23年06月怖話アワード受賞作品
短編2
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壁を登る女

私が初めて、「そういうもの」を見た時の話です。

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小学校1年生の時、友達の家でファミコンをして遊んでいました。その子の家は、6階建ての団地の5階でした。

テレビに向かって右側にベランダがあり、網戸ごしに、向かいの団地の、ベランダのない、小さな窓が並んでいる面が見えました。

私がゲームオーバーになり、友達の番になったので、何気なく外に目をやりました。

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すると、腰までの長い髪で、ふくらはぎぐらいまでの黒いワンピースを着た女が、

1階の窓のひさしの部分から、となりの窓の方へ足をかけようとしているのが見えました。

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私は笑いながら、「あの人鍵を忘れたのかな?」と言いました。すると友達はゲームに夢中で、「え?」と言っただけでした。

ただ、何かがおかしいと思いました。よく見るとその女ははだしで、しかも窓のない、平らな壁の部分を、ゆっくり、

なんというか…機械的な動きで、全く力をかけずに、「くまで」の様な手の形で登っているように見えたのです。

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友達がゲームをとめ、「どこ?」と聞いてきたので、私は外を向いたまま「あの人」と言うと、友達は首をのばして向かいの団地を見て、

「だれもいないじゃん」と言いました。

その間も、女はゆっくり登っていっていて、私たちと同じ高さまで近づいてきていました。

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「え?あの人だよ!」と言いながらゆびを指すと、女の動きが、ぴたっと止まりました。

その時、(あ…聞かれた…)と思いました。距離からして、絶対にそんなことはある筈がないのに、はっきりとそう思ったのです。

そしてなぜか、見たくないのに、まるで固定されたように、目を逸らせないのです。

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息苦しくなりながら見ていると、女がゆっくり、こちらに顔を向けるように動き始めたのが見えたので、怖くなった私は「なんでもない!」と言い、テレビの方に頭をふり、友達もゲームを再開しました。

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目を逸らせられた事に少しほっとしながらも、まだ怖かったので、友達の話に返事もできずうつむいたままでいると、ふいにテレビ台のガラスが目に入りました。

そこにはベランダと部屋との境目が映っていたのですが、今度はそこから目を逸らせなくなりました。

(ああまただ…どうしよう…)と思い、ぎゅっと目をつぶり、ゆっくり開いて見てみると

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白い足首が立っていました。

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shake

驚いて思い切り息を吸ったところで意識が途絶え、気がつくとわたしは汗びっしょりで、その場であお向けになっていました。

玄関からバタバタと、私の母が入って来るのが見えました。後で聞くと、私は失神したらしく、心配した友達のお母さんが、母に連絡をしてくれたようでした。

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帰り道、何があったのか聞かれても、口にするのが怖かったので、何も言えないまま母にしがみついて家まで帰りました。

あの時見た

あの異様に白い足首を、

まだ忘れることができません。

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