教壇から先生の投げたチョークが僕に目がけて飛んでくる。
もう慣れてしまった僕はそれをすんでのところでかわし、後ろの席の山田くんの顔面にクリティカルヒットした。
「いて!」
「こら山田!じゃない、川口!おまえはこの大事な時期にアクビばかりしおって、いい加減授業に集中しろ!」
先生が怒るのもごもっともだ。
僕はこの受験前の大切な時期に、板書もとらず、空腹の腹をさすりながら昼ごはんの事ばかりを考えている。
この退屈な授業。みんなは必死に勉強しているけれど、そんなに頑張ったって意味がないことを教えてあげたい。いや、教えたところで誰も信用なんてしないから僕は教えない。
そもそも学校なんてこなくてもいいんだけど、家にいてもなんにもする事がないし、友達と話す時間が今のところ一番気持ちが平和になるのでとりあえず来ている。
親は財産を残しても仕方がないという理由で仕事もやめてあちこち旅行に出掛けていて、いつ帰るかも知らない。下手したらもう帰ってこないかもしれないな。
弟は…
そう、弟は今日も自分の部屋に閉じこもって、同じ言葉を何度も何度も筆で書き殴っている。
子供の頃、事故で歩けなくなった弟はそれ以来ずっと部屋にこもって思ったままの字を書くようになった。
もう素人の僕がみても書道の達人の域に達している。
でもここだけの話、弟の才能は書道の腕だけではない。
弟はあの事故で足を失い、言葉も話せなくなった代わりに未来が見える目を手に入れたようだ。それは数年前、弟が書いた書を見ていて気づいた。
弟が書いた通りの事が現実に起こっている事に。
テロ、地震、津波、列車、感染、戦争、
先月あたりから弟が新しく書き始めた書を見て、僕の家で家族会議が開かれた。
父と母は好きな事をすると言い、僕にも好きな事をして過ごしなさいと言った。
沢山のお金を僕の通帳に振り込んでくれたかわりに、弟の世話を頼むとも言った。
僕は考えた末にそれに納得し、残りの人生を出来るだけ今と変わらないように過ごすと決めた。
滅亡。
弟が書いた書は部屋中に張り巡らされている。
夕食を運んできた僕を見てゆっくりと弟が僕の方に視線を向けた。
弟は声の出なくなってしまった口を僕に見せつけるようにゆっくりと動かした。
「あ」「し」「た」
僕も弟の目をしっかりと見つめて、ゆっくりと頷いた。
了
作者ロビンⓂ︎
こんにちは。ふたばお兄様のお題をもとに4分で書き上げた超大作を存分にご堪能くださいませ…ひひ…
「空腹」「筆」「先生」