私が小学校5年生の時のことです。放課後、図書室で本を読んでいると、ある男性教師が入ってきました。
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40歳くらいで、前の年の担任だったのですが、水泳の授業で後ろから抱きつくようにして指導してきたり、
クラスで飼っていたうさぎを思い切り踏むまねをして笑ったり、些細なことで怒鳴り散らしたり、
男子生徒に教科書を投げつけたりするような教師で、クラスの中には怖くて学校に来れなくなる子も出たほどでした。
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私は顔を見るのも嫌だったので、読みかけの本を借りてすぐに帰ろうと思い、イスから立ち上がりました。
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すると、私のイスが、たまたま後ろを通りがかったその教師にあたりました。苦手意識からか目を見れず、下を向いたまま「すみません」と言い、早足で本を受付へ持って行って借りると、ランドセルが置いてある教室へ急ぎました。
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もう日も沈んだ夕方の、誰もいない薄暗い教室で、電気もつけず焦って本をしまっていると、いきなり後のドアが勢いよく開きました。
びっくりして振り向くと、あの教師が立っていました。
「なんださっきの態度は!」と怒鳴られたので、うつむいて「…すみませんでした。」と言うと、「それが謝る態度か?こっちに来てちゃんと謝れ!」と、また怒鳴りました。
怖くて泣きそうになり、下をむいて近付いて行って、顔を上げようとすると、教師のななめ後ろに、小さなこどもが立っていました。
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廊下も薄暗かったので、一瞬、低学年の子かなと思ったのですが、もっと小さい、幼稚園児くらいで、しかも古い、昔の中国の着物のような、そでもすそも長い服を着ていました。
赤ちゃんのようなうすい髪の毛のまるい頭で、そしてなにより、目が驚く程たれていて、唇は薄く大きく、にやにやと、ななめうしろからその教師を見上げていました。
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(なに…この子…?)と思っていると、教師が「おいどこ見てるんだよ。謝れ!」と言いながら、私の視線をたどって、ちらっと後を見た後、すぐこちらを見て「なんだよ?なめてんのか?」と言いました。
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(え…?見えてないの……?)と思った時、そのたれ目のこどもがにやにやしながら力み始めました。本当に、目尻が口の端につくような顔でにやにやしながら、肩をいからせていくのがわかりました。
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すると教師は軽い咳をし、自分の喉を触りました。
こどもはにやにやしながら、今度はくっくっくっと、力みながら笑いをこらえ始めました。
すると教師は、喉を両手で押さえて激しく咳をし始めました。
こどもはがくがくしながら笑いをこらえて見ていました。その時一瞬見えた口の中に、小さい、とがったぎざぎざの歯がたくさん見えました。
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教師が後ずさりするように激しくむせていると、廊下の遠くにいたらしい女性の教師が「大丈夫ですか?」と言いながら走ってきました。
そしてこどもの前を通った瞬間、その子はいなくなりました。
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男性教師は、駆け寄ってきた女性教師を振り払うような仕草をしたあと、私を睨みながら「さっさと下校しろ。」と言い、図書室の方へ戻って行きました。
今起こった出来事に呆然としながら、ランドセルをしょって、廊下に出ると、教師たちが並んで歩いて行く後ろ姿が見えました。
何かおかしいと思ってよく見ると、男性教師の、右のふとももの辺りに、さっきのこどもが絡み付くようについていました。
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帰り道、前にあの教師がうさぎを踏みつけるまねをして笑った時も、さっきみたいな激しい咳き込みをして、クラスのみんなで驚きながらも、黙ってじっと見ていたのを思い出しました。
あの子はそうしてずっと、あの教師にべったりついているのかもしれません。
作者もくれん