出来れば知りたくなかった父の秘密

中編6
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出来れば知りたくなかった父の秘密

ゴールデンウィークに家族で、九州北部にある俺の実家に帰った。

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郊外にある典型的な分譲地の一画にある家で、公務員だった父が昭和のころにがんばってローンを組んで買ったものだ。

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100坪ほどの土地の上に建てられた2階建ては、昔とちっとも変っていなくて、到着するとすぐに俺の頭の中は幼いころにタイムスリップすることができた。

今年80になる母が、少々曲がり気味の腰を庇いながら、俺と妻そして一人息子を玄関で出迎えてくれた

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「昔と変わっていないでしょ」

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西向きの大きなサッシ窓の傍らに置かれた食卓テーブル。

そこに並んで座る俺と妻の前に、母がお茶の入った湯飲みを置きながら言った。

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確かに家の外も中も、ほとんど変わっていない。

変わったことといえば、

父が他界して既にいないこと、

母がひとまわり小さくなったこと、そしてその艶やかな黒髪だった髪が真っ白になってしまったことだろう。

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窓の向こう側にある広い庭で、息子の大輝が夢中になって遊んでいる。

小学校低学年の男の子というのは、だいたいそうなのだが、探検ごっこが大好きなのだ。

庭の東側に一本だけある大きな柿の木。

その側にある小さな池。

そして周辺にある手入れのされていない植え込み

あのときのままの庭の情景だ。

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ただちょっと違和感を感じさせるものというと、庭の片隅に隠れるように建つ小さなプレハブ小屋だろう。

変わり者の父が、俺の自立心を育てるために建ててくれたものだ。

中学校から高校まで俺は、この小屋を自分のアジトにしていた。

学校から帰ると、真っ直ぐこの小屋に入り、好きなギターの練習をしたり、夜遅くまでコミックを貪り読んでいたものだ。

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どうやら大輝もその存在に気付いたようで、ドアノブを開けて、そっと中を覗きこんでいた。

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翌朝俺は、なぜだか早く目か覚めた。

昨晩は夕食の後、和室に敷かれた布団に川の字になって親子三人寝たのだが、ふと横を見ると、妻はいるのだが、息子の大輝の姿がない。

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「また庭で遊んでいるのかな?」

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俺は横で寝ている妻を起こさないようにして、パジャマのまま庭に出た。

年季の入った柿の木や、かつては鯉が泳いでいた池を横目にしながら、片隅にあるプレハブ小屋の近くまで歩いてみる。

すると中から、大輝の声が聞こえてきた。

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「だからさあ、ねぇ、お外で一緒に遊ぼうよお!」

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誰かもう一人いるのだろうか?いや、そんなはずない。

俺は疑心暗鬼になりながら、しばらく立ったまま、耳を澄ました。

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「ねぇ、愛菜ちゃんのおうちって、どこ?」

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愛菜ちゃん?女の子か?

不思議に思いながら、いると、

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「洋輝~!洋輝~!」

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妻の呼ぶ声が聞こえてきたので、俺は母屋に戻った。

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日が暮れた後、母と俺たち家族は食卓のテーブルにつき、夕食の寄せ鍋をつついていた。

母が、妻に小皿に取ってもらった肉を眺めながら、口を開く。

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「本当、あの人は新しもの好きだったのよ」

あの人、というのは、俺の父のことだ。

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「そうだな、親父は特に電化製品の新商品、いろいろ買っていたなあ、、、

あっ、そう言えば、あの、、、ビデオ録画するやつ、、、あの、何だっけ、、、ええっと、、、

そうだ!ハンディカム、ハンディカム!

あれ、まだあるの?」

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ハンディカムというのは、誰でも簡単にビデオが録れるもので、当時は相当話題になったものだ。

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「ふふ、、、洋輝ちゃん、何言ってんの?

あれ、いつも、あなたが使っていたじゃないの」

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母が、まるで幼い頃の俺を嗜めるように言った。

確かに物珍しさもあって当時高校生だった俺は、いろんな情景を録画しては楽しんでいたのだ。

すると、

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「パパ!」

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そう言って突然、大輝が立ち上がり隣の和室の方に走り、しばらくするとまた戻ってきた。

手には何か銀色の金属製の箱のようなものを持っている。

俺はそれが何なのか一目見た瞬間、分かった。

大輝は嬉しそうな顔をしながら、それを俺の目の前に置いた。

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「ハンディカムじゃないか?」

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そう言って、俺は、手のひらに収まるくらいのコンパクトなカメラを、しげしげと眺めた。

少し錆び付いてはいるが、これは紛れもなく数十年前に、父が買ってきたものだ。

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「大輝、お前、これ、どうしたんだ?」

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大輝は急に真顔になると、庭にあるプレハブ小屋の方を指差しながら、言った。

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「あのね、愛菜ちゃんがくれたの」

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「愛菜ちゃん?」

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妻が驚いた様子ですっとんきょうな声を出す。

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俺は笑いながら「そうだったな、大輝は今朝、愛菜ちゃんと遊んでいたんだよな」と言いながら、カメラ本体に付属した液晶画面を開いてみると、録画用の小型テープが収納されているのが見える。

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─このテープには一体、何が録画されているのだろうか?

