中編5
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店内アナウンス

─もうダメだ、、、

そろそろ限界のようだ、、、

頼む、頼むから、どこかに消えてくれ、、、

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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思い返すと、それは一週間前のことだった。

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大学は現在夏休みの最中で、俺は平日2日と週末、スーパーの警備員のバイトをしている。

郊外にある中規模のスーパーで24時間営業なんだけど、

仕事は午後10時から翌朝6時までで、内容は店内を周回しながら不審者がいないか?何か店内の施設に不備はないか?などを点検するものだ。

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その時俺は、午前2時から30分の休憩を取るため、一階精肉売場のバックヤードにある休憩室にいた。

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そこはコンクリートに囲まれた8帖くらいの殺風景な空間で、天井には安っぽい裸の蛍光灯が2つ並んでいるが1つはきれかかっていて室内は全体に薄暗い。

壁際に5台の古ぼけたロッカー。

そして奥まったところの窓際に薄汚れた広めのデスクが2つ。

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俺はそのデスクの1つの椅子に座り缶コーヒーを飲んだ後、ぼんやり煙草をふかしていた。

すると

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「あの、すみません、、、」

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背後から女のか細い声がする。

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驚いて振り返るといつの間に入ってきたのだろうか、ドアの前に女が立っていた

ありきたりの白いブラウスに地味なブラウンのスカート姿というところまでは見えたが、肝心の顔のところだけは何故か影のように真っ黒で、はっきりと確認出来なかった。

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どうしたんですか?と尋ねると、

女はその場に立ったまま、実は3歳の息子がいなくなったんですと言う。

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俺はマニュアル通り、まずは子供の特徴を聞くと、

デスクの上にあるマイクのスイッチを入れ店内一斉アナウンスを行った。

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定番のオルゴール音が鳴り響く。

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─いつも○○スーパーをご利用いただき、ありがとうございます。

迷子のお子さんを探しております。

特徴は、

白い野球帽に赤のトレーナーの3歳の男の子です。

見かけた方は、お手数ですが当店スタッフまでお声かけください。

繰り返します、、、

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その後必要事項を記入してもらおうと、用紙を出して振り返った時には女の姿はなかった。

どこ行ったのかな?と思っていると、しばらくしてからベテラン警備員のNさんが何やら凄く怖い顔で部屋に入ってきた。

このスーパーの警備員では一番古株のオッサンだ。

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Nさんは俺の隣の椅子に座ると、険しい表情でさっきの女の特徴を聞いてくるもんだから素直に答えると、こんなことを言い出した。

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「実はな、去年のちょうど今くらいのことなんだが、お前と同じくらいの大学生のバイトがいたんだよ。

ある土曜日の深夜、そいつお前と同じように、ここで休憩を取っていたんだ。

そしたら突然子供が迷子になったと、女が入って来たそうだ。

ありきたりな白いブラウスに地味なブラウンのスカート姿だったらしい。

顔ははっきりとは見えなかったそうだ。

そう、お前がさっき見たような感じ。

そして子供は3歳で、特徴は白い野球帽に赤いトレーナーということだったそうだ。

そしてそいつが店内アナウンスをした後改めて見た時には女の姿はなかったらしい」

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「で、男の子は見つかったんですか?」

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俺の質問にNさんは暗い顔で首を振ると続ける。

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「結局その日子供は見つからなかったので翌日にまた女が来た時、警察呼びましょうか?と言っても自分で捜すから大丈夫ですなんて言うんだよ。

その後も何度となく子供のことを聞きに、ここに来た。

そして終いにその女どうしたと思う?」

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俺は見当もつかなかったから首を振った。

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Nさんは1つ大きくため息をつくと、こう言った。

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「うちの店舗入口前で灯油を頭からかぶって火を点けたんだ。

もちろん間もなく亡くなった」

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「!!!」

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一気に心臓が激しく脈打ちだす。

生暖かく気持ち悪い汗が頬をつたっている。

小刻みに震えている両膝を必死に押さえながら、

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「いや、、、

だ、、だって、、、

さっきは確かに、、、」と、

しどろもどろに呟いていると、

Nさんは淡々と続けた。

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「それとな、これはその後訪ねてきた警察の話で分かったのだが、去年の夏初めて息子を捜してうちのスーパーに来た一月ほど前まで、その女は市内にある古い住宅街の一軒家で幼い息子と2人で暮らしていたらしい。

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ある日女は息子を家に残したまま、うちのスーパーに買い物に行ったそうだ。

不幸なことにその短い間に家が火事になり全焼した。

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和室の床に散らばっていたマッチ棒から出火の原因は息子の火遊びということが判明し、焼け跡からは変わり果てた姿の息子が見つかったという。

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近所の人の話では、その日を境に女の奇行が始まったらしい」

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「奇行?」

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「ああ。

来る日も来る日も近所の家々を息子を知らないか?と尋ねて周っていたというんだ。

朝から晩まで。

それでとうとう最後はうちのスーパーにまで尋ねて来た。

その時の女の容貌はかなりやつれていて、まるで老婆のようだったらしい。

そして終いには、うちの入口前で、、」

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そう言ってNさんは暗い顔で俯いた。

そしてまた俺の顔を見ると、再び話を続ける。

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「それと、もう一つ。

その時のバイトの大学生なんだけど、女が焼身自殺した後あたりから何故だかどんどん元気がなくなってきてな。

顔色も見るからに悪くなってきて仕事中いきなり喚きだしたり、ぶつぶつ『あいつらが来るんだ、あいつらが来るんだ』って独り言を言うようになってきたんだ。

そして最後はそれから一ヶ月位経った頃、自宅アパートのベッドで亡くなっていたらしい。

なんでも心肺停止の状態で見つかったということなんだけど、おかしなことに、その全身はほぼ真っ黒で、まるで大火傷にあったかのように皮膚のほとんどが爛れて水膨れを起こしていたそうだ」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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………

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そして、

そのバイトの翌日深夜から、

それは始まった。

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薄暗い6帖一間の殺風景な俺のアパートの一室に、玄関ドアを叩く音だけが鳴り響く。

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shake

ドンドン、、、

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shake

ドンドン、、、

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shake

ドンドン、、、

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ひとしきりドアを叩く音が続いた後は決まって聞こえるのは、

あの女のか細い声。

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「あの、すみません、、、

うちの子なんですけど、そこにいるんじゃないでしょうか?

まだ三歳なんです。小さいんです

お願いします、、、

あの子、

あの子、私が一緒にいないと、、

うう、、、」

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俺は窓際にあるベッドの上で、

布団を頭から被り芋虫のように丸まってぶるぶる震えていた。

この一週間ほとんど寝ていないし外にも出ていない。

そろそろ体力も限界になりそうだ

頭も朦朧としだしている。

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その時だった。

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かさかさという畳を擦る音がするので、布団の隙間から恐々外を覗いた。

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すると目の前を小さな人影がサッと走りすぎる。

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緊張した面持ちで、その影の行方を追い薄暗い部屋の片隅に視線を移した瞬間、

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全身が凍りついた。

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そこには、

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青白い月明かりに照らされ、

白い野球帽に赤いトレーナーの男の子が立っている。

醜く爛れたその顔で無邪気に笑いながら、無垢な瞳でじっとこちらを見ていた。

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Fin

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Presented by Nekojiro

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