昼下がり
大型ショッピングモールの中にあるハンバーガー屋で、ポテトを食べながら、頭のおかしい友人が講釈を垂れ出した。
「ある人の言うところには、
幽霊や妖怪とは野生動物の代替品なのだそうだ。
原始時代、まだヒトが捕食されていた時代のこと
その当時、夜の暗闇で恐るべきは幽霊などの怪異ではなく、リアルな猛獣であった。
必然、ヒトは猛獣に襲われる諸条件を恐れた。
夜行性の肉食獣が活動する暗闇を恐れた。
狙われやすい、独りのときを恐れた。
猛獣が集まる水辺を恐れた。
時代が下り、ヒトは集落を形成し、柵や壁で覆われた安全地帯を構築した。
もはやヒトは捕食の被対象ではなくなり、ライオンさへ屠る圧倒的捕食者となった。
リアルの野生動物に狙われることが非リアルになったのである。
しかし、良いことばかりではない。
野生の猛獣を恐怖する本能だけは持て余すことになってしまった。
食事・睡眠・生殖の次に必要な生命維持装置である、「他の動物に恐怖する」という防衛機構は捨て切ることが出来なかったのだ。
街において猛獣に襲われることは絶対にありえない、というリアルな常識と、ひたすらに猛獣を恐れなくてはならないという本能のせめぎ合い。
その結果、生まれたのが「幽霊・妖怪」などの怪異である。
つまり幽霊は、「防衛機構の残渣」の求めに応じて巧妙に現実と矛盾のないように用意された、「猛獣の代替品」だったのだ。
ゆえに、幽霊が一番「活かされる」のは、まず暗闇、次に独り、そして(トイレや風呂などの)水辺である。これらは猛獣に警戒すべき諸条件と一致する。
幽霊がいるところには、本来ライオンがいるべきだったのだ。
ある人は、「幽霊なんて、常識的にありえないよ」
という。
ある種それは正しい。
しかし彼も、深夜の廃墟のトイレでは幽霊を怖がらずにはいられない。
なぜなら幽霊とは、「本能」がすでに常識との折り合いを済ませたうえで差し出してくる「実体なき恐怖そのもの」なのだから。」
長々と話し終わったあと、友人は満足気にジュースを飲み出した。
店も混んできており、店員もそろそろ帰って欲しそうな素振りをしている。
・・なるほどねぇ
その御高説も、まぁ、さも在りなんってところか。
しかし変だねえ。
僕達のテーブルにつっぷして
先程からニタニタと交互に僕達の顔を覗いてくる
この中年の坊主は、
はたしてライオンの代わりなのかねぇ。
作者退会会員
坊主ではなくて僧侶と書きたかったけれど、ドラクエ3の女僧侶(かわいい)を最初にイメージされると思い断念しました。