逢魔時、または大禍時という言葉をご存知でしょうか。
夕暮れ、昼と夜の境目のことをそう言うらしいです。
そんな時間帯に体験した、少し不思議な話です。
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中学1年の私は、授業中には船を漕ぎ、放課後には部活動に打ち込んでいるような生徒でした。
家に帰るのは19時か20時。
21時過ぎに帰る時期もありました。
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帰りがそんな時間帯ですから、生きてる人間の方が怖いということを実感した出来事もありました。
けれど、ある程度の年齢になって、得体の知れないものもどうしたって怖いと感じたのもこの時期です。
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その中でも学校で体験した少し不思議な話です。
職員会議か何かで、部活動の解散が普段より早まった日のこと。
私はその日、お手洗いに寄って帰り支度が長引いてしまって、他の部員たちよりも遅れて下校のために移動しました。
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気づけば周りに誰もいない。
部室にも、廊下にも、さっき行ったばかりのお手洗いにも。
普段部員たちが利用している荷物置き場にも、何もありません。
しんとした空間に焦りを覚えました。
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早く帰らなければ、と部室から普段私たちが使っている教室の廊下に足を踏み入れた時、ふとある教室に目を向けました。
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カーテンで遮られているのにも関わらず、一面真っ赤な夕焼けに染まった机と椅子。
そこからぐんと伸びる影。
部活動で各教室に散らばり、各々練習する日々を過ごしていましたが、夕暮れにそんな光景を見るのは初めてでした。
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廊下まで伸びる、その幻想的な赤に圧倒されて、ふらりとその教室に進みます。
開け放たれた引き戸の前。
鮮やかな夕暮れの赤がその時の私にはとても魅惑的で、その空間に浸りたい、という漠然とした欲がありました。
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ぐ、と半身を傾け、更に教室の中を覗き込んだ時、ばたばた、と後ろで複数人の足音。
何か悪いことをしていた子供のように、その足音にびくりとして、教室から離れました。
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足音の持ち主は、やばいやばい、と口々に言い、早く帰ろうとする部員たちでした。
どこか遠くからも早く帰れと急かす顧問の声が聞こえます。
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あれ、私が最後だったはずなのに、とぞくりとして、ふと教室に目を向けます。
夕焼けに染まる教室。
けれどカーテンがそれを遮り、先程見た時のような鮮やかさはありません。
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少しの気味悪さを覚えて、慌てて校舎を出ました。
怒鳴る先生の声が、この時ばかりは有難かったです。
以来、あれ程綺麗な夕焼けは見たことがありません。
作者芽衣
昔話。よっつめ。
あまりガツンとした怖さがないので語り方を変えました。
夕暮れって本当に一瞬ですよね。