昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが村の外れでひっそりと暮らしていました
おじいさんもおばあさんも、心は大そう綺麗なものでしたが皮肉なことに顔が悪くて、村では「意地悪じいさん」と「意地悪ばあさん」だと噂されていました。
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そのため村の外れでひっそりと二人だけで暮らしているのです。
おじいさんもおばあさんも自分の顔が悪いことは自覚していましたから、子どもは作らないように生きてきました。
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「ばあさんや、よくワシのような顔の悪い男と今まで生きてくださった、ありがとう」
おじいさんは遠くを見つめながらそう言いました。
若い頃のことを思い出しているようです
「何を言ってられるんですか、おじいさん。私の方こそ選んでいただいてありがとうございます」
おばあさんがキチンと返事をすると
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「ワシはこんな顔だからエエ顔の人が寄らんかっただけやがな」
普通に聞くと嫌な言葉ですが、これはおじいさんの照れ隠しだとおばあさんは知っています。
「そんなこと言ったら私だってあなたくらいしか付き合う人がいませんでした」
こう返されるとおじいさんはいつも顔を赤くするのでした。
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こんな風におじいさんとおばあさんは顔は悪くて他人からは受け入れられなくても、二人で幸せに暮らしています。
「ばあさんや、散歩にでも出かけないか」
おじいさんがそう誘いました。
「今日は天気が良いので良さそうですね。お供します」
そうして二人は外へ散歩に行きました。
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田んぼの畦道を通り、森の中へ入って行きました。
木々の間から木漏れ日が差し、それを受けて川がキラキラと光っていて綺麗なものでした。
「やっぱり森の中は癒されますね」とおばあさんが深呼吸をして言いました。
「そうだなぁ、少し歩き疲れたからそこの切り株にでも腰掛けて休もう」
「はい、そうしましょう」
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おじいさんとおばあさんは切り株に腰掛けてしばらく休むことにしました。
おじいさんが川の水を手ですくって飲みました。
「ばあさんも水を取っておきなさい」
そうおばあさんの方を見て言いました。
「、、、おじいさん!」
おばあさんは驚いた表情をして少し大きな声を上げました。
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「ん?どうしたんじゃ?ばあさん」
不思議そうに尋ねます。
「おじいさん、あなた若返ってますよ!?」
「そんなはずは無いじゃろう」
おじいさんは水面に自分の顔を写して見てみました。
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なんと本当に若返っているではありませんか!
「ひぇー!」
とおじいさんは驚きながら尻もちをつきました。
「おじいさん、若くなられて羨ましいです」
「ばあさんもこの川の水を飲んでみなさい。ワシも若い頃のあんたを見たい」
おばあさんは嬉しくなり、水を飲んでみることにしました。
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おばあさんも一口飲んでみると若返ることができました。
「ばあさん、若返っているぞ!川で見てごらんなさい」
おじいさんは喜びながらそう言います。おばあさんは言われる通りに水面に顔を写しました。
「まぁ!本当に若返ってますね!」
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「ああ幸子さん、あなたは綺麗だ」
おじいさんは、おばあさんを名前で呼びました。
「幸子さんだなんて、おじいさんったら!急に若い頃の呼ばれ方をされたら照れてしまいます」
頬を赤らめながらおばあさんは返事します。
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「おいおい、まだ僕はじいさんになっていないよ。幸子さんもおばあさんじゃないだろ」
「そうですわね!智之さん、ごめんなさい」
おばあさんも若い頃の呼び方で名前を言いました。
「良いって、ここは景色が良いししばらく散歩しよう」
「良いですね」
再び二人は歩き始めました。若返ったことで走ったり飛んだりと遊びながら散歩します。
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やがて体が疲れ喉が渇きました。
「幸子さん、あそこの切り株に腰掛けて休みを取りませんか?」
「ちょうど休憩したかったところです。そうしましょう」
おじいさんとおばあさんは喉を潤そうと川の水を飲みました。
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「あれ、僕は何でここにいるんだろう?」
「あれ、私は何でここにいるんだろう?」
おじいさんとおばあさんは、それぞれ10歳くらいの子どもになっていました。
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「分からないけど、お家にかーえろ!」
そう言っておじいさんもおばあさんも、それぞれ別の方向へ帰っていきました。
二人はお互いに誰であるかを知らない様子でした。
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家に帰る道中、二人はそれぞれ疲れて川の水を飲みました、、、
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おじいさんとおばあさんが森の中へ入った日から村では怖い噂が広がっていました。
村の外れにある森を歩いていると気味の悪い顔をした赤ん坊が「オギャーオギャー」と泣いている
その赤ん坊に会うと川に引きずり込まれて殺される
といった内容でした。
村でその森は禁足地とされ、誰も近づく人はいませんでした。
作者カボチャ🎃