フーゾク嬢のあたしが人生で初めて『聖女』の意味をスマホで調べた。
あたしは学がないからお客さんから聞いた言葉はできるだけ調べるようにしてる。
こんど来てくれたときお客さんからオススメされたヤツをちょっとでも調べてるといろいろ得だから
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「へー、アニメ好きなんですかぁ。オススメってありますぅ?」
「あー、今期は2期目の……えーと、続き物が面白いんだけど、女の子が見て面白いかもなのは『聖女の魔力は万能です』かなあ」
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ベンチタイムのトークに内容なんてない。
ベラベラ喋って勝手にプレイ時間減らしてくれるありがたい客(クソ客)もいるけど、今回に限ってはあたしの方がちょっと興味湧いちゃって聞いてみたんだ。
だって、絶対フーゾクとか来そうにないようなちゃんとした格好した、ちゃんと大人って思えるひとだったから
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仕事忘れて悩み相談しそうになってたし、心のなかで頬はたいてシゴトモード入らなきゃ正直マジに好きんなってたかもだから
でも、そんなあたしんことよりも多分ちがう力ってゆーか、ちがう"モノ"の意思があの時はツヨかったって思うんだよねー、いまさらだけど。
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あたしは地方からながれてコッチにきた嬢だけど、長く続いてる店にはいわゆる"伝説の嬢"ってのがあって
鳥取から流れてきたあたしにも通過儀礼みたいに古参が教えてくれた。
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そのオバン(40代前半、嬢年齢28才)が言うには昔この店に政治家の2代目みたいなボンボンがきてていっつも同じ嬢を指名してたんだって
その風俗嬢はたびたび求婚されたけど身分が違うからって断り続けて、結局、政治家になった2代目はだんだんと店に来なくなって、辛くなったその嬢は人目を忍んで自〇したみたい。
自分から結婚断っといてなんなの!?って感じだけどそんなことがあったんだって
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『聖女』
それぞれの社会において宗教的に敬虔であり、神の恩寵を受けて奇跡を成し遂げたとされたり、社会(特に弱者)に対して大きく貢献した、高潔な女性を指して呼ぶ言葉である。
だってさ
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イイ性格してるよね。
フーゾクやってる子にすすめるアニメこれ!?
あたし敬虔?じゃないし奇跡()とかムリだし、なんか社会に貢献してる実感とかない……
だから3ヶ月ぶりにソイツが来た時に言ってやったんだ。
「オススメしてくれたアニメ見てみたけど、なんでアレ、オススメしたの?」って
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そうするとアイツは
「なんか、ホントはデキる人が不当な評価をうけるけれど、王子さまに見初められて再評価されるって流れが〇〇ちゃんにもありそうだったから」なんて言って
ショージキ、???だったけど
その次、3回目に彼が来た時そのナゾは解けた。
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「〇〇ちゃん、ボクと付き合ってくれないか」
プレイが終わって、ヌルヌルを洗い流してあげて、神妙な顔で「ちょっといい?」っていうもんだからおとなしくベットに腰掛けて、そっと隣に座ったとたん、そう言われた。
真剣な表情
ウソのない瞳
ベットの上でいつの間にか握られている左手
その全部が『本気』をあたしに伝えていた。
でも、あたしは心の中で "強く" 頬をはたいた。
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「えー、マジい?めっちゃうれしいんだけど。シャネルのバック買ってくれたら考えるかも!あ、coachのおサイフでもいいよ!」
言い慣れた。太い客から金を巻き上げるトークが口を突いて出た。
でも、こんなこと言うつもり無かった。
ホントは「あたしもちょっと好きになってきてた」って言う気持ちを伝えるつもりだった。
だって、それがホンネだし!
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その時、薄暗いピンクの壁紙に囲われた部屋の片隅に一昔前のキャミソールに身を包んだ影が見えた。気がした。
「わたしよりも幸せになんてさせない」
かすかに見えた口元にそう浮かんだ。
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フーゾク嬢なんてね。ぜったい幸せになれないんだよ。
だってあたしも『わたしも』そんなの認められないんだから
作者春原 計都