【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編6
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入れ替わる

3週間前に、妻が失踪しました。

警察にもご協力いただいて探していますが、全く手掛かりがありません。

藁にもすがる思いで、皆さんにこれまでの経緯をお伝えします。

何か少しでもお心当たりのことがありましたら、情報をいただけるとありがたいです。

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妻は僕と同じ会社のCS部、いわゆる『お客様相談係』で働いていました。

もちろん困りごとの問い合わせもありますが、多くはクレーム対応を行う窓口です。

僕だったら絶対に選ばない仕事ですが、彼女は持ち前の柔らかな物腰で、たとえ相手がクレーマーであったとしても親身になってじっくりと話を聞くので、かなり強烈なクレーマーでも最終的には怒りをおさめ、通話を終えるころには会社や製品のファンになっているという仕事ぶりでした。

そんな妻が、

「最近、少し困ったことがあるの。」

と言い出したのは、2ヶ月ほど前のことでした。

電話対応中に通話を保留にすると、別のお客さんに回線が入れ替わってしまうと言うのです。

しかも、入れ替わる相手はいつも同じ人なのだとか。

最初は、女性からの問い合わせ対応時だったそうです。

用件を聞き通話を保留にして、製品情報を確認し再び受話器をあげると、男性の声で

「おい…。お前、いつまで待たせるんだよ…。」

と、ガサガサとした雑音と共に返ってきたそうです。

彼女は他のスタッフが対応しているお客様の保留電話に誤って出てしまったのだと思い、長時間お待たせしていることへの謝罪と誤って電話にでてしまったこと、担当者が回答に時間がかかっているようなので折り返し対応にさせていただけないか、と伝えたところ、

