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彼女の他愛ない【悪戯】の話

中編3
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彼女の他愛ない【悪戯】の話

世界は常に【残酷】に満ち溢れている

─ねこじろう

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これは知り合いのカップルの話なんだけど、、、

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まだ20代そこそこの2人だった。

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男は几帳面で真面目なタイプ。

対して女はどちらかというと対照的な、おおざっぱで奔放だったかな。

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2人は都心にある、小さなアパートに一緒に住んでいた。

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会社員をしていた彼氏の帰りは、毎日遅かったそうだ。

まだ学生だった彼女は夕方にはアパートに戻り、掃除をしたり、近くのスーパーに買い物に行ったりして、彼氏の帰りを待っていた。

そして彼女は彼氏の帰る頃になると、よくちょっとした【悪戯】をしていたらしい。

それは、

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アパート前は狭い路地で電信柱の陰に隠れていて、ちょうど彼氏が通りすぎたところで、背後から脅かすという他愛ないものなんだけど。

驚いた彼氏の顔を見ながら、幼い子供のように手を叩きながら喜んでいたらしい。

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それは、そろそろ夏も終わりかけた、ある日のこと。

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いつも通り仕事を終えた彼氏は、アパート直近の駅で地下鉄を降りると、国道沿いの歩道を歩いていた。

この国道なんだけど、都内の動脈と言われるくらいに大きな道で、昼も夜も交通量が半端なかったそうだ。

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時間は9時過ぎ。

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ああ、腹減ったなあ、、、

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などと思いながら暗い歩道を歩いていると、彼氏の横手を、けたたましいサイレンを撒き散らしながら、猛スピードで救急車が通り過ぎていったんだ。

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─何か事故でもあったのかな?

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肩越しに救急車を見送る彼氏の心に、一抹の不安が起こる。

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というのは彼女が夕方よく利用するスーパーは、交通量の多いこの国道沿いにあるからだ。

実際、悲惨な人身事故も多かったそうだ。

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住宅街の路地を何度か曲がると、彼氏は最後の直線を歩きだす。

この先にアパートがあるのだ。

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─恐らく今日もあいつは、この道沿いの何処かの電信柱の陰に隠れていて、子供みたいに後ろから俺を驚かすんだろうな、、、

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そんなことを考えながら歩いていると、突然背後から「おかえり~」という元気な声がして、白い手が肩をポンと叩く。

彼氏が軽く驚いたふりをしながら、肩越しに振り向くと、

そこには満面の笑みを浮かべた彼女の姿があった。

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だがすぐに、何故だか彼氏の背中に冷たいものが走った。

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確かに彼女は彼氏の真後ろに立っている。

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ショートの茶髪。

愛くるしい白い丸顔。

大きな二重の瞳で、いつも通りの優しい笑みを浮かべていた。

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ただ、

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腰から下がない、、、

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上半身だけで宙に浮かんだ彼女は、彼氏に向かって懸命に何かを語りかけているのだが、不思議に彼氏には何も聞こえてこない。

それはまるで古い無声映画の1場面のようだったという。

彼氏が唖然としながらその場に立ち尽くしていると、

彼女の上半身は色彩を失いだし、やがて周囲の情景と同化しだして、おしまいにはフッと消えてしまったという。

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その日彼は夜通し、彼女の帰りを待っていたそうだ。

テーブルの上に携帯があったから、すぐに帰ってくるつもりだったはずだと思った。

だが結局、彼女がアパートに帰ることはなかった。

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そして朝方突然訪ねてきた警察の人の話から、彼女が帰らぬ人になってしまったことを知ることになる。

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警察が言うには、昨晩、恐らくスーパーに行こうとした彼女は、自転車で無理に国道を横切ろうとしたらしく、その時通りかかった大型トラックに跳ねられたということだった。

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それから彼氏は、警察に付き添われ、病院の安置所に彼女の確認に行ったそうだ。

警察が白いシーツを取り去った瞬間、ショックで倒れそうになったらしい。

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彼女の身体は、腰から上下に分断されていた。

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fin

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