中編7
  • 表示切替
  • 使い方

表情がない家族

S君とF子は今、会社の慰安旅行兼写真撮影で1か月ほど出張中だ

もうそろそろ帰ってくる頃

3人娘たちはF子が帰ってくるのをいまかいまかと待っていた

S君から今夜、我が家に来るとメールが来た

3人娘たちは大喜び

夜の8時過ぎにS君たちは家に来た

「ただいま!!」とF子の大きな声

3人娘たちは走ってF子を迎えた

久しぶりの大家族での夕食だ

カウンターやテーブルでは間に合わずにオヤジと私はソファで食事をした

もちろん中心はS君とF子だ

慰安旅行の話や写真撮影の話で盛り上がった

隣がオヤジでは何かしら食事がうまいと感じれないというかオヤジが邪魔

それを察したのか

「おい!せがれ、もっとおいしい顔で食べろよな」

「いや、オヤジが隣だとな・・・」

「なに!!この俺が邪魔か!」

「いや、別にそうは言ってないぞ」

「顔に出てるぜ、ちっ」

さらに食事がまずくなった

「あはははは、おやっさん、こっちにこればいいじゃん」

「お!さすがはSちゃんだ」

さっさとテーブルの席へオヤジは座った

「あっ!!じいちゃん、そこは私の席だよ」と楓はびっくりした顔でオヤジを見ていた

「あ・・・楓ちゃん・・・」

「もう!じいちゃん、いいよ、席を譲るよ」

「ごめんな」

「パパ!どういう顔をしてるの」と楓から言われた

「いや、別にな、オヤジが隣だったからな」

「じいちゃんが嫌なの?」

「いや、そうじゃなくて、なんかうっとうしかったんだよ」

「パパの表情ってたまに無くなるよね、ボケた顔じゃないよ、本当に顔の表情が無くなってるよ」

「え?パパの顔の表情が無くなるって?気にしていなかったな」

「でしょ、顔色が真っ青になるとか真っ白になるとかじゃなく、顔の表情がマネキンみたいになってるよ」

「え、マネキン・・って」

「全然、気づいてないよね、パパ、大丈夫なの?」

「大丈夫だと思うけど、全然気にしてないからね」

S君が話に割り込んできた

「そういえば、無表情と言えばS子だな」

「え!!Sおじさん、ママがどうかしたの?」

「あのな、楓ちゃん、S子の小さいときにな」

S君から前にも聞いた

S子の小学生の時だ

1週間ほどS子の表情が無くなるという摩訶不思議な症状?というか現象があったらしい

S君や両親が話しかけても話を聞いているのか聞いていないのか無視をする

母親が怒っても無表情

もちろん父親も怒ってもだ

本当に無反応で無表情

S君や両親は心底この現象に驚きと恐怖を抱いたと話していた

いつもS子はニコニコ顔でそんな無表情な顔など想像もできない

葵もいつもニコニコして悩みがあるのかないのかわからないほどだ

この2人が傍にいるとなぜか場が和むという癒し効果抜群なのだが

その現象?が私の無表情とよく似ているのだろうか

S子に無表情な顔の時を聞いてもその間の記憶が全然無いんだそうだ

両親はこの症状が出たときには学校を休ませていた

だからか・・・

S子がたまに登校しなかったわけがこれだったのか

S子がいないとF子がポツリと一人ぽっちになっていた

完全にF子は浮いていたからね

授業が終わったらすぐにF子の教室へ様子を見に行っていた

一人ポツンとしているF子が本当にかわいそうだった

S君や私を見ると嬉しそうな顔をしてくれた

「兄ちゃん!」と小さな声を掛けて寄ってきた

短い休憩時間をF子と一緒にいた

別れ際の悲しそうなF子の顔

今でも思い出す

「ね!Sアニキ!ちゃんと撮影できたの?」

「もちろんさ!」

「アニキ!!!嘘を言っちゃダメでしょ!ボケボケした写真ばかり!」

「いや・・・」

今じゃ・・・カカァ天下だよ

この元気さ、信じられん

「ママの無表情って、想像できないよ、パパ」

「パパもさ、1回も見たことが無い」

「だとおもう・・・一度S子の無表情を見るといいよ、そりゃ、能面みたいな顔だぞ、全然反応しないんだよ、

顔の表情もな、いつもニコニコしてるだけに恐怖心がすごいんだよ」

「私もS子姉さんの無表情は見たことないよ」

「あたちもだぞ、ママの無表情など見たことないんだぞ」と葵までしゃべってきた

「葵は何か悩み事あるの?」と意地悪く質問をした

「ううん、ないんだぞ!楓姉ちゃんや、兄ちゃんや、カナちゃんやパパやママがいるから無いんだぞ」とニコニコした顔で答えてきた

「この葵ちゃんの笑顔が小さい時のS子とそっくりなんだよな」と言いつつ、S君は葵の顔をいじくりだした

「やめるんだぞ、おじさん」と葵は抵抗をした

それでもS君は葵の顔をいじくっていた

((おい!いい加減にしろよな))

