知人から聞いた話です。
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「はぁ…」
下駄箱でスリッパに履き替え、静まりかえった校内を歩くK子。
小学校に来るのは一学期の保護者会以来なので二か月ぶりだ。
『ご多忙のところ大変恐縮ですが、お話したいことがございますので、今週ご都合良い日にお越しいただけますか』
仕事から帰宅してすぐに小学校の担任から電話があり、急遽、担任と会うことになった。
「はぁ…」
小学校で何かあった時は電話だけで済む事がほとんどなのだが、今回は珍しく直接会って話したいということだった。
息子に小学校で何かあったか訊ねてみたが、特に何も無いの一点張り。
いじめも無く、喧嘩も無く、忘れ物で怒られるようなことも無いとのことだ。
「はぁ…」
電話で話せない程のことをやらかしたのだろうか。
K子の足取りは非常に重かった。
目的の教室は明かりがついており、歩いてくるK子に気が付いた担任は立ち上がり、会釈した。
「お忙しいところ申し訳ございません。こちらにどうぞ」
向かい合わせにされた二つの机まで案内され、K子は椅子に座った。
「早速ですが、こちらはご家庭でご覧になりましたか?」
担任は机の上に一冊のノートを置いた。
表紙には大きく自由研究と書かれており、下の方に息子の名前も書かれている。
「いえ…夏休みの宿題はワークブックの丸付けも自由研究も習字も全て主人に任せていたので…」
「そうでしたか…ここで内容を確認していただけますか」
「あ、はい…」
K子はノートを手に取り、自由研究の表紙をめくった。
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1ページ目。
1行目には【6月1日】、2行目には【きれい。】と書かれており、その下にはポラロイド写真が貼り付けてある。
写真には裸足の左足、指が五本写っているだけだ。
K子はページをめくった。
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2ページ目は白紙。
3ページ目。
1行目には【6月8日】、2行目には【いたそう。黒い。】と書かれており、その下には1ページ目と同様にポラロイド写真が貼り付けてある。
写真には左足の親指がアップで写っており、爪の部分が真っ黒に変色していた。
「あ…」
「どうされましたか?」
「これ、主人の足です…。息子の遠足の準備で麦茶を水筒に入れた後、足の指に落として怪我して…」
「そうですか…ご主人の…」
「…」
K子はページをめくった。
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4ページ目は白紙。
5ページ目。
1行目には【6月15日】、2行目には【まだ黒い。】
ポラロイド写真は2ページ目と同様に爪が真っ黒な左足の親指。
K子はページをぱらぱらとめくり続けたが、内容としては1週間ごとに足の指がどうなっていくかの経過観察だった。
爪が伸びて付け根が徐々に白くなっていく。
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そして写真が貼り付けられた最後のページ。
1行目には【8月24日】、2行目には【とれた。】、3行目には【つめが取れるまで78日かかった】
ポラロイド写真はこのページだけ二枚貼られていた。
一枚目は爪が剥がれた直後であろう黒い内出血の跡が若干残る左足の親指。
二枚目は剥がれた真っ黒な爪。
「…」
「自由研究の題材として、爪が伸びる経過を観察したものは何度か見たことがあるのですが、爪が剥がれる経過というのは初めてで…」
「そうですよね…何だか申し訳ございません…」
「いえ、それでご相談なのですが…夏休みの課題について、来週から隣の空き教室に展示することになってます」
「展示ですか…」
「はい。大変申し訳ないのですが、この自由研究を展示するのは問題があるかと思い…」
「そうですよね。さすがに他のお子さんにも悪影響があるかも知れないので、習字だけ展示いただけると幸いです」
「承知いたしました。では、こちらの自由研究は展示せずに私の方で保管しておきます」
そう言って担任が自由研究のノートを手にした時、机の上に何かが落ちた。
「ん?」
「え?」
机の上には爪切りで切ったと思われる1ミリ程度の爪くず。
その後もポロポロと細かな爪くずが机の上に落ちた。
「ちょっといいですか?」
K子は担任から再度ノートを受け取るとパラパラとめくった。
そして違和感に気が付いた。
ノートの裏表紙の裏と最終ページが糊付けされていた。
「すみません、ハサミかカッターをお借りできますか?」
「…。あ、はい」
担任は立ち上がると教員用の机上に置かれたハサミを手に取り、K子に手渡した。
ハサミを受け取ったK子は最終ページの右側に下から上に切り込みを入れ、ノートを傾けた。
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口元を押さえるK子と担任。
机の上にはノートから落ちた大量の爪くずと真っ黒な爪。
最初はポラロイド写真に写っていた夫の爪かと思ったが、どうやら違う。
真っ黒な爪は一枚だけではなく、十枚以上あった。
「すみません、このノート、爪と一緒に捨てておいていただけますか…」
「はい…」
「本日は失礼します…」
「はい…」
互いに会釈すると、K子は足早に教室を後にした。
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帰宅するまでの間、K子は自由研究の内容で頭がいっぱいだった。
何故、爪が剥がれる経過を題材にしたのか。
何故、大量の爪を袋とじのようにしてノートに隠したのか。
ただ、それよりも気になる点が一つあった。
何故、怪我をする一週間前の綺麗な状態の左足の指のポラロイド写真があったのか。
怪我をしてから経過を撮影するのであれば、腑に落ちるのだが、怪我をする前の写真が存在することに違和感を感じていた。
日頃から足の指を撮影していた?