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もう何十年も放置されていたはずだから、動くはずはない。

だから俺はまた液晶画面を閉じると、母が作った鍋をまた食べ始めた。

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その翌日の晩のことだ。

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会社の新入社員歓迎会に参加した俺が、自宅マンションに帰りついたとき、時刻は11時を過ぎていた

既に、妻と息子は寝ているのだろう。

玄関以外の電気は全て消されていて、シンと静まり返っていた。

軽くシャワーを浴びて部屋着に着替える。

そして自分の部屋に行くと、出勤前からA C アダプターを繋いで充電していたハンディカムを手に取り、再び居間に戻った。

ソファーに座り、液晶画面を開くと少し緊張した気分で、再生ボタンを押してみる。

信じられないことに、画面には画像が現れ動き始めた。

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恐らく学生の頃の友人たちとか、付き合っていた彼女とか、沈んでいく夕陽とか、まあとりとめのないものがごちゃごちゃ写り混んでいるのだろう、と思っていたのだが、それは全く違っていた。

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初めは薄暗い部屋の中の様子が映っていた。

粒子が荒く少し分かりにくかったのだが、それは紛れもなく、かつて俺が暮らしていたプレハブ小屋の中の様子だった。

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壁に貼られたアイドルのポスター。

ノートとペンが置かれたままの勉強机。

空の缶ジュースが転がる床、、、

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無造作に揺れながら次々現れる小さな画面に映る情景を眺めていると、懐かしい学生の頃の思い出が走馬灯のように、目の前に浮かんできた。

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部屋の中の情景がしばらく続くと画面は制止し、今度は微かだが人の声が聞こえてきた。

最初はよく聞き取れなかったのだが、やがて、それは誰かの泣き声というのが分かった。

そして画面中央に、いきなり人の姿が現れる。

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切り揃えた黒い前髪。

薄いピンクのトレーナーにスカート、、、

それは女、、、というか、まだ幼い女の子だ。

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「ううう、、、」

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何故か悲しげに泣きながら、鼻をすすっている。

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「ううう、、、くすん、くすん、、、」

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すると突然、男の声が聞こえてきた。

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「大丈夫 何も怖くないよ」

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しかも、この声は俺ではない!

声の感じからして、ある程度年齢の行った大人の男性だ。

声は続く。

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「大丈夫、何も怖くないからね

怖くないから、これから、おじさんの言うとおりにす、、、」

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耐えられず停止ボタンを押した。

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─そ、そんな、、、嘘だろ、、、

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真っ暗になった液晶画面を睨みながら、俺は1人呟く。

額から頬にジワリと流れる生暖かい汗。

喉裏に激しい心臓の鼓動を感じる。

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信じたくはなかった、、、

信じたくはなかったが間違いない。

俺はビデオの男性が誰なのかが、分かった。

そして同時に脳裏には、かつて実家周辺で起こった「幼女神隠し事件」というものがよみがえってきた

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「幼女神隠し事件」というのは、今から10年ほど前に、俺の実家のあるF 市で起こった連続幼女失踪事件だ。

市内に住む小学生にもならない女の子4人が、次々と失踪した事件で、警察、自衛隊、地元のボランティア総がかりで約1年に渡り、大捜索を敢行したのだが、結局、一人も見つからなかったのだ。

その頃、俺は既に結婚していて、隣の県のマンションに住んでいたのだが、この事件は全国的にも報じられており、ある程度の内容は知っていた。

あの当時、妻とともに実家に帰った俺は、こっそり母に、ある相談を受けていた。

その相談というのは、夫婦二人にはあまりに家が広すぎるから、売り払ってアパートか施設に住みたい、と思うのだが、どうしても父が家を手放したくない、と言っている。

何とか説得してほしい、と。

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これで、全てが繋がった。

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次の休みの日のこと。

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俺は一人、自宅から車で1時間かかる地元の埠頭まで走ると突堤の端まで行き、忌まわしいハンディカムを海に投げ捨てた。

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