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結局あれはなんだったんだろう?という話

中編3
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結局あれはなんだったんだろう?という話

私は今年40になる平凡な男です。

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私はつい最近まで、心霊現象の類いは一切信じておりませんでした。

でも先日のことなんですが、果たしてそのような現象と呼んでいいものかは分かりませんが、それに近い体験をしたと思います。

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それはまだまだ寒さの残る初春の頃。

かかりつけの眼科に行った時のことなんですが、そこはとても人気のあるところで、どんな時間に行ってもだいたい待合室は混んでいるんです。

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月曜日の夕方のことでした。

その日もやはり待合室の長椅子は全て埋まっていて、息苦しいほどの雰囲気でした。

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私はというと一番後ろの真ん中辺りに座り、ただ順番が来るのを待っていたんです。

初めのうちは時間潰しにパラパラと雑誌を読んでいたのですが、やがてそれも飽き雑誌から顔を上げると何となく前方を眺めていました。

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当たり前のことなんですが視界に入ってくるのは老若男女、様々な患者さんたちの背中背中背中です。

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ただひたすら何もせずにうつむき座っている老婆、

何やらひそひそ楽しげに話し込んでいる女子高生二人組、

新聞を拡げて読んでいるサラリーマン風の男性、

泣きわめく赤子をあやす女性などなど、、、

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様々な人たちの思い思いの様子を、背後からボンヤリ眺めている時でした。

その群衆に紛れてある女の姿が目に止まった瞬間、私はハッとしました。

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それはちょうど私の席から4つか5つほど前の長椅子の真ん中辺りに座っている女の人なんですが、

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彼女だけがこちらを向いているんです。

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他の人が皆背中を見せているなかでその人だけが何故だかこちらを向いて、じっとしてるんです。

肩くらいまでの黒髪をした色白の女の人で、黒いハイネックのセーターを着てました。

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よく見ると女の人は両目を目一杯開き口を半開きにしたまま何か心底驚いたような表情で、じっとこちらを見ているんです。

いやこちらを見ているかどうかは分からないのですが、とにかく後方の一点をただひたすら睨んで愕然とした顔をしています。

背後の窓から何か珍しい景色が見えているのかな?と私は思わず振り向いたのですが、窓には全てブラインドが降ろされています。

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─いったい何を見て驚いているんだろう?

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私の脳内は疑問符で満たされると同時に、心の奥からはじわじわと実体のない恐怖が押し寄せてきます。

女の人を見ていると、もう一つまた違った疑問が湧いてきました。

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それは女の人の真後ろに座っている女子高生二人組です。

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真ん前に座っている人が振り向いたままあんな形相で睨んでいたら、後ろの女の子たちにも何らかのリアクションがあっても良いはずですが、彼女らは何事もないように二人で話し込んでいます。

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まるでそこには誰もいないかのように、、、

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私は堪らず立ち上がると歩いて、受付カウンター横のトイレに入り洗面所で顔を洗います。

前日あまり睡眠が取れてないから、おかしなものが見えているのでは?と思ったからです。

姿見を覗き込み何度となく両頬を叩き目を覚ますと、トイレから出ます。

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そして再び席に戻る時、今度は正面からチラリとあの女の人の方に視線をやります。

その途端にゾクリと背筋に冷たい何かが走りました。

というのは変なんです。

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あり得ない姿勢をしているのです。

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普通正面を向いて座っている状態で後方を振り向いた場合、人の体というのはどうしても腰から上が後方に捻れるはずなのですが、あの女の人は胸もお腹も真っ直ぐ正面を向いているんです。

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つまり頭部だけが180度捻れて後方を向いている!?

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私は急いで元の席に戻ると、女の人の姿が視界に入らないように目を瞑り頭を抱えていました。

激しい心臓の鼓動を喉裏に感じながら、、、

すると

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○○さ~ん、○○さ~ん、診察室へどうぞー

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ようやく私の名前が呼ばれました。

私は立ち上がると、そそくさと診察室の方へと歩いて行きました。

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診察が終わり再び待合室に戻った時、もうあの女の姿はありませんでした。

それからその眼科には数回通院したのですが、再びあの女を見ることはありませんでした。

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あの女の人は何を見てあんなに驚いていたのか?

いや、そもそもあの人はこの世の者だったのか?

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女の人の驚愕に満ちた白い顔は、私の脳内のどこかに残像として張り付いて、今も取れることはないのです。

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fin

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