足の指を怪我するのを知っていた?
それとも、わざと怪我をした?
夏休み以前から撮影していたのは、夏休みに入ってからの怪我では夏休み中に爪が剥がれず提出が間に合わないから?
自由研究について夫と息子を問い詰めようか悩んだ末、K子は黙認することを選んだ。
これまで全く問題の無かった家庭が壊れるような気がしたのと、最悪の場合、自分にも危害が加えられるような気がしたからだ。
翌年以降、学校からの課題には積極的にK子も手伝うことで、この日以降、小学校に呼ばれるようなことは無かった。
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数年後。
電車と新幹線を乗り継ぎ、夫の実家に向かうK子。
実家といっても夫の両親は既に他界しており、年に数回、別荘として利用する程度だ。
今年は息子の夏休み中、夫が二週間の長期休暇を取得した為、先々週から夫と息子は二人で別荘暮らしだ。
共働きのK子は長期休暇が取得できず、最後の土曜から合流することになっていた。
久々に会えるのを楽しみに、K子は電車内でひと眠りした。
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実家の最寄り駅に到着したK子。
車で迎えに来るはずの夫に電話するも繋がらない。
息子の携帯に電話するも同様に繋がらない。
「おかけになった電話は、電波の届かない場所にいるか、電源が入っていない為、かかりません」
何度電話しても同じアナウンスが流れるだけだった。
到着時間は事前に伝えてあった為、とりあえず待つことにしたが、三十分待っても迎えに来る気配が無い。
K子は閑散とした駅前でタクシーを拾い、実家に向かった。
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「ありがとうございます。ここで大丈夫です」
緑豊かな風景。
山の麓にある実家から少し離れたところで降ろしてもらった。
迎えに来なかった罰として、こっそりと登場して驚かせてやろうと思ったからだ。
走り去るタクシーに会釈し、夫の実家へと向かった。
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「え?!」
実家に近づくと、黒煙が上がっているのが見えた。
「嘘でしょ?!火事?!」
焦ったK子は急いで煙の元に駆け寄る。
夫の実家には母屋と納屋があり、母屋と納屋の間にある庭から黒煙が上がっていた。
出火元は庭に置かれた三つのドラム缶だった。
どうやら野焼きしているようで、母屋と納屋が燃えているわけでは無かった。
K子が安心した直後、納屋から出てきた息子と目があった。
「ちょっと!何してんの?!」
「あ、お母さん!お父さんの手伝いだよ」
息子の手には黒い毛だらけの肉片。
息子は燃え盛るドラム缶の中に肉片を放り投げた。
「さっき、おじさんが山で熊を仕留めてね。お父さんがそのまま譲ってもらったんだ」
息子は納屋に駆け込み、再度、肉片を手にして戻ってきた。
「お父さん、昔、おじいちゃんと一緒に熊を捌いたことあるんだってさ!本当に上手だよ!」
満面の笑みを浮かべながら、ドラム缶の中に肉片を放り投げる息子。
納屋に駆け込む息子と入れ違いで別の人が納屋から出てきた。
薄汚れた作業着姿で、顔は人間ではなく熊だった。
「ひっ!」
小さな悲鳴をあげ、後ずさりするK子に近づく熊人間。
「驚いた?」
熊人間の正体は夫だった。
切断した熊の頭部を両手で持ち、顔の前で掲げているだけだった。
熊の頭部を横にずらし、無邪気な笑顔を浮かべる夫。
「もう!やめてよね!ねぇ、何で迎えに来ないのよ!」
「あれ?もうそんな時間?ごめんごめん。突然、親戚のおじさんが来てさ、もらった熊の解体してたらうっかり。あ、写真撮る?」
「撮らないよ!」
「そっかそっか~」
夫は笑いながら熊の頭部をドラム缶の中に放り投げた。
「あ、来て早々悪いんだけど、少し手伝ってもらえる?」
「ん?何を?」
「納屋に臓物をまとめた黒いビニール袋がいくつかあるからさ、ドラム缶に入れるの手伝ってくれる?そんなに重くないから」
「え~嫌だよ!力仕事は無理」
「そうなの?夕飯は熊肉フルコースなんだけどなぁ~美味しいのになぁ~」
「…」
「働かざる者、食うべからずかなぁ~」
「はいはい!分かりましたよ。荷物置いてくるからちょっと待って」
「ありがとう!玄関に作業着用意してあるから、それ着て来てね!よろしくね!」
「はいはい」
黒いビニール袋は一つ2~3キロくらいの重さがあり、全部で20袋以上あった。
K子は文句を垂れ流しながら、家族全員で手分けして、黒いビニール袋をドラム缶に入れ終えた。
