あるところに、めそめそと泣きながら歩く一人の少年がいた。
彼はさっきまで姉と口論をしていて、躍起になって家を飛び出してきたのだった。
なので特に行く宛もない彼は、とぼとぼとひたすら、目的もなく街をさまよっていた。
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すると、突然、少年の目の前には霧のようなものが広がり、彼は反射的に目を瞑った。
しばらくして目を開けると、とうに霧は晴れていて、道の真ん中に魔女のような容姿の女性が立っていた。
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「お前さんのいまの願いを、ひとつ叶えてやろう」魔女は不気味な笑顔でそう言った。
彼はさっきまで煮えくり返っていた姉に対する負の感情を、怪しげな雰囲気を醸し出す、目の前の彼女にぶつけてやりたくなった。
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そして、こうお願いした。
「この世から、姉ちゃんを消してください」
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「ほんとうにそれでいいのだな」
彼が頷くと、魔女はもう一度ニヤリと笑って、ぶつぶつと呪文を唱えはじめた。
そして、最初のような霧が辺りを包み、やがて晴れた時には、魔女も、彼も、そこからいなくなっていた。
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彼は、いなくなった。
実はこの瞬間、彼だけでなく、姉を"もつ"すべての人は突如にしてこの世から消えた。
義理の姉をもつ者も、また、妊婦のお腹の中にいる赤ちゃんまでもが、「姉」の弟妹であれば神隠しにあったように消えてなくなった。
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つまり、弟や妹だった人たちがいなくなることで、「姉」という肩書きは、この世から綺麗さっぱり消滅した。
また、別の場所では、「兄」からのいじめに耐えきれなくなった青年が、偶然出会った魔女に何かを訴えかけていた。
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…そして気がつけば、世界の人口は、1日のうちに半分以下になっていた。
かつて誰かの姉と兄だった人たちは、消えてしまった妹や弟を元どおりにしてもらうため、必死になって魔女を探した。
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しかし、それ以降魔女を見る者は、一人もいなかった。
なぜなら、魔女もまた兄をもつ、5人兄弟の長女だったから…。
作者退会会員