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22年09月怖話アワード受賞作品
中編5
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マッチングアプリの女

俺は今年で30になる独身の男だ。

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これまで、お見合いパーティーだの、街コン、合コンだのに参加しては来ていたのだが、なかなか女性と知り合いになることは出来なかった。

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それならということで成約率業界随一というキャッチフレーズのマッチングアプリに登録してみると、なんと登録後わずか3日で23歳の女とマッチングした。

加那というその女は、住んでるところは同じF市の中心辺りで、しかも卒業した高校も同じだった。

しばらくメールのやり取りをした後、写真交換をし合うことになった。

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送られてきた写真は、どこか広い草原みたいなところで撮ったスナップ写真で、ノースリーブの白のワンピースにつばの広い麦わら帽子をかぶる、スラリとした背格好の女性が映っているんだけど、遠くから撮られているみたいで顔とか細かいところがはっきり見えない。

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あと違う場所でもう1つ撮った写真があったのだが、それも被写体がぶれていて肝心の顔が分からない。

若干の不安はあったが、せっかくのチャンスだから日曜の昼間から会うことにした。

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場所は、市内にある小さな稲荷神社。

彼女の指定だった。

約束の時間の10分前に到着した俺は境内にあるベンチに座りボンヤリと、足元の辺りを忙しなく彷徨く数羽の鳩を見ていた。

暦の上ではもう秋なのだが、日射しはまだ強くて相変わらずジワワジワワという蝉の声が聞こえてくる。

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すると突然鳩たちが一斉に飛び立った。

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ふと顔を上げると、2メートルほど前方にいつの間にか女が立っている。

白いノースリーブのワンピースに、つばの広い麦わら帽子の姿は、以前送られた写真の女そのものだった。

帽子をかなり目深にかぶっているため、顔は見えない。

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「加那さんですか?」

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言いながら立ち上がると、彼女は微かに頷いた。

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お参りでもしましょうか?と、俺たちは本殿に向かって歩き始める。

並んでみて分かったのだが、彼女は相当背が高かった。

170センチの俺よりも軽く10センチは高い。

ヒールの高い靴を履いているとしても、かなり高いと思う。

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そして彼女は無口だった。

というか本殿に着いてお参りをするまで、一度も口を開くことはなかった。

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それは、神社を出て一緒に入った近くの喫茶店でも同じだった。

奥まったところのテーブルに向かい合わせで座ったのだが、喋るのは俺だけで、彼女は時折静かに頷くだけなのだ。

しかも店に入ってからも麦わら帽子をかぶったままだから、見えるのはドギツイ赤のルージュをひいた唇、その下にあるややしゃくれた顎、そして異様に細く長い首だけだ。

それとこれは向かい合ってから気づいたんだけど、彼女の方からだろうか、何というか腐った生ゴミのような臭いが時折鼻を掠める。

とうとう我慢出来ずに俺はこう言った。

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「あの、俺と話すの、つまんないですか?」

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彼女はしばらく俯いていたが、やがて静かに首を横に振ると、コーヒーカップを口元に近づける。

カップを握る手は、まるで老婆のようにか細くて幾重も筋が走っていた。

喫茶店には30分ほどいたのだが、結局最後まで加那さんが口を開くことはなかった。

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マッチングアプリで知り合った女との初デートは、これで終了した。

約1時間だったが、疲れだけが残ったという感じだった。

帰りの地下鉄の座席に座り正面に映る自分の姿を見ながら俺は、あの女とはもうこれきりだなと思っていた。

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翌日仕事が終わり、マンションに帰るとしばらくして携帯が鳴った。

マッチングアプリのスタッフからだ。

アプリの会員には必ず一人担当のスタッフが付くことになっていて、交際に至るまであれこれアドバイスをしてくれることになっているのだ。

昨日の初デートのことも既に伝えていた。

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「お疲れ様で~す、昨日は何か用事とかあったんですか?」

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若い女性スタッフが明るい声で尋ねる。

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「は?」

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意味が分からず聞き返す。

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「いえ、お相手の方から貴方が約束の時間になっても来なかったって、怒ってこちらに連絡あったのですが」

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「いやいや昨日はちゃんとお昼に約束の場所に行ったし、加那さんも来たよ」

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「ええ!本当ですか?

橋本加那さんですよね?23歳で、明るくてお喋りな」

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「明るくて?お喋り?全然違ったけど。

むしろ正反対だったけど。

それで申し訳ないけど、あの人はちょっと無理かな」

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俺は正直に言った。

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「そうですか、、、

もしよろしかったら、どういう理由でそう感じたか教えていただけませんか?」

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「理由も何も、俺と会ってる間中一言も喋らないし、しかもずっとデカイ麦わら帽子をかぶってたから顔さえも分からなかったし」

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「え~!本当ですか?

それ、本当に橋本さんなんですかね?

良かったら外見とか教えていただけませんか?」

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言われて俺は、加那という女の外見をスタッフに伝えた。

するとしばらくパソコンのキーボードをカタカタと叩く音がしたかと思うと、再びスタッフの声がする。

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「おかしいですねえ、、、

こちらの資料では、橋本加那さんというのは、23歳のOLさんで、スポーツ観戦が趣味の中肉中背の明るいタイプなんですけど。」

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「え?そんなバカな」

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─でも確かに加那というあの女は、約束の時間に約束の場所に現れた。

もしあれが本当の加那さんではないとしたら、いったいあの女は何者だったんだ?

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思いながら俺は、目の前のデスク上にあるパソコンのフォルダを開いて加那さんの写真を探す。

だが不思議なことに写真は見当たらなかった。

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「何かおかしいので、私の方でもう一度加那さんに事情を聞いて、また連絡しますね」

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そこでスタッフとの会話は終了した。

俺は電話を切った後、軽くシャワーを浴びると、部屋着のままサンダルをひっかけ、近くのコンビニまで歩いた。

ビールでも飲まないと、その日は眠れないと思ったからだ。

500ミリリットルを一缶買うとレジ袋を片手に提げたまま、書籍コーナーで立ち読みをしていた。

しばらくしてふと顔を上げると、雨でも降りだしたのか、正面の暗いガラス面に水滴がポツポツと付いている。

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ヤバイ、そろそろ戻らないと、、、

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と雑誌を棚に戻そうとした時だった。

生ゴミのような臭いがサッと鼻を掠めると、

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マタアイタイヨ、、、

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突然聞こえた女の声。

それは録音したものを低速再生したかのような声だった。

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思わず正面に視線をやる。

一瞬でゾクリと背筋が凍りつき、一気に心拍数が上がるのを感じた。

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ガラス面に映っている俺の上半身。

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その少し後ろに、麦わら帽子をかぶった白いワンピースの女が立っていた。

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@タク 様
怖いポチにコメントありがとうございます。
またお褒めの言葉までいただき、本当にありがとうございます。自分の文章力に関しては、自分としてはまだまだだという認識で、もっともっと精進の必要があると思っております。
これからも、よろしくお願いいたします。

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いつもいつもとても怖いお話をありがとうございます。
羨ましい程の文才をお持ちですね。
今後も楽しみに読ませていただきます。

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