珍しく楓が慌てている
「ない!ない!・・・宿題のノートが無い!!もしかしたら・・・教室かな」
「どうした?」
「パパ、大変、明日に出す宿題のノートを学校に忘れてきた
明日出すんだよ、今日中に宿題をしないと・・・」
「え・・・もう10時を過ぎてるよ、無理だよ」
「パパ、おねがい、学校へ行ってノート取って来て」
「え・・・でもな・・」
「ね、わたしもついていくからね、ね!」
「いや・・でもな・・・」
「パパ、怖いんでしょ?」
「いや・・怖くは無いよ・・・」
「うそ!顔に出てるよ、パパ」
「まぁ・・・パパが小学生の時に・・・ちょっと怖い目に合ったからな」
「え・・・ほんとう?」
「だからが夜の学校は行きたくないんだよ・・・」
「でも・・宿題、明日に出さないといけないんだよ、パパ」
「う・・・ん・・・わかった、一緒に行こう」
「うん!!!」
「ちょっと待て!」
「じいちゃ・・・」
「くそ坊主が夜の10時以降は外へ出るな、言ったろ、それと学校へ許可なしに入ったら不法侵入だぞ、
楓ちゃん、諦めな」
「え・・・そんな・・・」
「担任の先生に電話をして事情を話してごらん、楓」
「うん」
「パパ、先生は校長先生に聞いてみるってさ」
しばらくして電話がかかってきた
「はい、・・え?・・・M君も宿題のノートを忘れたの?、はい・・・わかりました」
「パパ、私のクラスメートのM君も宿題のノートを忘れたみたい、先生が「一緒にノートを取りに行きなさい」と言ってたよ、M君ね、家に来るって」
「そうなの・・・」
ちょっと嫌な予感がしてきた
「S君、今から家へ来てくれ」とメールを打った
一応、オヤジにも来てもらうことにした
家に男性の大人がいなくなるのでS君を呼んだ
S君が来るならF子も一緒だ
およそ30分後にM君が来た
「楓ちゃん!いる?」
玄関先から聞こえてきた
楓が急いで玄関へ行った
「パパ、M君来たよ」
楓がM君を連れてリビングへ来た
「すいません、僕も宿題ノートを忘れてしまいました」と頭を下げた
内心、ホッとした
もっと性格の暗い子が来るのかと思っていた
「楓ちゃんと同じクラスのMと言います」と挨拶をしてくれた
楓の様子が少しおかしい・・・あ・・なるほどね
「とりあえずは学校へは行くけどもう少し待っててほしい」
30分後にS君とF子が来た
「ただいま!」と元気のいいF子の声
「F子姉ちゃんが来た!!」と3人娘たちが走って玄関へ行った
「アニキ、来たよ」
S君に事情を話した
「そっか、学校か・・・あんまし・・・OK、留守番しとくわ、とにかく気を付けてくれよ、何かあったらすぐに連絡しろよ」
S君も夜中の学校は・・・同じ体験者だからな
「あ・・午後11時か・・・急いで行こう」
「準備はOkだね」
「OKだよ、パパ」
「オヤジ、行くぞ」
学校までは1.5kmある
小学生のころ通った道
夜の通学路はさすがに不気味だ
とはいえほぼ家屋のある道を歩くだけだが
オヤジの様子がおかしい
頭を左右に振っていた
「オヤジ、どうした?」
「おい、せがれ、学校の道って・・・こんな感じたったか?」
「そうだよ、オヤジ、もう何十年と通ってないだろ?昔と違うぞ」
「まぁ・・・そりゃ・・・そうだな」
しかし、正直私も何か変だと思い始めた
周りの風景とかもちろん昔とは変わってる
でもなぜか家屋が古っぽいというか・・・夜だからかな?
「パパ・・・この道って合ってるの?」と楓が言い出した
「え?・・学校へ行く道だろ?」
「なんか違うよ、途中で道を間違えたのかな?」
「でも・・学校の道はあの曲がり角からそのまま一直線だよ、迷うことは無いと思う」
「え?・・・パパ、違うよ、途中で交差点あったでしょ?そこを右へ曲がるんだよ」
「えええ・・あれ?そうだったかな?確か一直線のはずだったと思うが・・・」
「あ・・・そっか、パパたちの時はそうだったのかも、今はね、右へ曲がらないと学校へ着かないよ」
「うそ!!知らなかった・・・」
「引き返すぞ、せがれ」
「そうだな」
今と昔とではこうも違うのか
正直記憶もあいまいで自信が無い
なにか狐に包まれたような気分だ
交差点まで引き返して右へ曲がった
もう全然ダメ
全然記憶が無いというか通ったことあるのか?という状態
オヤジはもう完全に楓の後ろから付いて行ってる
「もうそろそろかな・・・」
でも1.5kmってこんなに遠いのか?