夕飯の熊肉フルコースは本当に最高の美味だった。
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翌日。
Jポップの人気曲が流れる車内。
後部座席に座る息子が嬉しそうに連休中の出来事を語ってくれた。
山でキャンプ、川でバーベキュー、車で行ったショッピングモールのゲームセンターで遊んだ等々。
「あ、そうだ!お母さん知ってる?」
「何?」
「あのね~」
「あ、そこのコンビニでトイレ休憩良いかな?」
一時停止中に振り返り、後部座席に座る息子に話しかける夫。
「あ、僕もトイレ行きたい」
少し前にもコンビニに寄ったばかりであったが、その時はK子がお手洗いに行っただけだった。
「さっき行けばよかったのに」
「さっきは尿意が無かったんだよ」
「私は車でお留守番してるよ」
コンビニに駐車し、夫と息子はコンビニに入って行った。
待っている間、K子は日焼け止めを塗ろうとポーチを探っていた。
出発した時は曇っていたが、今は陽の光が眩しい。
「あれ?旅行バッグの方かな?」
日焼け止めが見つからず、K子は助手席から降りると、車のトランクを開けた。
K子の旅行バッグは夫と息子の荷物の奥にあるようで、手探りで旅行バッグのサイドポケットを漁る。
「あった!」
お目当ての日焼け止めを手にしたK子がトランクを閉めようとした時だった。
「ん?」
夫の手荷物から白い紙切れのようなものが数枚覗いている。
K子はそのうちの一枚を手にした。
ポラロイド写真だった。
「お母さん?」
表面を確認しようとした時、戻ってきた息子に声をかけられたK子は咄嗟にポラロイド写真をポケットにしまい、トランクを勢いよく閉めた。
「あ、お帰り。お父さんは?」
「僕の次にトイレ入ったから、そろそろ出てくると思うよ」
「あ、やっぱりお母さんもトイレ行っておこうかな」
K子は後部座席のドアを開け、冷房が効いた車に息子を乗せると、コンビニに入った。
「あれ?またトイレ?」
「ちょっとお腹痛くて…」
「大丈夫?」
「うん。車で待ってて」
男女共用トイレから出てきた夫と話し終えたK子は女性専用トイレに入り、鍵を掛けた。
ポケットに手を入れ、ポラロイド写真に触れた。
「まさかね…」
また爪の写真だったら嫌だなと思いながら、K子はポラロイド写真の表面を見た。
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爪は写っておらず、安堵したK子であったが、それはほんの一瞬に過ぎなかった。
「え…何?これ?」
ポラロイド写真に写っていたのは人の首。
首にはロープのようなものが巻かれており、首の根元には赤黒い線。
ロープと赤黒い線の間を測るかのように、首の中心にはメジャーがあてられている。
余白には日付と首の長さの計測結果。
【コンコンコン】
「?!」
突然、トイレのドアがノックされ驚いたK子。
「大丈夫?」
ドアの向こうからK子に話かけてきたのはK子の夫。
「うん。そろそろ出るよ~」
K子は手元のポラロイド写真を見つめながら悩んだ。
爪の時と同様、夫や息子に尋ねることができるような内容ではない。
この状況で夫にバレずにポラロイド写真を手荷物に戻せる自信が無い。
「…」
決心したK子はポラロイド写真を細かく破り、備え付けのサニタリーボックスに棄てた。
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数年後。
Kポップの人気曲が流れる車内。
助手席に座るK子は長閑な風景を眺めている。
ハンドルを握る息子の横顔は前夫によく似ている。
久々の親子水入らず。
お互いに一人暮らしの状態だが、定期的に息子がドライブや旅行に連れて行ってくれるのがK子の楽しみだった。
ただ、今回はいつもとは違う。
息子から突然『母さんにどうしても会わせたい大切な人がいる』と連絡があり、今に至る。
恋人はどんな人だろうかとK子は期待に胸を膨らませたが不安もあった。
出発してから既に二時間近く経っており、恐らく遠距離恋愛だということだ。
「あとどれくらいかな?」
「一時間ぐらいかな?」
「ちょっと疲れちゃったからひと眠りするね」
「おっけー。着いたら起こすよ」
息子はカーオーディオの音量を下げ、K子は目を瞑った。
眠りにつくのに時間はかからなかった。
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「母さん。着いたよ」
息子に起こされ目を開くK子。
「着いた?、運転ありが…、え?」
恋人の家に到着したのかと思い込んでいたがK子は愕然とした。
