短編2
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むかで猫

これは私の実体験なんですけど、以前自宅のすぐ近所に廃墟があったんです。

それは通学路の途中にあって、民家と民家の間にひっそりと佇んでいる。

周りを高いブロック塀で囲われてるせいか陽当たりも悪く、そのくせジャングルのように草木が生い茂っている。

当時私は小学三年で、その日は同級生たちと下校の途中でした。

「ねぇ、これからあの廃墟に行ってみない?」

「いいね!行ってみようか」

私も含め、みんなもそれに同意しました。

そして男女5人でその廃墟に行くことになったんです。

狭い路地を抜け、例の廃墟に辿り着くと、その一角だけ今にも雨が降りそうな気配に満ちていました。

私たちは塀をよじ登り、草木の生い茂る庭に忍び込むと、そこには不気味な棕櫚の木が何本も生えており、隅には小さなお社がぽつんと安置されているのが見えました。

私たちはとりあえず、そのお社に向かって手を合わせると、早速廃墟の中に忍び込みました。

廃墟は平屋の造りで、縁側の向こうには花柄のぼろ布団が巨大な肉片のように打ち捨てられ、隣にはソファーが静かに白骨化していました。

─めっちゃボロだね。

─本当だね。

─一体どんな人が住んでたんだろうね?

私たちはそんなことを言い合いながら、廃墟の奥へと進んで行きました。

中は妙に懐かしい匂いがして、祖父母の家に帰省した時のような居心地の良さがありました。

すると隣にいた同級生が突然「あれを見て」と天井を指差したのです。

見上げると、そこには夥しい量の猫のものと思われる足跡が付いていたのです。

しかも、それは壁をよじ登って、それから天井を徘徊するかのようにペタペタと付いている。

「猫って天井歩けるの?」

「まさか…ヤモリじゃあるまいし…」

私たちはその天井の足跡を辿って行くことにしました。

足跡は最初に見つけた部屋を出て、ずっと天井を伝って隣室の押入れの前で途切れていました。

押入れの襖から闇よりも深い闇が口を開けて私たちを待っているかのようでした。

「どうする…?」

一人が囁くように言いました。

「中覗いてみようか?」

一人の男子がそう言って押入れに近づくと、途端に廊下の向こうからガチャンと食器の割れるような音がしました。

「何!?今の音?」

友人が叫ぶと同時に、二匹の野良猫が突然猛スピードで廊下を駆け抜けて行くのが見えました。

それはまるで必死に何かから逃げているような形相でした。

私たちはそれを皮切りに一目散に近くにある公園と走り出しました。

「あの廃墟、絶対何か棲んでるよ」

以来、私たちがその廃墟に足を踏み入れたことは一度もありません。

後日、あの廃墟にはきっと「むかで猫」が棲んでるんだよ!と、皆で言い合ってましたが、結局真相は解らぬまま、そのうち廃墟は取り壊されてしまいました。

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