これは大学時代の頭のおかしい友人が体験した話だ。
友人には、たいそう仲の良い彼女がいた。
彼女があるとき意を決した表情で友人に言った。
「ねぇ、今度わたしの両親の墓参りに行こうよ」
彼女の両親がもう没しているは知っていた。
その墓参りに行くとなれば、つまりは・・・そういうことである。
友人もまた将来に責任を持ちたいと感じたので、彼女の提案に同意した。
そしてある日の休日
駅前に車を停めて、彼女を待った。
ここは田舎だから待ち合わせ場所はいつも同じだ。
前の彼女とも、よくここで待ち合わせていた。
「これから今の彼女の両親に墓参りに行くのにな・・」
少し罪悪感を覚える。
コン、コン、コン
誰かに車の窓ガラス叩かれる。
当然彼女だった。
しかし妙だ。墓参りだというのに格好が派手である。
いやまぁ、自分の家の墓参りだし、どんな格好しようと構わないのだか。
それでも普段の彼女とは似つかない服装だ。
「ねぇ、開けてよ・・」
彼女を助手席に乗せて車を走らせる。
「ねえ、御両親はどんな人だったんだい?」
「私が産まれた時に二人とも亡くなったんだって・・」
なぜ父親も? と疑問に思ったが、それはまだ聞けなかった。おいおい知ることになるのだろう。
「つぎの十字路を左に曲がって・・・」
奇妙なことに、彼女は具体的な墓地の場所を友人に伝えなかった。
しかし友人はその指示に素直に従った。
時刻が夕方にさしせまる頃、車は墓地ではなく、とある建物に着いた。
「ここは・・・」
「入りましょう・・・」
彼女の手を掴まれて、建物に引っ張られる。
「なぁ、この場所って・・・」
そこは良く知っていた。
前の彼女とよく来ていた有料施設だ。
なにやらソワソワする。
ともかくも建物に入り受付をしてもらった。
その最中に、妙なことが起こった。
2人の初老の男女に出会したのだが、
何故か、その男女は自分達をなんともいえない表情で見ていた。
疑問に思ったが受付はすぐに終了し、受付の傍にあるエレベーターに乗るよう指示された。
そしてエレベーターに乗り、まさにドアが閉まりつつあるとき
エレベーターの外にいる妙なカップルのうち、女性の方が友人に声をかけた
「あなた達も、ここなのね・・・」
え?
友人がキョトンとしたが、エレベーターのドアは閉まってしまった。
なんのことだろう?変なカップルだなぁ。
やがて上階にエレベーターが停止した。
ゆっくりと扉は開く
薄暗い廊下に出たが、そこには友人達以外の客は見当たらない。
彼女に手を引っ張られて、とある一室に通される。
廊下の狭さと対照的に、その一室は実に広くて清潔感のあるものだった。
友人は溜まった疑問を彼女に吐露した。
「なぁ、墓参りって言ってなかったっけ?」
「・・・うちの両親ね、お墓がないんだ。」
「え?」
「事件に巻き込まれて、行方不明ってことになってるの。」
「・・・」
言葉を失う。
彼女の暗く辛い過去に偲びない気持ちになる。
「それでね・・両親が確認された最後の場所がここだったの・・」
「そうだったんだな・・・」
いやだから墓参りって言ったよねとは流石に言えなかった。
・・・それから友人は暗い雰囲気を払拭するために、色々な楽しい話をして彼女を盛り上げようとした。
彼女の暗い表情も徐々に明るくなっていく。
しかし・・
「いや〜それにしても、さっきの老年カップルも変だったねー」
「?」
彼女が怪訝な顔をする。
「なにそれ?」
「なにって、さっき受付していたとき俺達のことジロジロ見ているカップルいたじゃん?」
彼女の顔が強張る
「あたし、そんな人たち見てないよ・・」
「いやいや!?エレベーターの扉閉まるときに、女のほうが俺達にはっきり声かけてたじゃん」
「みてない・・・きいてない・・・」
彼女は明らかに怯えていた
どういうことだ?幽霊だったのか?
「ねえ、どんな人達だったの?」
「ええっと・・・」
友人は彼女にカップルの服装などの容姿を伝える。
それを聞くと、彼女は目を丸くして驚いた。
「それ・・あたしのお父さんとお母さんだ・・・」
彼女は、わぁっと泣き出す。
そうか・・・あの人たちは彼女の両親だったのか・・どおりで・・・
友人は泣いている彼女を親身に慰めた。
やがて彼女は泣き止んで、友人に優しく微笑むまでに落ち着いた。
「どうする?もう少し休むかい?」
「大丈夫。もう帰りましょう。」
友人は彼女と部屋を出た。
そして再びエレベーターに乗り、一階の受付フロアへと下りる。
フロアにはもう老夫婦はいなかった。
しかし玄関を出る時に確かに聞こえた。
「よかったわね・・・」
帰りの車中で彼女は友人に呟いた
「今日はどうもありがとう。お父さんとお母さん、まだあそこにいたのね・・・」
「ん、ああ・・でもあそこに行くのはもう避けたいところだけどな・・・」
友人は苦笑する。なにか話題を変えようか。
「ところで来週の休みには遊園地にでも・・・」
振り向いた助手席には、誰も座っていなかった。
友人は慌てて車を急停車する。
なぜ?どうして?意味が分からない。
そのとき、携帯の電話が激しく鳴った。
電話の相手は彼女だった。
おそるおそる通話に応じる。
「ど、どうしたの?いま、どこにいるの?」
「・・・ねえ!どういうこと!なんで電話にでてくれないのよ!!」
「え!?いま出てるじゃん」
「なに馬鹿なこと言ってるのよ!!私を何時間も駅で待たして!!
何度もメッセージ送ったり電話してるのに全然反応がないから心配したんだから!!」
「え、え〜〜〜??」
「あなた、私の両親の御墓参りをほっぽり出してどこに行ってたのよ!」
「・・・」
「なに黙ってんのよ!!どこ行ってたの!!」
「・・・『ラブホテル』・・・に行ってました・・・」
「・・・ありえん。 別れましょう。」
後日、宣告通りに友人は彼女に振られることとなった。
作者退会会員
地方に住む友人が、風俗目的で街で唯一のラブホテルに入店した際に、H部屋を決めるモニターの前で両親と鉢合わせになった話に着想を得ました。
・・・越えられませんでした。
元カノの両親を殺めたのは元カノ自身です。
幽霊の元カノは、自分を振った友人をも殺そうとしましたが、両親の話で思い止まりました。
また元カノが語る両親の話に矛盾が多いのも、どうせすぐに殺すからと、いい加減に話しただけです。
そして友人の車から消えたあとに元カノは再びラブホテルに戻ります。
自分を虐待した両親の霊をまた殺めるために・・・