、この209号室の住人は、超がつくほどの美人だったのだ。

そして、いま、彼女は外出中で部屋にいないようであった。

彼女の部屋は、玄関の時点ですでに嗅いだこともないような甘い香りがした。

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俺は徹夜明けの目をさらにギラギラさせて、彼女の私物を漁るために部屋の奥へと歩き出した。

これは神様からのご褒美なのか。

そんな大それた考えに浮かれていたのか、それとも単純に手汗で濡れていたせいか、俺はふとした拍子に持っていたカードキーを落としてしまった。

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そのカードキーは床で跳ねた後、冷蔵庫と床のわずかな隙間に滑るように入っていった。

当然、俺は焦った。このカードキーがないと、自分の部屋に入れなくなってしまう。

しかし、俺の心配は杞憂に終わった。

冷蔵庫は少しの力であっけなく動いてくれたので、埃だらけになったカードキーをすぐに回収することができた。

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よかった、よかった。

気を取り直して、俺は奥の8畳半へと続く扉を開けた。

しかしその瞬間、さっきまでの胸の高鳴りは緊張からくる動悸に変わって、ただ呆然と目の前の光景に立ち尽くすことしかできなかった。

再びカードキーは床の上に落とされたが、しばらくは拾う気にもなれなかった。

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そこに広がるのは、部屋の壁に所狭しと並べて貼られた、俺の写真の数々であった。

通学途中の俺、食堂で友人と笑っている俺、バイトで店長に怒られている俺…。

あろうことか、恋人と手を繋いで歩いている俺の写真までその中にはあった。

そして、彼女の顔は黒のマジックで、ひたすらに塗りつぶされていた。

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その部屋の異常は、壁の写真だけではなかった。

床や机の上には、雑多なモノやガラクタが散らばっていた。

それはよく見ると、俺が愛用していた私物ばかりなのであった。

大学で紛失したと思っていたお気に入りのシャープペンシル、バイト先で盗まれた着替え用のTシャツ、なぜか忽然と部屋から消えた取手付きのマグカップ。

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俺は、落としたカードキーを拾い上げると、青白い顔をそのままに玄関へと引き返した。

いくら美人であっても、ここまでストーカーされていたと知れば恐怖しか湧いてこなかった。

209号室の施錠をして、震える手で208号室の鍵を開けた。

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ドアを開けると、さっき確かに置いたはずのリュックサックが、綺麗さっぱり消えてなくなっていた。

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