短編2
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あの二人

 その日、私は夜の九時に飼い犬の散歩に出かけた。いつもならもっと明るい時間帯に行ってやれるのだが、この日は仕事の都合上遅くなってしまった。

 犬と共に住宅街を歩いていると、街灯の下で二人の人間が立ち話をしているのが見えた。一人はお婆さんで、もう一人はスーツ姿の男だった。おそらく仕事帰りのサラリーマンだろう。お婆さんは小型犬を抱えていて、その犬に男が話しかけているようだった。

「今日もかわいいでちゅねー。おじさんのこと覚えてまちゅかー」と、男は赤ちゃん言葉で犬に話しかけている。よっぽど犬が好きらしい。

「シロちゃん、覚えてるわよね」と、お婆さん。

 ほほえましい光景だった。私も犬が好きなので、すれ違い様にシロちゃんの顔を見ることにした。

 すると、恐ろしいことに気づいた。お婆さんが抱えている犬の顔が、どう見ても人間の赤ん坊なのだ。顔全体が短く白い毛で覆われているが、顔の造形は完全に人間だった。そして、首から下は普通の犬と変わらなかった。

 その生物は目の前の男を眺めていたが、すっとこちらを向き、私と目が合った。

 私はさっと視線を前に逸らし、気づいていないふりをしてその場を通りすぎようとした。幸い、私の犬も吠えかかるようなことをせず、おとなしく歩いてくれた。お婆さんと男も、私のことを気にかけず、二人で楽しそうにお喋りをしている。男は相変わらず可愛い可愛いと、あの生物を褒めそやしていた。

 私は何事もなくその場を通り過ぎた。そして、帰りは別の道を通った。

 あれは、私の見間違いだったのだろうか。

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