「楓・・・全然着かないよ」
「パパ・・・おかしいよ、もうそろそろ学校の建物が見えてくるはず」
もう家から1時間は経ってる
「なんか・・・途中で道を間違えたのかな」
「ううん、あそこの交差点を右へ曲がってしばらく歩くと学校の建物が見えてくるんだよ」
「でも・・・見えてこないよ」
これはもう完全に道に迷ったに違いない
「もう完全に道に迷ったんだよ」
「でも・・私たちは学校へ行くときはこの道を歩くんだよ、パパ」
スマホのGPSに頼ろう
「え・・・えええ!!!マジか・・・圏外になってる・・・街の中だぞ・・山奥じゃない
周りは家屋だらけだぞ・・・」
「おい・・せがれ・・・今、何時だ?」
「今、午前1時過ぎ」
「それにしては・・・家の一件くらい明かりがあってもいいだろ、周りの住宅、1軒も明かりがついてないぞ」
「もう夜も遅いよ、点いてなくてもおかしくは無いと思うけど」
「そっかな・・」
「それよりもGPSが使えない、圏外になってる」
「え!!パパ、圏外って・・・住宅地だよ」
再起動やONOFFをしても圏外になってる
「こりゃ・・・あかんぞ、一旦、戻ろう、知ってる道へ出よう」
オヤジの言う通りだ
迷ったらすぐに元来た道へ引き返すべき
しばらく歩いて大きな道路に出た
「学校へたどり着けないなんでありえん」
「パパ・・・明日の宿題どうしよう・・・」
「諦めな、楓ちゃん」
「でも・・・」
「諦めて帰るよ、M君」
シーン
返事が無い
「あれ?パパ、M君がいないよ」
「え・・・」
振りかえって後ろを見た
確かオヤジの後ろから付いてきたはずだ
「いない・・・え・・・はぐれた?」
「かも・・・全然気にしてなかった・・・」
「俺もだ、全然しゃべってこなかったからな」
「たしかに・・・」
「どうしようか‥もう1度、行ってみる?」
「仕方ないだろ、もしはぐれてて迷子になっていたら大変だ」
もう1度戻ってきた道を歩いた
交差点に出た
「ここを一直線だったよな」
「うん、パパ」
しばらく歩いていくと遠くから校舎が見えてきた
「え・・・校舎が見えてきたけど」
「ええ・・パパ・・・うそ・・一直線で学校へ行けないはずだよ、今は家が建ってて通れないから・・・
」
「でも、楓、校舎が見えるよ」
「うん・・」
なんかおかしい
何で最初の時に校舎が見えなかったんだ
それに家など無かったぞ
「とりあえず・・というか・・・M君はどこだ?」
「せがれ・・・勝手に歩いて迷子になってるんじゃないか?」
「ありえる・・それだと探しようがないぞ」
「見つからなかったら警察へ連絡するか」
「そうだな、オヤジ」
「ここでバラバラになったら2次遭難が起きそうだからみんなで一緒に行動したほうがいい」
「私もそう思う、パパ」
「とりあえずは楓の教室へ行こう」
「うん!」
校舎の入口から中に入った
真っ暗け
静かで気味が悪い
「真っ暗けだな・・・なんかな・・・」
「せがれが小学生の時を思い出すよな」
「うわ・・ここでその話はするなよ、オヤジ」
「だな・・・悪い悪い」
懐中電灯を照らしてなんとか楓の教室へ着いた
「楓、宿題のノートを取ってくるといいよ」
「うん・・・」
「パパ!!!大変、宿題のノートが無い!そんなはずはない」と楓の大きな声
「大きい声を出しちゃだめだよ、楓」
「だって・・・宿題のノートが無い・・・あれ?」
「どうした?」
「机の中に何だろう、何かあるよ?」
楓が机の中から何かを出して机の上に置いた
懐中電灯で照らした
「え・・・えええ?俺の・・名前が・・はい?」
「うわ・・・せがれの名前・・・」
「パパの名前・・・」
それは私が小学生の時に使っていたノート
不思議なことにそのノートが紛失というか行方不明になった
明日提出する宿題のノートだった
楓のように夜に学校へ来て自分の机の中を見たらそのノートが無かった
もう完全にどこかへ落したのかと思っていた
それが今、机の上にある
思考回路が停止した
「何でだ・・・今頃・・・」
「パパのノート、私のノートはどこ?」
偶然にも楓の教室は昔の私の教室だった
それも机が同じ
オヤジが教室内をちょろちょろと懐中電灯の光を当てていた
「おい・・・なんかおかしいぞ、この教室、なんか古臭くないか?」
「え・・・そっかな」
確か10年前に校舎のリニューアルをしたはずだ
「え・・・よく見ると確かに・・・古臭い・・・」
後ろの方に習字が飾ってあった
「え・・・・〇〇〇〇(名前)・・え?D君の名前だ・・・」
たしかにD君の習字だ
どういうことだ?