眼前には見覚えのある風景が広がっていた。
前夫の実家だ。
来るのはあの日以来。
車を先に降りた息子が納屋の前から手招きしている。
状況が飲み込めないK子は思考停止した状態で車を降りると、納屋へと向かった。
息子は南京錠を外すと、納屋の扉を開け、入り口近くのスイッチを押した。
チカチカと不安定な照明。
「う…」
納屋から流れ出る異臭に吐き気を覚えたK子は手で口元を押さえた。
納屋の中は奇麗に整頓されており、中央の床にクーラーボックスが置かれている。
納屋の奥には中身が入っているであろう真っ黒なビニール袋が大量に並ぶ。
クーラーボックスの横には見覚えのある薄汚れた作業着が丁寧に畳まれている。
そして、クーラーボックスの上にはポラロイドカメラと大量のポラロイド写真。
「さぁ、入って入って」
息子から優しく背中を押されたK子はゆっくりと納屋の中央に向かった。
しゃがみ込み、ポラロイド写真を何枚か手にする。
「ちょっと…これって…」
全てのポラロイド写真に写っているのは人の首だった。
土気色に変色した首にはワイヤーロープが巻かれており、首の根元には赤黒い線。
ワイヤーロープと赤黒い線の間を測るかのように、首の中心にはメジャーがあてられている。
余白には丸数字と日付、それに首の長さの測定結果が記入されていた。
「母さんも結果が気になってたよね?あの日、写真見てたよね?」
「…」
「あの時は全然日数が足りなくてさ。母さんも来るし自由研究は中止したんだよ」
「…」
「あと、これも」
息子はスマホをK子に手渡した。
画面には前夫からの長文メッセージが表示されている。
メッセージを凝視するK子。
「え…」
内容は遺書だった。
延々と謝罪文が続き、【K子をよろしく頼む】と書かれていた。
そして最後の一文。
【自由研究の続きは父さんでやりなさい。これ以上、他の人に迷惑はかけないように】
「おかげさまで今回は自由研究完成したよ」
息子はクーラーボックスの上のポラロイド写真を全て手に取ると、K子の目の前で一枚ずつ捲っていった。
まるでパラパラ漫画のように首吊り遺体の首が徐々に伸びていった。
胴体の重さに耐えきれず、首の骨が少しずつ骨折したのだろうか。
元々の倍くらいまで伸びたところで、頭部が取れてしまった。
最後の一枚。
肌は浅黒く、眼球と舌が飛び出した頭部が写っていたが、誰なのか全く分からない状態だ。
「最期に会いたいかと思って、一応、取っておいたよ」
息子がクーラーボックスを指差した。
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とある質問掲示板。
『家が火事になると人はどれくらいで死んでしまうんですか?』
子供が書き込んだであろう質問に、様々な回答が寄せられていた。
その内の一つに別サイトへのURLが貼られている。
リンク先にアクセスすると動画が再生された。
田舎の納屋らしきドアに南京錠をかけ、周囲に灯油を撒いた後、火をつけている。
ヘッドマウントカメラで撮影した放火の瞬間だ。
火がついた直後、画面左上にタイマーが表示された。
納屋の中からは助けを求める女性の叫び声が聞こえるが、音声が所々途切れている。
名前を叫んでいる箇所を無音に編集しているからだ。
しばらくして、声が聞こえなくなったところで、タイマー表示が止まり、画面が真っ暗になった。
私はワイヤレスイヤホンを取り外すと、隣に座る男性に声をかけた。
「休憩できましたか?そろそろ行きましょう」
「はい!」
私はカメラが取り付けられたヘルメットを男性に手渡した。
「今日は五階を探索してみようと思います」
「了解です!それにしても雰囲気ありますね…この廃ホテル…」
「そうですね。私は何度も来てるのでもう慣れましたが期待して良いですよ。参加者は皆さん必ず絶叫してます」
「マジですか?絶対出るってことですよね?!すげー楽しみです!」
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とある個人ブログ。
ポップなデザインと可愛らしい背景イラスト。
ブログのタイトルは【自由研究】
説明文に投稿内容は全てフィクションである旨、明記されている。
投稿記事は全11回。
各記事には動画のURLと一言コメントが記載されていた。
【1日目:屋上】即死
【2日目:八階】即死
【3日目:七階】即死
【4日目:六階】即死
【5日目:五階】即死
【6日目:四階①】まだ生きてる
【6日目:四階②】二回目で死んだ
【7日目:三階①】まだ生きてる
【7日目:三階②】まだ生きてる
【7日目:三階③】まだ生きてる
【7日目:三階④】四回目で死んだ
作者さとる
夏ですね。