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中編3
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微笑む遺影

これは友人Kの葬式に出席した時の話。

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享年50。

正に急逝だった。

男の人生としては、まだまだこれからという時分だろう。

結婚はしていたが、子供はいなかったと思う。

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同じ大学を卒業してからも、たまに連絡はあった。

最後に連絡があったのは、ちょうど1年前のこと。

内容は、15年連れ添った奥さんがどうやら浮気をしているようだというもの。

証拠も掴んでいると言っていた。

その時はまあ、お前の人生だから好きに決めれば良いと、そんな返事をしたと思う。

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市内にある小さなメモリアルホール。

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その一階で、しめやかにKの葬式は執り行われていた。

室の奥まったところには白い花が豪華に飾られ、その中心に故人の遺影が飾られている。

その前には棺が置かれており、傍らで豪華な袈裟を纏った坊さんが神妙にお経をあげていた。

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坊さんの背後には長机が置かれ、喪服姿の男女が並び、思い思いに焼香をあげている。

その中には、大学時代Kと同じスポーツサークルだったSの姿もあった。

確か卒業後は、Kと同じ会社に就職したと思う。

棺の傍らには喪服姿の中年の女性が立ち、出席者の人たちに丁寧な挨拶をしていた。

恐らくは奥さんだろう。

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入口で記帳を終えた俺は数珠を片手に、室内奥へと歩く。

少々疲れ気味の顔をした奥さんに型通りの挨拶をしてから、棺の小窓からKの顔を覗き見る。

心臓発作による突然死ということだった。

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─そういえば最後に電話で話した時、最近何故か心臓の調子が思わしくないんだと言ってたな。

学生時代はあんなに健康そのものだったのに、、

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それから改めてその死に顔を見るが、意外にも今にも起き上がってきそうなそんな風体をしていた。

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─もしかしたら、こいつ、自分が死んだという自覚がないのかもしれんな

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そんなことを思いながら「あっちではゆっくり休めよ」と声かけをした後、ふと祭壇の遺影に視線をやった時だ。

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瞬間、心臓が止まるかと思うくらいに驚いた。

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遺影には、まだ元気な頃のKのカラー写真。

その顔がまるで生きているかのように、にこりと微笑んだのだ。

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あとからホールスタッフから聞いたところによると、遺影には、故人を偲ぶようにそのような映像の仕掛けがされているということだった。

その時は納得したが、あまり趣味の良い趣向ではないなと感じた。

その時、俺以外の参列者もやはりびっくりしている様子だった。

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それから焼香を終え、もう一度奥さんに挨拶をした上、祭壇に背を向け出口の方へと歩きだした時のことだ。

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「うわっ」

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突然男の叫び声が室内を響き渡った。

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それは結構大きな声で、思わず俺は振り返る。

その時にはKの奥さんが、その声の主の肩を抱き起こそうとしていた。

俺とあまり年は変わらないくらいの男性だったと思う。

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あの遺影を見て驚いたのだろうか?

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そう思った俺は思わずKの遺影の方に視線をやり、

再び背筋が凍りついた。

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さっきは柔らかに微笑んでいたKの顔が、まるで般若のような憎々しげな表情に変貌している。

そしてよく見ると、声を出した男と奥さんを交互に睨み付けるように眼球を動かしているように見える。

俺はしばらく唖然としながらその様を見ていたが、

やがて我に戻ると、早々に退散した。

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そしてこれは後日、大学時代Kと同じサークルで葬式にも参列していたSに聞いた話なのだが、Kの奥さんがKの初七日を迎える前日に車を運転中、交通事故で即死したということだった。

その時同乗していた男性もろともに。

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その日の晩二人は郊外のレストランで食事をした後、再び車で移動中に反対車線から来たタンクローリーと正面衝突したということで、車は原型を留めぬくらいに大破し車内は火に包まれて、それはそれは酷い現場状況だったということだ。

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幸いにも怪我だけですんだタンクローリーの運転手が後から言ったのは、夜に国道を走っていると、突然正面のフロントガラスに巨大な男の顔が現れ、憎々しげに自分を睨み付けたので、驚いて思わずハンドルを切ったということだった。

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fin

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