中編4
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確かに存在したSくんの話

あれは小学校低学年の時かな。

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Sくんとは

学校帰りにたまに寄り道していた廃屋で知り合ってから仲良くなって、よく一緒に遊んでいた。

いつも白いTシャツに黒い半ズボン姿で、蝋人形みたいに透き通るような白い肌の子だったな。

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自宅が同じ公営団地の4号棟の3階ということが分かってからは、学校が終わると、よくお互いの家を往き来しゲームとかをして遊んでいたっけ。

俺は3号棟の3階だったからね。

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放課後になると俺は例の廃屋に立ち寄り、しばらくSくんと遊んでから一緒に猛ダッシュで団地まで走り、一番奥に建つ4号棟のコンクリートの階段を一気にかけ上がったな。

そしたらSくんは「ただいま」と言いながら赤茶けた金属のドアを開けるんだ。

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玄関の先は廊下が真っ直ぐ伸びていて、奥には8帖ほどの和室、その隣にはリビングがあるんだ。

あと廊下沿いにも2部屋ある。

俺の家もSくんのところも間取りは全く同じだったんだ。

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Sくんはもどかしげに薄汚れたスニーカーを脱ぎ廊下沿いにある自室のドアを開けると、さっさと中に入っていく。

俺も「お邪魔します」と一言言って後に従う。

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その時大概、廊下奥にある部屋の扉は開いていた。

そこは畳の部屋なんだけど、カーテンを閉めきっているのか、かなり暗いんだ。ただ奥の方にある豪華な仏壇のところだけが蝋燭を灯しているのか、ボンヤリ灯りを放っていて、その前に女の人が背中を向けて正座しているんだ。

女の人は日本髪を結い、小豆色をしたちりめん柄の着物を着ていて、背筋を伸ばしただ仏壇に向かって手を合わせていたな。

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こんな情景は一般的な家庭のヒトコマで、特に珍しいことはないだろう。

だがSくんとの仲が深まり、家を訪れる回数が増えていくに連れ、俺は少しずつ奇妙な違和感を感じ出す。

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学校が終わる時間は日によってまちまちだから、Sくんの家に遊びに行く時間も、もちろんまちまちだ

そして訪れる曜日も二人の気分次第だ。

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でも何時も同じなのだ。

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ただいまと言って廊下にあがり、さっさと部屋に入るSくんの背中。

その時必ず、奥の部屋の扉は開いていて

真っ暗な畳部屋の奥にボンヤリ見える豪華な仏壇。

その前に正座する着物姿の女の人。

それと部屋に入ってからのSくんは、俺がコミック読んだりゲームをしたりしている間、ベッドの端に座ってじっとこちらを見ているだけなんだ。

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ある時、俺はSくんに聞いたことがある。

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「ねぇ奥の部屋にいる人、誰なの?」

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彼は聞こえているのかいないのか、ただボンヤリ俺を見ているだけで答えることはなかった。

それから何度となく同じことを尋ねたのだが、結局最後までSくんがこの問いに答えたことはなかった。

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◆◆◆◆◆

あれから月日は過ぎ去り、中年になった俺が久しぶりに小学校の同窓会に出席した時のこと。

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貸し切りの洒落たたレストランに、20人ほどの男女が集まっていた。

店内のあちこちに丸テーブルが配置され、その上に置かれた銀のトレイには色鮮やかなオードブルが並べられている。

皆思い思いに丸テーブルを囲み、談笑していた。

その姿を見た瞬間に記憶が蘇る者もあれば、頭髪が後退したりお腹が出たりして全く思い出せない者もいた。

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俺は、当時同じ公営団地に住んでいたAと話していた。

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「俺たち、住んでいたのが同じ団地の3号棟の3階と4階だっただろう。おかげでいろいろと重宝したもんだな。ところで他にクラスメートであそこに住んでいた奴とかいたっけ?」

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Aがコーヒーカップを片手に尋ねる

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「そうだな、、、同じ学校じゃなかったけど、Sくんといって4号棟に住んでいた子がいたな」

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そう言うと、Aはちょっと考えるように右斜めに視線を移した後、こう言った。

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「4号棟?

いや、確かあそこの団地は3号棟までしかなかったはずだぞ。」

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「え!?

だって俺、、、」

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言いかけると、Aが遮るように言う

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「間違いないよ。

だって俺の親父ってさあ、あの頃ゼネコンに勤めてて、あそこの公営団地が建てられた経緯とかも良く知ってたんだよ。

あそこ、確かにもともとは4号棟まで建てる予定だったそうなんだけど、ちょうど3号棟の南側一帯が墓地で、さすがに建てることが出来なかったそうなんだよ。

まあ、大人の事情という奴かな?

ハハハ、、、」

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◆◆◆◆◆

帰りの電車の中。

日曜日の夜だからなのか、人影は疎らだった。

俺は長椅子に座り身体を後ろ側によじって、車窓に映る自分の顔を見ながらSくんとの思い出の糸を手繰り寄せていた。

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元気良く部屋に入っていくSくんの背中。

廊下奥に見える暗い和室。

その奥でボンヤリ灯りを放つ仏壇。

正座して、ただひたすら祈っている日本髪で着物姿の女。

そしてベッドの端に座るSくんの悲しげな目。

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俺は電車の窓から顔を動かし、ガックリと項垂れると、何気なく足元に視線を移す。

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その時だ。

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一瞬で目前の光景が色褪せ、時が止まったような感覚に襲われた。

そして何ともいえない気配を感じ、ぞくりと背中が粟立ち膝が小刻みに震えだす。

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揃えた黒い革靴の前方に、ゆっくり視線を動かしていった先。

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そこには

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黒い半ズボンで

素足に薄汚れたスニーカーを履いた二本の白い足があった。

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後頭部に刺すような視線を感じていた俺は、恐怖で顔を上げることが出来なかった。

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fin

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