中編4
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カマドウマ

今から数年前の話。

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御堂さんは夕方仕事に行き朝方に帰ってくるという生活をしていました。

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朝方帰宅すると大体昼過ぎまで寝て、朝食兼昼食を摂り仕事の時間までだらだらと過ごすという日々を送っていたそうです。

テレビを観たりPCで動画を観たり、小説や漫画を読んだりゲームをしたり。

なにかしていても気が付くとうたた寝してしまうのだそうです。

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遠くの方から電気ケトルのコポコポコポというお湯が沸く音のようなものがして、あー音がするなと考えているとすーっと眠ってしまうのだそうです。

眠ると変な夢を見るそうで、その夢というのが自分の部屋の中に眠っている自分が見える、眠っている自分を見ている何者かの視点を自分が見ている、という状況なのだそうです。

初めは、眠っている自分を見ているのがドアスコープのような穴の中からだったのが、次は部屋の玄関から見ている、その次は玄関から部屋に上がった所から見ている、その夢を見るたびにだんだんと自分の寝室に入ってきているのだそうです。

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このままこの夢を見続けたら自分の前にやってくるのでは、何かされるのでは、色々考えてしまったそうです。御堂さんはどうにか眠らないようにしようと食事を減らしたり、食後に体を動かしたり、目薬を差したりと色々試したそうですがどれも効果がなかったそうです。

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ある日、いつものように遠くの方から電気ケトルのコポコポコポというお湯が沸く音のようなものがして、すーっと眠ってしまいまた夢を見たのだそうです。

その時は眠っている自分を見下ろす状態で暫く時間が経ち、ここで目が覚めそうとなった時、視線が横に向き、眠っている自分を見ている何者かが立っているのを見たそうです。

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ところどころ汚れた作業服を着た長髪の男が眠っている自分を凝視していたのだそうです。

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「誰だこいつ…」

御堂さんはその作業着の男に見覚えが全くなく、勝手に部屋に入ってきているその男に腹が立ったそうです。

夢の中なので自分の思うように体を動かすことは叶わず、ただ男を見ていることしかできなかったそうです。

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shake

カリカリ…カリ…

男は自身の爪を噛み始めると眠る御堂さんの顔の横にしゃがむと

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shake

クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス…

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口が真横に延び、上下の歯を閉じた状態でクスクスクスと早口で言いだしたそうです。

虫の羽音の様な、虫の鳴き声のような、とにかく不快な音を発しだしたそうです。

何を思ったのか、その男は眠る御堂さんの顔に向かって口から液体を垂らそうと顔を近づけだしたそうです。

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shake

「やめろおおおおおおお!!」

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そう叫んだ所で目が覚めたそうです。

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勢いよく飛び起きると辺りを見渡し、何もいない事を確認してほっとしたそうです。

自身の携帯で時間を確認しようと手を伸ばした時に、伸ばした左手の中に違和感、咄嗟に手の中に何かある、そう思ったそうです。

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グシャア…

開いてみるとそこにはぺしゃんこに潰れたカマドウマが。

潰れた二つの目がじっと御堂さんを見ていたそうです。

「どっから入ってきたんだよこいつ…気持ちわりぃ…」

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傍にあったティッシュでカマドウマを包み、ゴミ箱に放り投げた時に違和感を感じたそうです。

人が話している声や階段を昇降する音がいやにはっきり聞こえたそうなんです。

窓やベランダを開けた覚えがないなと考えていると、

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「御堂さん、大丈夫?」

玄関の方から声が聞こえ、その声の主を確かめに玄関へ向かうと、そこには隣の部屋のおばあさんが不安げな表情で立っていたそうです。この時、なぜだかドア全開になっていたそうです。

「こんにちは、あの…何かありましたか?ここのドア、開けましたか?」

御堂さんは隣の部屋のおばあさんがドアを開けたのかと思い問いかけましたが、ここへ来た時には既にドアが全開になってたのだそうです。

「この辺は治安が悪いとこではないけれど、部屋のドアを全開したら危ないよ、男の二人暮らしでも危ないからね…気を付けなさい」

御堂さんはおばあさんのある言葉が気になりました。男の二人暮らし…

御堂さんは1人暮らしでした。

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「ドアの鍵はちゃんと閉めていましたし、今は人暮らしですよ」

「そうなの?でも、さっき御堂さんと一緒に住んでるって男の人が私の家を訪ねてきたわよ。御堂さんが倒れているから助けてくれないかって、そう言ってどこか行っちゃったんだけどね」

「…そうですか、ここに住む前は二人で住んでたんですよ。でも、そいつはもういないんですよ。迷惑かけてすみませんでした、声かけてもらって助かりました」

御堂さんはおばあさんにお礼を言うと部屋に戻り支度して仕事に向かったそうです。

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その日以来変な夢を見ることはなくなったそうです。

「変な夢は見なくなったんだけど、時々仕事場であの音が聞こえるんだわ…気持ち悪いから気のせいだと思う事にしてるけど」

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クスクスクスクスクスクスクスクスクス…

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