本物の心霊写真というもの

中編5
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本物の心霊写真というもの

とある著名な心霊研究家が言うには

心霊写真には3種類あるらしい。

一つは完全なる偽物。

もう一つは単なる見間違い。

そして最後の一つが【本物の心霊写真というもの】

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8帖ほどの仏間だ。

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その中央辺りにある座卓を挟んで、Sと高名な祈祷師のK氏が向かい合って座っている。

奥のサッシ窓の向こうの縁側からは、手入れの行き届いた立派な庭園が垣間見えていた。

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これ、なんですが、、、

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言いながらスーツ姿のSは正面に座るK氏に、あらかじめ持参してきた一枚の写真を手渡す。

長い白髪を一つにまとめた渋い着物姿のK氏は写真を受け取り「どれどれ」と、それを眼前にかざした。

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その写真は単なるスナップショットのように見える。

どこかの展望台だろうか。

薄曇りな空の下、柵の手前に白いパーカー姿の男が笑顔で立っている。

そして彼の隣に、どこか不自然な風体の女がいる。

肩までの黒髪。

白いブラウスに紺のスカートの地味な出で立ちで、その横顔は奇妙に青黒い。

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写真をしばらく眺めた後K氏は眉間に皺を寄せたまま、Sに尋ねる。

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「この二人はどういったご関係ですかな?」

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「写真に映っている男性は私の大学の同級生Hで、隣の女性とは私もHも見たことも会ったこともないです。

いや、というか、そもそもそこに映っていたのはH一人だったんです」

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「申し訳ありませんが、もう少し詳しく教えていただけませんか?」

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K氏の問いにSが続ける。

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「はい。

20日ほど前の日曜日のことです。

私とHは午後から、興味本位で県北部山あいにある心霊スポットに行ってみました。

そこは飛び降り自殺が多発している展望台で、なんでも成仏出来ない自殺者の霊が彷徨っているということでした。

その写真は、展望台の突端に立つHを私が撮影したものです。

誓っていいですが、撮影時展望台には私とHしかいませんでした。

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改めてK氏は写真を見直す。

そして話し出した。

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「この女性、よく見ると確かにおかしいですな。

顔色が不気味なまでに青くて、体越しに背後の景色が薄く透き通って見えている。

そして、あなたの友人に何か話しかけているようですが、このHさんという方、その後体調とかどうですか?」

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「それが、この写真を見て以来自宅に引きこもってしまって、ここ最近はラインや電話しても返事がこなくなって心配していたら、3日ほど前に他の友人から電話があって、、、」

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ここでSは一度俯くと、やがて意を決した様子で話しだした。

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「Hがその日の朝、死んだと彼の母親から電話があったらしくて、、、」

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「死んだ?一体どうして?」

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K氏が驚いた様子で尋ねると、Sがまた話し出す。

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「朝方母親が何度呼んでも二階の部屋から出てこないから心配で中に入ってみると、誰もいなくて不審に思い辺りを見たそうです。そしたら窓が空いたままになっていたから外を見たら血だらけのHが窓の下の庭にパジャマ姿で横たわっていたらしくて、すぐに救急搬送されたそうなんですが既に亡くなっていたということでした」

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「死因はなんだったのですか?」

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「体のあちこちの骨が折れ首や手足があらぬ方向に曲がっていて、内臓破裂もあったみたいです。医師は10階建てのビルから飛び降りたくらいの遺体の損傷だったということで、どう考えても二階から落下した程度のものではなかったということでした」

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そこまで喋りSはガックリと肩を落とした。

K氏はまた改めて写真を凝視していたが、やがて顔を上げると口を開く。

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「この写真の女、、、

あなた方くらいの若い男数人に弄ばれて、悲観してこの展望台から身を投げたようです。

かなりの怒りや恨みの念を抱いたまま身を投じたようで、その魂は未だにこの世を彷徨っておるみたいですな。

その強い想いをもて余している時、たまたま若いあなた方が近くに現れたんでしょうな。

タイミングが悪かったんです。

ご友人の方は本当にお気の毒でした。

顛末はだいたい分かりましたが、それで本日はこの私に何を求めて来られたんですか?」

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K氏に問われ、Sはしばらく俯き押し黙っていた。

だがやがて意を決したように顔を上げると、口を開く。

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Sは「実は、、、」と言いながら携帯を片手に持つと、ある画像を画面に表示すると、そのままそれをK氏に手渡した。

K氏はそれを眼前にかざすと、画面の映像を凝視した。

Sが説明する。

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「その画像は、この間のクリスマスパーティーで彼女と一緒に撮った写真です。」

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それはテナントビル10階にあるパーティー会場。

画面の中央には二人の男女が、背後にある等身大くらいのウインドウに背中をくっつけるようにして立っている。

ウインドウ向こうには暗闇が広がり、無数の星が瞬いていた。

左手はSで、その右手には彼女と思われる女性が笑顔で立っている。

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ただそこにはやはり、奇妙な者が映りこんでいた。

その者はウインドウの外側におり、Sの肩に寄り添うにして立っていた。

その白くボンヤリした姿は間違いなく、あの展望台に映りこんでいたあの女だ。

Hの時と同じように青黒い顔をSへと向け、恐ろしい形相で睨んでいる。

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驚愕の表情で写真を見るK氏の顔を見ながら、Sが続ける。

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「私の肩越しに見えるその女。

明らかにウインドウの外に立っています。

その会場はビルの10階にあるわけですから、あり得ないんです。

そしてこの写真を撮った日の翌日辺りから、たまに耳元で囁くような低くくぐもった女の声が聞こえるんです。

朝も昼も夜寝てからまでも」

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「何と聞こえるんですか?」

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「絶対に許さない、、、

絶対に許さない、、、

絶対に許さない、、、

絶対に、、、、、、

何度も何度も。

そして今も」

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繰り返しながらSはそのまま俯くと、両耳をふさぎ卓に突伏した。

そして肩を震わせなからK氏に訴える。

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「先生、お願いします、助けてください。

私、まだ死にたくないんです」

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K氏は目を瞑り腕組みしたまましばらく考え続けていたが、やがて目を開くと、

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「Sさん、あなたの不安なお気持ちよく分かります。

でもここまで強い負の思念を抱いた霊には、私も今まで出会ったことがないんです。

だから本当にお気の毒なんですが、、、」

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と言って、おずおずと携帯をSに返す。

それからは、

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Sの悲痛なすすり泣きだけが、部屋内を響き渡っていた。

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