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【慎太郎くんのいたという家】前編

中編5
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【慎太郎くんのいたという家】前編

「その事件は平成の始め頃に起こったらしい。

舞台は、俺たちの今住んでいる、ここF市北部山あいにある古い住宅街の外れにあった二階建ての一軒家。

昭和の終わり頃のこと、そこにはとある夫婦と一人息子が暮らしていたそうだ。

お父さんは大学教授をしていたそうで、息子は名を慎太郎くんと言った。

彼は物心つく頃には精神に異常をきたし、その行動にはおかしなところが現れてきて、両親は学校には行かせず自宅で監護・教育していたようだ。

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当時を知る近所の住人は、日常における慎太郎くんの奇行には恐怖さえ感じていたらしい。

というのは、まだ13、4歳くらいの時、既に彼の身長は180センチもあったみたいで、いつもピチピチのボーダー柄をしたTシャツに半ズボンという格好で奇声をあげながら歩き、道行く人に石を投げたり突然追っかけまわして暴力をふるったり、近所の猫や犬を捕まえては残酷に殺したりしていたからだ。

だから両親は極力、彼を外に出さないようにしていた。

家にいることが多くなった慎太郎くんは徐々に両親に暴力を振るうことが増えだし、最後はとうとう16歳の時、自宅で両親を殺してしまった。

その理由がなんと母親が勝手に彼の部屋に入り、大事にしていたフィギュアの一つを捨ててしまったからだったらしい。

警察に逮捕された時彼は未成年ということで、その後は国の矯正施設に入所させられた」

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そこまで話して運転席に座る藤木は、助手席に座る彼女の愛実をチラリと横目で見た後、後部座席に座る友人の倉崎と堀江をルームミラーで見る。

藤木は車とアニメ好きのちょっと小太りな男。

同じ大学の同級生である四人はオカルト愛好家であり、とある初冬の日曜日、藤木の車で曰く付きの廃屋に向かっていた。

ひげ面で大柄の堀江が口を開く。

中高とラグビーでならした体育会系だ。

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「じゃあ今日は、その慎太郎くんの住んでいた家に行ってから探索するつもりか?」

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「ビンゴ!」

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藤木が親指を立ててから応えた。

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「でもさあ、その慎太郎くんという子、平成の始め頃に両親殺して矯正施設に入れられたのが16の時なら、今はもう40過ぎのオッサンということだろ。

そんな年齢になってもまだ施設にいるのかな?」

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四人の中で一番ビビりの倉崎が質問する。

色白でひょろりとした華奢な体型だ。

すると助手席に座る藤木の彼女愛実が振り向き彼の顔を見ると、

「いや、さすがに今は普通に社会生活送ってんじゃないの?」と言った。

ショートの茶髪で小柄のおとなしい感じなのだが、意外と男勝りの性格をしている。

それに対して倉崎がビビりつつ言う。

「それは危険過ぎるよ~」

するとハンドルを操作しながら藤木が口を開いた。

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「いや、それが真偽は定かじゃないが、慎太郎くんは施設内で自殺していて既にこの世におらず、その心霊が嘗て住んでいた家を未だに徘徊しているんじゃないか?とか、

逮捕されて数年後には施設を脱走し、たまに家に戻ってきているのでは?とか、

近所の住人の間でいろんな勝手な噂があがっているんだ」

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「お前、この件についてやたらに詳しいけど、何でだよ?」

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堀江が彼の後方から質問する。

藤木はチラリと後ろを一瞥すると、また話しだした。

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「いや、実なは、俺のオヤジの弟つまり叔父さんが、慎太郎くんの住んでいた家の近くにある住宅街の一軒家に住んでいるんだよ。

この間じいちゃんの法事で親戚一同が寺に集まった時、話してたんだ」

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「なるほど。

だったらもしかしたら今から俺たちが行く廃屋に、慎太郎くん来てるかもしれないよな」

と堀江が言うと、愛実が「うわあ、なんだか怖い」と言って眉をひそめ、藤木の肩に触れた。

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四人が話で盛り上がっている間に、車は目的地である古い住宅街の入口に差し掛かっていた。

昭和の終わり頃に山を切り崩して計画的に作られたというその住宅街は、同じような二階建ての家が整然と建ち並んでいる。

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「叔父さんの話によると、慎太郎くんの住んでいた家は、この住宅街を抜けた小高い丘の上にあるそうだ。」

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言いつつ藤木はハンドルを操作しながら、建ち並ぶ古い住宅たちの間の路地を進んでいく。

時刻は午後3時を過ぎていて、どんよりとした空は薄雲り模様である。

やがて車は住宅街を抜けた。

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藤木は車を道路端に停止すると改めて周囲を確認した上に前方を指差し、

「あそこだよ。あの丘の上辺りに、慎太郎くんの住んでいた家があるみたいだ」と言うと再び車を動かし始める。

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雑草地に挟まれたなだらかな傾斜の道を登りきると、砂利の広がる平地が広がっており、藤木はそこでまた車を停止する。

車の前方100メートル辺りに、雑木林に囲まれた二階建ての一軒家がポツンとあった。

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「どうやら、あれのようだな」

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そう言うと藤木はエンジンを切り、車を降りる。

他の三人も各々降りた。

藤木を先頭に目的の一軒家に歩き出す。

林の間を抜けると、古びた二階建ての家屋がその姿を現した。

錆びた鉄製の門は施錠されておらず藤木は両手で開き雑草で荒れ放題のアプローチを通り、玄関へと歩く。

3人もあとに続いた。

白の玄関扉には、赤のスプレー缶により「危ない、入るな」と落書きがされている。

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「どうやら、俺たち以外にも物好きが来ているようだな」

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そう言ってひげ面の堀江がニヤリと笑うと、ドアノブを掴んで力を込めてみる。

意外なことにドアは普通に開いた。

驚いた顔で藤木を見る堀江。

その時だ。

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「痛い!」

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突然後方で愛実の声がした。

驚いて振り返る藤木と堀江。

しゃがんで頭を抱える愛実に、倉崎が心配そうに声をかけている。

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「どうした?」

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藤木が言うと、愛実が頭を片手で押さえて痛そうにしながら「今何か石のようなのが飛んできて頭に、、、」と言う。

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「石?」

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そう言って藤木が愛実の背後を見渡してみた。

だが特に変わったことはない。

「大丈夫か?」という堀江の言葉に愛実は微かに頷くと、倉崎に支えられゆっくり立ち上がった。

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その2に続きます。

Concrete
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@アンソニー 様
コメントありがとうございます。
2話めの方が怖いですよ~~

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