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中編3
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みどりのおばさん

学童擁護員(がくどうようごいん)とは、小学校の通学路上に立ち、児童の通学における安全確保に当たる職員のことである。女性の学童擁護員については、緑のおばさん(みどりのおばさん)という愛称がある。

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これは私がまだ小学校6年生だった時の話なんだけど。

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「○○子ちゃ~ん!」

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朝になると決まって聞こえてくる元気な子供の声。

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数人のクラスメートが玄関口に迎えにきてくれていて、私は母に見送られながらその子たちと一緒に集団登校をしていた。

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細い路地を皆とぞろぞろ歩き進むと、やがて大きめの交差点が見えてきてね、そこにはいつも【みどりのおばさん】が立っていたんだ。

黄色いエプロン姿の小太りなおばさんで、熱心に子供たちの交通誘導をしていた。

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赤信号の時は「はい、みんな止まって~」ってハキハキと大声で私たちの前を黄色い旗でさえぎり、

青信号に変わると「さあ、早く早く」って言って旗で誘導するんだ。

その様は本当に真剣そのもので、ちょっと怖い感じだった。

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一度母にそのことを話したら、こんなことを言った。

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「あの人ね前に小学生だった息子さんを、あの交差点で亡くしたそうよ。なんでも少年野球の見送りだったそうなんだけど、目の前でトラックに轢かれたらしくてね。それ以来ずっと朝な夕な、あそこの交差点で交通誘導しているみたいよ」

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その話を聞いた時何故だか私の頭には、過去のある情景が浮かんだ。

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朝の登校時、あの交差点で信号待ちしていた時のことだ。

私たちの真横には、いつものようにおばさんが直立し旗で前を遮っている。

その場にいた他の生徒たちのうち、数人は見送りの母親と手を繋いでいた。

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何気におばさんの方を見ると、その母子の様子をじっと見ているのに気付いた。

たたその顔には優しさの欠片もなく、怒りと羨望に満ちていて、まるでお伽噺の山姥みたいに醜いものだった。

その時私は何だか見てはいけないものを見てしまったという気持ちに襲われたことを、今もはっきり憶えている。

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そして、これは三学期の始まって間もない頃のことなんだけど

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朝方私はいつもの通り、皆と集団登校していたんだ。

しばらくすると、あの交差点が見えてきたんだけど、何かいつもと様子が違う。

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人だかりが出来ていてね、何だろう?って立ち止まって見てみると、歩道に救急車が停まっているんだ。

後ろのドアが開いていてね、隊員の人たちが担架を車の中に乗せようとしている最中だった。

担架の上には白いシートが被せてあったんだけど、隙間からチラリと子供の血にまみれた腕が見えたんだ。

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事故があったんだ、、、

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と思いながら見ていると、

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「わああああ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、、、」

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狂ったようにわめく女の声がする。

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驚いて見ると、あのおばさんが泣き叫びながら救急車の側を右往左往してるんだ。

最後は、救急車が走り去った後も歩道にうつ伏せになって、頭を抱えながら嗚咽をあげていた。

その様は本当に痛々しくて見てられなかったのを今でもありありと憶えている。

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事故の内容は、赤信号で横断歩道を渡ろうとした小学生の男の子が、トラックに跳ねられて亡くなったというものだった。

男の子は野球の朝練に向かう途中だったそうだ。

トラックはそのまま走り去っており、未だに見つかっていないという。

私はこのことを聞いた時、おばさんがいたはずなのに、どうしてその男の子は飛び出したんだろう?と思った。

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そして事故の翌日から、おばさんの姿は見られなくなった

3日経っても一週間経っても、あの交差点におばさんは現れることはなかった。

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後から分かったのは、おばさんは自宅アパートの一室で首を吊って亡くなっていたそうだ。

遺書が残っていたらしく、そこには交差点の事故の責任は全て自分ですと書かれていたという。

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警察の捜査途中で分かったのは、意外な真実だった。

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事故当日の防犯カメラ映像によると、

そこには一人信号待ちしている男の子が映っていたのだが、背後から突然その背中を突き飛ばすおばさんの姿が映っていたという。

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fin

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