今までで一番恐ろしかった人間

中編6
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今までで一番恐ろしかった人間

これは悪霊から聞いた話です。

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よく猿に襲われる悪夢に魘されている。

ま、最近じゃ夢の中でその猿を返り討ちにしてやってるんだがな。

今日も猿にジャーマンスープレックスお見舞いする夢を観たよ。

遭難した米軍の特殊部隊と交戦して無双したりもしてる。

ま、夢だし何でもアリだ。

起きたらすぐに夏休みにバイトしてた海のリゾートホテルから電話が掛かって来た。

「死ね死ね死ね・・・」

といういつもの嫌がらせ電話だ。

働いてる時は良い人達ばかりのホワイト職場だとばかり思ってたのにこんな事する人達だったなんて。

正直、もう人間不信になりそうだ。

こっちも罵詈雑言を浴びせてイタ電を切ると、押入れの中からダンダンダンと激しく戸を叩く音がする。

ネズミか野良猫でも暴れてるのかと思って開けると爪と牙と髪の長い日本人形が踊り掛かって来た。

おかしい、AIじゃあるめーし、この人形を買った時には電池で動く機能なんて無かった筈なんだがな。

故障してるのか奇声を発しながら俺の喉笛を目掛けて突進して来る。

危ないなぁ・・・もういらねっと。

俺は日本人形を巴投げで窓の外へと放り投げた。

窓ガラスが割れる。

割れた窓ガラスからは俺の家へと続く坂道が一望出来た。

青白い顔をしたランニング姿の子供が坂道を走りながらこっちを見て手を振っている。

ほほう、若いのにちゃんと挨拶出来て立派だ。

さっきのゴタゴタで押入れからビデオテープとパズルが出て来た。

懐かしく思いパズルを解きながらビデオ鑑賞する事にした。

また電話が鳴る。

どうせまた嫌がらせ電話だと思って無視してたが、意外にも留守電から聞こえて来たのは寺産まれのTさんの声だった。

「おい◯◯か?お前の居る街はもう駄目だ。とにかく早くそこから逃げろ!」

と言っている。

色々と頼りになるTさんがこれ程焦るなんてタダ事ではない。

この街がヤバイ?

まっ

そんなのはどうでもいい事だ。

俺は根っからの裏S区育ちだがこの街で災難に遭った事など一度も無い。

どうせTさんのいつもの杞憂だろう。

ビデオの内容はさっきの子供が包丁を手に俺の家の階段を登って来るという退屈極まる内容だった。

ダンダンダンと玄関を叩く音がする。

ったく、せっかくリンフォンが完成したのにうるせぇ奴だ。

一体誰だ?

んっーウんんっーんっんんー

奇声を発しながら玄関の鍵を包丁でブチ壊して、さっきの子供と真っ黒な日本刀を装備した日本人形が家の中に踊り込んで来た。

日本人形をわざわざ届けに来てくれたのか?

今時、何て親切な子供だろう。

お菓子でも出してあげようとキッチンに向かう。

子供は紙一重で子供が俺の座っていた座布団にダイブした。

座布団は包丁で一刀両断にされてしまった。

ああ、気にすんな。

誰にでも間違いはある。

それ何度捨ててもいつの間にか戻って来る枕だったから座布団に改造して尻に敷いてやってたんだよね。

ざまぁ

子供は何か驚きの表情を浮かべている。

ぽぽぽぽ・・・・

という声が聞こえた。

ああ、気にするな。

あいつ俺につきまとってるストーカー女なんだ。

いつも不気味にぽぽぽぽぽぽぽぽうるせーんだよな。

普通にしてりゃ結構可愛いのに。

テンソウメツ・・・テンソウメツ・・・

ああ、もうテンソウメツの季節か。

テンソウメツって鳴く変な猿が住みついて困ってるんだよ。

あいつのせいで近所の連中は皆引っ越しちまったんだ。

ったく迷惑な話だよ。

メガソーラー建設のせいで自然破壊するから獣が人里まで降りて来て暴れるんだよな。

噂じゃヒバゴンとかイノゴンっていうバカデカイのに猟友会の人達がもう何人もやられてるって話だし。

バキバキッ

窓の外を見ると巨大な蛇の腹が見えた。

「んんッー(この家を押し潰そうとしているのか?)」

ああ、立て付け悪いんだろうな。

山でメガソーラー開発が始まって神社とか根こそぎぶっ壊し始めた頃からあの大蛇が屋根裏に住み着いているみたいでよ、大蛇が暴れるとよくこの音がするんだ。

多分神獣だろうから駆除業者頼むのも億劫でさ。

確かナントカダラ様だったかな?

