母の運転する車の中、後部座席。
隣のシートに圧が来た。丁度高架橋の下を通った時だった。
何が気に入ったのか、スイッチになったのか、運悪くその隣に座る私は圧迫感で息苦しい。
ここは運転中の車内だ、逃げ場はない。
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「ねぇ誰か乗ってきた?」
少し無邪気さを残す助手席の妹の声に、私は泣きそうになった。なぜ言ったんだ、ああほら圧の持ち主が膨張している。
「だから言わなかったのに!」
思いの外自分の声が震えている。少し情けなさを感じた。
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「あー、走らせてたらそのうち降りるよ」
運転に影響が出ると困るんだろう、母から少し真剣さを感じた。
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でもそのうちでは困る。今すぐ降りて欲しい。
なんでこの車なんだ、なんで私の隣なんだ。
左手につけた水晶のブレスレットが心許ない。
守ってくれるのは分かる、でも怖いものは怖い。
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そんなことを悶々と考えていると、ふと圧が消えた。帰ったらしい。
「赤い服着てたね」
脅威は去ったと言わんばかりに妹が言う。さっきのことを私はまだ許していない。
「そうだねぇ」
事故を起こさなくて良かったと母が言う。
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隣にはあの圧の名残があった。
きっとあの高架橋の下に帰ったんだろう。
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「楽しそうだったから乗ってきたんだろうね」
でも、離れたら降りていった。
そう伝えると母は
「遠くまでは行けないよ。地縛霊だもん。」
と言った。
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今もまだ、彼女はあの高架橋の下にいるのかもしれない。
作者芽衣
昔話。
初投稿です。