「…もういい…。また、かける…。」

と言い、切られてしまったそうです。

せめて電話番号だけでも控えようと通話履歴を確認するとディスプレイには『非通知』の文字…。

対応中のスタッフに申し訳ないことをしてしまったと思い同僚に声をかけて回りましたが、さして広くもない部署内に該当者が見つからず、困ってしまったのだとか。

先に対応していた女性からはすぐに折り返しがあり、保留直後にガサガサと雑音が入り始めたので携帯の電波が悪くなったのかと思って切ってしまったそうです。

そんな出来事も1度であれば、

「まあそういうこともあるか。」

で済むかもしれませんが、週に1〜2回、3〜4回と日を追うごとに増えていったそうです。

同僚に注意喚起したものの、他に同じことが起こった人はおらず、電話が壊れたのかと端末を取り替えても、変わらず同じ現象が起こっていたようです。

毎回用件を聞いても、

「…もういい…。また、かける…。」

と会話にもならないらしいのですが、声を荒げて恫喝するわけでも、長々と拘束されるわけでもないので、おかしいとは思いながらも、

「ああ、またこの人に繋がってしまった。通話を保留にしていたお客様にかけ直さなくては。」

と思う程度だったようです。

しかし、回線の入れ替わりが頻発し始めた頃から、妻は目に見えてやつれてきました。

元々細身だった手足はまるで枯れ枝のように痩せ細り、桃色だった頬は見る影もなく土気色…。

どこか悪いところがあるのではと、病院で何度も検査を受けましたが病気は見つからず、ただただ削り取られるように衰弱していきました。

とても仕事ができる状態ではなくなり、休職して自宅療養することになりました。

最初のうちは倦怠感が酷そうでしたが、しばらくすると段々と食欲が戻ってきて、

「帰りに〇〇買ってきて欲しいな。」

なんて、食べたいものをリクエストしてくれるようになり、ほっとしていました。

ところが、それから数日後、妻に帰宅連絡の電話をすると、10コール以上も呼び出し音が鳴ってから

「………〇〇くん…?」

と、怯えるように妻が応答しました。

続けて、

「良かった…!早く帰ってきて!私の携帯に電話がかかってきたの…!」

と、珍しく取り乱した妻の声が聞こえてきました。

これは只事ではないと大急ぎで帰宅し、何があったのか尋ねると、僕が電話をする直前に会社から着信があったのだと話し始めました。

通話ボタンを押すと、聞き覚えのあるガサガサとした雑音とともに、

「おい…。お前、いつまで待たせるんだよ…。」

という声が聞こえ、反射的に通話を切ってから、激しい恐怖に襲われたそうです。

僕が妻の携帯の着信履歴を確認すると、『CS部1番』と『〇〇くん(僕)』の間に『非通知』の文字がありました。

会社からの回線が、入れ替わったようなのです。

回線が入れ替わる理屈はわからないものの、度々かかってきた例の電話は自分への嫌がらせだったのではと怯え、再び体調が悪化してしまった妻は、自分の携帯電話を解約し、連絡ツールをPCメールと僕の携帯のみにしました。

僕の不在時に何かあったら心配だったので、玄関外とリビングに高画質防犯カメラと自動録画ができるインターホンも設置しました。

しばらくは何事もなく過ごしていたのですが…。

ある日、僕の携帯に『CS部1番』から電話が入りました。

妻への連絡だと思い通話ボタンを押すと、

「おい…。お前、いつまで待たせるんだよ…。」

ぎょっとしましたが、こいつが妻を苦しめている奴か!という怒りが勝ち、普段は出さないような大声で

「お前、一体誰なんだよ!なんでこの番号を知ってるんだ!?社内のヤツか!?なんか言えよ!!」

と怒鳴ると、雑音と共に

「…もういい…。また、かける…。」

と言い、通話が切れました。

初めて耳にしたその声は、違う次元から響いてくるような掴みどころの無い声で、これまでとは角度の違う不吉な予感がよぎりました。

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その翌日に妻が失踪しました。

すぐに警察に連絡し、嫌がらせ被害に遭っていた事を伝えたうえで、設置していた防犯カメラを一緒に確認すると、運送業者が玄関のインターホンを押し、妻がリビングで応対している様子が映っていたのですが…。

妻はモニターを確認しながら

「はい。」

と応答をしたとたん、

「やだ!どうして!?」

と言うと、その場にしゃがみ込みました。

その間、玄関の配達員は不思議そうに何度かインターホンに向かって呼びかけているのです。

しばらくして配達員は諦め、不在票をポストに入れて帰っていきました。

後に、不在票を挟んだ配達員にその時の状況を聞くと、「はい。」と応答があった直後、急にガサガサと雑音が入り始めたので、インターホンの調子が悪いのかと思い何度か呼びかけたものの応答がなく、出てくる様子もなかったので仕方なく不在票を入れたと…。

しかし同時刻、インターホンの録画画面の方には…。

配達員が映り、妻が「はい。」と応答したと同時に、暗くザラザラとした荒い画像に切り替わり、

「おい…。お前、いつまで待たせるんだよ…。」

という音声が…。

画像確認をしていた2人の警察官は、

「うん?何だこれ。イタズラ、かなぁ。いや、でもおかしいな…。」

「これ、監視カメラと同じ時間帯のはずですよね?インターホンの時間設定もずれてないし…。昼間なのに随分暗いですよね。」

「うーん、データが途中で切り替わったのか…?」

と、何度も繰り返し再生していました。

でも、僕だけは分かっていました。

回線が、入れ替わったのだと…。

リビングの防犯カメラに映る妻は、しばらくうずくまり俯いていたかと思うと、不意にゆらりと立ち上がり部屋着に裸足のまま玄関から表に出ていきました。

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それから何の手がかりもないまま、3週間が経ちました。

僕は今、携帯電話を解約しビジネスホテルやネットカフェを転々としているので、連絡は取りづらいと思いますが、何かお心当たりがある方はメールをいただければと思います。

だって、かかってきたんです。

僕の携帯に、何度も。

「おい…。お前、いつまで待たせるんだよ…。」

「…もういい…。また、かける…。」

と。

僕の体重、すでに15キロ減っていて、歩くのもやっとなくらいの倦怠感なんです。

妻から僕に、対象が入れ替わったのだと思います。

早く、早く、妻を見つけて対象を再び入れ替えなくては、僕はどうなるのでしょう…。

ああ、ルームサービスが来たみたいです。

インターホンが鳴っているので、この辺で失礼します。

Concrete
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