まっ日本じゃ昔から蛇は家の守り神とも言うしきっと悪いもんじゃ無いだろう。

子供はガタガタと震え出した。

子供「んんっーんー(ば、馬鹿な・・・悪霊である自分が恐れているのか!?)」

ほらこれでも食えよ。

差し出されたお菓子の皿からは鮮血が滴っていた。

恐らくお菓子の中に潜んでいた怪異が運悪く爪楊枝でブッ刺され絶命したのだろう。

ほら、こいつで一緒に遊んでろって。

子供は男から足が三本あるリカちゃん人形と口に鋭い牙の生え揃ったリカちゃん人形を手渡された。

子供「んんー(こいつ・・・恐怖という感情が無いのか?)」

それとも、こっちの方がいいか?

やっぱ男子はお人形とか興味ねーもんな(笑)

男は死者を呼び出せそうなファ◯コンや完成済みのリンフォンが何十個も入ったダンボールを押入れの奥から持って来た。

子供「ヒィーン」

ドスーン

その時、大きな音と共に屋根裏から数体のマネキンと三十センチくらいの高さのまるっこい石と禁后と書かれた紙でくるまれた大量の毛髪とドス黒い小さな木箱が何十個も落ちてきた。

あ~あ、これ親戚から預かってたんだ。

どこにも置くとこ無いから全部屋根裏部屋に置いといたんだが・・・

何て言ったかな・・・確か・・・コトリバコ?

子供は悲鳴を上げながら包丁を捨てて俺にすがりついて来た。

よしよし、ぜんぜん怒ってねーから気にすんな。

絶対親にチクったりしねーから安心しろって。

キエエエエ

日本人形が飛び掛かかろうとした正にその時だった。

ピンポーン

「お届けものでーす。ちょっと大きい代物なんですが・・・」

何だ?差出人は誰だ?

差出人欄には「神様」とだけ記してあった。

送られて来たモノ・・・

それは南米とかの古代遺跡にありそうな巨石祭壇に似ていた。

付属の手紙にはこう添えられていた。

「私、今神様やってるの。

これは昔、中米のとある神殿で実際に使われていたモノらしいです。」

よく見ると手紙の入っていた封筒の中に一枚の写真が入っていた。

写真の裏には油性マジックで「アステカの祭壇」と書かれてある。

何の変哲も無い巨石祭壇の写真だが祭壇部分が真っ赤に感光してしまっている。

これじゃまるで心霊写真だ(笑)

それにしても遠路はるばる南米辺りから運んで来たのか?

ご苦労様なこって。

誰だか知らんが丁度良かった。

ウチはキッチン狭いせいでまな板置くとこ無くて困ってたんだ。

これからありがたく使わせて貰うぜ。

ブゥーーーン

テレビが独りでに点くと奇妙な臨時ニュースが流れていた。

「今日の犠牲者は・・・」

ナレーターがそう言い掛けた時。

「あっ・・・も、もう1つ臨時ニュースをお知らせします。

只今、きさらぎ駅で脱線事故が発生した模様です。

あっ更にもう1つ、日本中の井戸から大量に亡者が溢れ出して・・・あっ・・・はぁ!?

嘘だろ!?

た・・・たった今、黄泉比良坂から緊急声明が・・・

どうやら閻魔大王との和平交渉が決裂した模様です。

よ、妖怪大戦争が・・・

妖怪大戦争が遂に勃発したとの・・・・あっ!たっ確かなのか?おいっ!

た、たたたたった今・・・

ああああ・・・あ、アグネアの矢が全世界に向けて発射されたとの・・・み・・・・皆さん・・・・

皆さんさようなら・・・

もういい・・・逃げろ逃げろ・・・

うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

何だこりゃ?変なニュースだな。

こんな意味不明な番組を面白がるなんて世も末だな。

人形「ひいいいいいいい」

今度は日本人形がすがりついて来た。

よしよし分かりゃいいんだよ。

しかし世の中親切な人も居たもんだな。

窓は割れちまったが世の中まだまだ捨てたもんじゃない。

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うん、いろいろ混ざってるけどこれはこれでいいかもしれない

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