野太い声がした

全員が一瞬、「えっ」と戸惑いの顔をした

今の声は葵なのか?と全員が一斉に葵の顔を見た

葵の顔が笑っていなかった

「葵!パパ!!!」

葵の顔が無表情にS君を睨みつけていた

家族全員が凍り付いた

S君は完全に固まっていた

「葵!葵!」と楓は何度も名前を呼んだ

葵は完全に無表情になり立っていた

「ごめん・・・余計なことをした」とS君は平謝り

「この顔だよ、S子の無表情な顔とそっくりだ」とS君は震えた声をだした

「葵の顔、無表情なパパの顔とそっくり」と楓もびっくりした声を出した

オヤジがリビングへ来た

「騒がしいぞ!静かにしろよな!・・・ええええ」とオヤジのびっくりした顔

この場の雰囲気にオヤジもびっくりしていた

「葵ちゃん、あかんぞ、完全に魂が抜けてる、おい!!葵ちゃん!!」とオヤジは葵に大きな声を掛けた

全然反応なし

無表情のまま

「こりゃまずいぞ、せがれ、葵ちゃんの背中を強く叩くからな、いいよな?」

「え、あああ、頼むぞ、オヤジ」

「葵ちゃん!!!今から背中を叩くからな、すまんな」と言い

おもっきし葵の背中を叩いた

いきなり葵が泣き出した

「ほっ、良かった、魂が戻ってきた、痛かったね、ごめんよ、葵ちゃん」

「じいちゃんが叩いたんだぞ!!!葵を叩いたんだぞ!痛いんだぞ!パパ、痛いんだぞ」とわたしの傍に駆け寄って大泣きをした

家族全員がホッとした

「おやっさん!すまん!葵ちゃんに余計なことをしちまった!」と頭を下げた

「Sちゃん、魂が戻ってきたからよかったものの、もう後数秒で魂が抜けていたぞ!おい!いくらSちゃんでも今回は許さんぞ」とものすごい形相でオヤジはS君を睨みつけた

これにはさすがにS君も恐怖心なのかオヤジに土下座して謝っていた

オヤジも自分の怒り心頭を察したのかハッという顔になっていた

しまった、という顔だった

「あかん、我を忘れるところだった、危ない、危ない、Sちゃん、ごめん、体を起こしてくれ」

「おやっさん、ほんとうにすまない、葵ちゃん、ごめんな」

「Sおじさん、何で私に謝ってるんだぞ?」と葵はキョトンとした顔になっていた

「これなんだよ、無表情の間は全然記憶が無いんだよ、S子もそうだった、あの無表情な顔、思い出すとゾッとする」

「おっちーー!私、全然記憶が無いんだぞ、気づいたら1週間ほど過ぎていたんだぞ、不思議なんだぞ」

「一体何なんだよ」とS君は顔を上に向けた

「恐らくよ、今さっきのような感じでS子ちゃんの場合はよ、魂が抜けたんだと思う、でも1週間ほどして戻ってくるって、どんな仕組みなんだ」とオヤジは頭をかしげていた

「じいちゃ!パパの無表情は魂が抜けたの?」と楓がオヤジに質問をぶつけた

「いや、せがれの場合は単にボケだろうよ、いつもボォーとしてるからよ、毎日魂が抜けてるんだろう」とオヤジは大笑いをした

家族も大笑い

「良かった、単なるボケだったんだ、心配して損した」と楓は私の顔を見て笑っていた

オヤジよ!家族の笑いものになったじゃないかよ

「さぁてと・・・仏間へ行くかな」とオヤジはつぶやいた

「私たちも一緒に行くよ、じいちゃ」

3人娘とオヤジは仏間へ行った

しばらくしてオヤジが来た

「ふっ・・・危なかった・・危うくあいつらの思う壺にはまるところだった」と言いながらリビングへ来た

「おやっさん、本当にすまない、まさかあんな展開になるとは思わなかった」

「Sちゃん、いいよ、あれは本気じゃないからな」

「おやっさん・・・」

「オヤジよ、あいつらって?」

「ああぁ・・・あいつら・・・葵ちゃんの体に入りかけていた奴だよ、もう少しで乗っ取られるところだった」

「本当か、オヤジ」

「あぁ・・見えたんだよ、無表情な顔をした奴がよ、入りかけていた」

「まさかS子の場合もそいつらかな」

「その場にいないからわからないけど恐らくな」

「とにかくよ、我が家はお化け屋敷だということを常に持っていないといけない

怒りや悲しみの感情は悪霊を呼び寄せるからな

感情豊かなのはいいことだけどな」

「それとな、せがれよ、ボォーとしてる時が一番危ないぞ

外や会社はいいけど家の中でのボォーは体を乗っ取られるぞ」

「マジか・・・自分自身はボォーとしていないんだけどな」

「それだよ、自覚が無い、非常に危険だぞ」

夕食時に我が家はお化け屋敷だともう1度家族に教えた

夜の10時以降朝5時までは家から出ないこと

必ず薬とお守りを持つこと

我が家の家訓?になった

Concrete
コメント怖い
0
3
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