ん十年前のD君の習字
「オヤジ・・・これ俺の小学生の時の教室だよ」
「え?マジか・・・なんでだ」
「わからん」
突然M君の声が後ろから聞こえた
「楓ちゃん、ノートあった?」
もうびっくり
飛び上がりそうになった
心臓がパクパク
「ギャーー、M君?どこにいたの?」
「そんなに驚かないでよ、ずっと後ろから付いてきてたよ」
「え・・・後ろから?」
嘘だろ、ちゃんと確認したんだ
いなかったぞ
「M君、ノートあったの?」
「僕・・・あのね・・・探したんだけどね、僕の机が無いんだよ」
「え?机が無い?」
「うん、というか・・・僕の机だと思って机の中に手を入れたら、これが出てきたよ」
M君の手には教科書だった
「教科書?ノートじゃなくて?」
「うん・・僕のじゃない」
M君が教科書の裏を見せた
「え・・・K君?K君の教科書だ・・・あっ!・・・」
思い出した
夏休みに入る前にK君の教科書が無くなった事件があった
もちろん教室中を探した
机の中もね
見つからなかった
結局、あれだけ探しても見つからなかった
それが今、M君が持ってる
訳が分からん
「なんかな・・・せがれ・・・急いで学校から出た方がいいぞ」
「たしかに・・・もう帰ろう」
「ええ!!!私のノートは?」
「ノートって・・・パパのノートが出てきたし・・・なんか変だぞ、楓」
「うん、わかってるけど・・・明日の宿題どうしよう・・・」
「かわいそうだが、楓ちゃん、諦めな、もう家へ帰ろう」
「うん・・じいちゃ」
私たちは急いで家路へ着いた
無事に家に着いた
「ふぅ・・・家に着いたぜ」
「うん、じいちゃん・・・M君、もう家へ帰った方がいいよ」
返事が無い
「M君?」
M君がいない
「パパ、M君がいないよ」
「うそ!!!!うわ・・・またいないぞ」
オヤジが首を左右に振っていた
「おい、せがれ、M君って最初からいたっけ?」
「いたぞ、楓がちゃんと玄関に迎えに行ったんだ」
「たしかに、でもよ、その後にM君を見たか?」
「いや、見てないよ、だから引き返したんだろ」
「そうだよ、じいちゃ」
「見たのはあの教室だろ?」
「そう、M君が言うには「ちゃんと後ろにいた」と言ってたよ、じいちゃ」
「それで後ろから付いてきたM君を見たか?」
「いや、見てない」
「だろ、おかしくないか?」
「おかしい・・・」
「楓ちゃん、M君の自宅の電話番号知ってる?」
「うん、知ってるよ」
「今から電話して」
「おい、オヤジ、深夜だぞ、迷惑だって」
「そうだな・・・」
「とりあえずは家に入ろう」
リビングであれこれあの現象について話をした
結局、わからん
「あれ、パパ、ノート持ってきちゃったの?」
「え・・・あ・・・持ってきちゃったか」
「あれ・・パパ、このノート、私のだよ」
「え?あっ、本当だ、楓のだ」
「あれ・・確かパパのノートだったよね?」
「そうだよ」
どういうことだよ
「あかん、何か何やら、わからん」
「俺もだぜ、せがれ」
「おやっさんたち、帰っていたのか」
S君がリビングに来た
S君に今までの現象を話をした
「え・・・おいおい・・マジかよ、うそだろ、M君?」
「どうした?S君」
「F、悪いけどそのM君ってさ、俺、見てないぞ」
「ええ!!!だって、リビングにいたろ?」
「いや、おやっさんたちしかいなかったぞ」
「え・・・どういうこと?」
「パパ、確かにいたよ」
「だよな、挨拶もしてくれたし」
なんか食い違ってる
「パパ、私、宿題をするね」と楓はリビングで宿題を始めた
「オヤジ、俺の頭の中混乱してる」
「せがれよ、俺もだ、何やら何だ、という感じだぜ」
「なんかな・・・何で俺の名前が書いてあったノートが楓のノートになってるんだよ」
「おかしいだろ、せがれ、もう俺はあかん、もう寝るぜ」
私も疲れたよ
作者名無しの幽霊
本当に不思議な出来事だった
楓がM君に昨日の出来事を話したら
「え・・僕、ずっと家にいたよ」という返事だった
夕食時に楓が話してくれた
一同、シーンとなった
S君が言ったとおりだった
それで私たち3人が見た「M君」は何?誰?という状況になった
「なんか狐に包まれたというか化かされた感じだな」とボソッと私は言った
「同感だな、せがれよ」
「パパ、あたちね、昨日の昼にね、庭に親子の狐を見たんだぞ」
「えええ!!!葵、本当?」
「うん、本当なんだぞ、庭で草むしりしてたらいつのまにか狐の親子がいたんだぞ、それで、あたちが頭を下げたら狐の親子も頭を下げたんだぞ」
「カナ・・も見たよ」
うわ!!!!これですべて解決した
狐様だ
やってくれた
「葵、その狐の親子は白かった?」
「うん、白かったんだぞ」
はぁ・・・・・
間違いない
狐様だ
狐様の悪戯だ
「オヤジ、狐様だよ」
「そうだな、やってくれたな、狐様」
家族全員が大笑いになった
((おっちーー!!お久しぶりなんだぞ、大きなお兄ちゃん、大きなお姉ちゃん、狐様が「ごめんね」と謝っていたんだぞ))
「え?・・聞こえた?」
「うん、聞こえたよ、パパ」
「おハルちゃんの声なんだぞ」
久しぶりに幼少の時のおハルちゃんの声だ
涙が出てきた