中編4
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「怪」転寿司

《注意》

近々回転寿司に行かれる予定の方には閲覧をお薦め出来ませんので、悪しからず。

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初春の頃のこと。

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会社ビル前にある某有名回転寿司チェーン店が

「A5ランク黒毛和牛にぎり90円」という春フェスをやっていたので、昼休憩の間に行くことにした。

平日だったがやはり店内はかなり賑わっていて、俺と、同僚でグルメのM子は、待合室で整理券を手に待っていた。

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「黒毛和牛のにぎりが90円なんて、楽しみ!」

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隣に座るちょっと太目なM子が、わくわくした様子で微笑む。

すると程なくして呼び出しのアナウンスが鳴り、俺たちは指定されたカウンターの席に座る。

見渡すと、ホール内を縦横に走るレーンの上を、様々な種類の寿司が、沖合いを一列で進むヨットのようにゆったりと進んでいた。

M子が慣れた手つきで液晶パネルを操作して、取り敢えず黒毛和牛にぎりを3皿ずつ、あとは適当に他のにぎりや味噌汁とかをオーダーする。

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しばらくすると本日のお薦め「黒毛和牛のにぎり」が、レーンに乗せられ流れてきた。

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「わぁ、キレイ」

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M子が感嘆の声を出した。

ほんのり桜色の肉肌に白いサシが仄かに入っていて、見るからに鮮度が良さそうなのが二貫も並んでいる。

これが本当に一皿90円なのか?と軽い感動をおぼえながら口に入れると、一瞬でとろけるような食感と上質な味わいが口内に広がった。

M子も目を細めながら満足げに食べている。

しばらく二人で食の快楽を堪能している時、いきなり隣席から声がした。

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「俺は黒毛和牛のにぎりをオーダーしたんだ。

なのに、何でこんな変なのが来たんだ?」

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サラリーマン風の男がホールスタッフに、何かクレームをしているようだ。

チラリと見ると皿に乗っているのは、なにやら肌色の固形物(ホタテ貝?)どう見ても黒毛和牛ではない。

どうやらオーダーミスのようだ。

スタッフの女性は困ったような表情で何度も頭を下げていた。

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再び食べていると、

「ねえ、ちょっと、これ見てよ」と隣のM子が顔をしかめながら、目の前に置かれた皿の一つを指差す。

黒毛和牛にぎりのようなのだが、肉の色はどす黒く、質感も明らかに他のと違う。

そして良く見ると、シャリに血糊みたいのが付いている。

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「うぇ、何これ、気持ち悪い」

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そう言って彼女は、その皿だけ手を付けなかった。

すると背後のカウンターから、スタッフを咜りつける声がする。

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「おい、シャリに血みたいのが付いてるぞ!

お前んとこは、ちゃんと衛生管理してるのか?

店長呼べ、店長を!」

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「申し訳ございません。店長は本日休みでございまして」

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振り向くと初老の男が、ホールスタッフの女性に苦情を言っている。

どうやら店長が不在のようだ。

こんな大事なイベントの日に休むなんて、ここの店長はあまり仕事熱心ではないようだ。

さらに、その向こうのカウンターからも、女性のヒステリックな声が聞こえてくる。

終いにはあちこちから悲鳴めいた声まで聞こえてきた。

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─きゃっ!

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─ひ!

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─うわっ!

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一体、どうなってるんだ、この店は?

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などと思っていると、最後のオーダー品が流れてきた。

手に取り、カウンターに置いた途端、

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「ひ!」

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M子が小さな悲鳴を上げた。

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背筋に冷たい何かが走る。

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俺が最後にオーダーしたのはマグロだった。

でも目の前の皿に乗っているのは、それとは似ても似つかぬものだ。

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━おいおい嘘だろ、、、何でこんな、、、

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きちんと並ぶ二個のシャリの上に乗っているのは、

5センチほどの長さの黒髪の束。

よく見ると、白髪も混じっている。

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込み上げる怒りと吐き気で口を押さえながら、堪らずスタッフ呼び出しボタンを押したのと同時くらいに、店内アナウンスが聞こえてきた。

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「🎶🎶🎶~~~

  🎶🎶🎶~~~

本日は当店にご来店いただき、ありがとうございます。

誠に突然で勝手な申し出になるのですが、諸般の事情により、当店、この時間を持ちまして営業終了とさせていただきます。

お楽しみのお客様には、本当に申し訳ございません。

なおオーダーミスのもの、もしくはオーダー途中のものにつきましては、全てキャンセルということで、、」

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あちこちでどよめきや怒号が起こり、ホール内は一時騒然となった。

俺もM子も仕事があるから急いで会計を済ませると、早々に店を出た。

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その日の夜、会社帰りに回転寿司店の辺りを見ると、広い駐車場に、パトランプを回すパトカーが一台だけ停まっていた。

どうやら警察沙汰にまで及んだようだ。

店はそれから程なくして閉店となるのだが、その約2週間後の地元紙の社会面には、次のようなショッキングな事件の記事が紙面を飾っていた。

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昨日未明警察は、F市K町にある回転寿司チェーン店の寿司職人荒木田忠夫(28)を、殺人と死体損壊、及び威力業務妨害の罪で逮捕、起訴した。

調べによると荒木田容疑者は、かねてから一方的に思いを寄せていた同じ職場の女性が、既に同店の店長と交際していたという事実を知り、逆上。

4月1日深夜未明に他のスタッフが皆帰った頃を見計らい、一人になった店長を店内バックヤードで殺害。

その場で解体すると、ビニールに入れ、普段使わない業務用冷蔵庫に保管した。

そして1日から始まった店の春フェスティバルの日には、解体したパーツの一部をさらに細かく裁断してタッパーに小分けし、一般の寿司ネタと一緒に流していたという。

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fin

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Presented by Nekojiro

Concrete
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