23年04月怖話アワード受賞作品
短編2
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視線

最近、よく目が合うんです。

ふと視線を上げると、あちらも私のことを見ていて。

最初は「気のせいかな?」とか、「私、どこかおかしなところでもあるのかしら?」と思っていました。

偶然にしてはよく目が合うので、「もしかして私の事が気になっているのかな…。」なんて考えてしまったり。

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最初に気がついたのは、職場の近くのカフェでした。

仕事終わりにコーヒーを注文して、窓際の席でぼんやりしながら外に目を向けると、通りの向こう側あたりからこちらを見ていました。

思わず私もしばらく見つめ返してしまいましたが、距離もあったので「別の何かを見ているのかも。」と思ってその時は特に気にしませんでした。

でも、その後も数回同じことが続き、なんだか居心地悪く感じてしまって、ついそのカフェから足が遠のきました。

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次は職場でした。

オフィスビル内の別フロアにある会議室に行くため5階下までエレベーターで降りると、フロアの端の方からこちらを見ていました。

「あれ、このビルに出入りしてたんだ…。」と思い、「あのあたりは、なんの会社が入っているんだっけ?」などと考えながら目的の会議室に向かいました。

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またある時は、家の近所にある本屋でした。

目当ての小説を見つけ陳列棚から引き抜くと、その奥からじっとこちらを見ていました。

声も出ないほど驚いてしまい、思わず手にした本を乱暴に平積み本に重ね、急いで店を後にしました。

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一番最初に目を合わせてしまったのがいけなかったのでしょうか。

その後もいろいろな場所、時間、ふとした瞬間にその視線を視界の端に捉えてしまいます。

しかも、徐々に私生活圏内にまで入り込んできているのです。

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オフィスのデスク横にある窓にくっつく様に…

マンションのエントランスにある郵便受けの投函口から…

少しだけ開いたキッチンの扉の隙間から…

トイレの天井にある小さな通気口の格子の向こうから…

ふと視線を動かすと、何か得体の知れないものがじっとこちらを見つめているんです。

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今も、背後にあるベランダのカーテンの隙間からきっと見ているはず。

私ったら、やめておけばいいものを、つい怖いもの見たさでそっと後ろを振り返ってみたんです。

そうしたら、顔の真ん前、今にもまつ毛が触れてしまいそうな距離に、真っ黒なほら穴のような瞳が………

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