24年01月怖話アワード受賞作品
中編6
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占いのおばさん

私の地元には昔、「占いのおばさん」が住んでいた。

本業では無く、あくまで趣味だと言っていたけど、結構本格的なもの。

詳しくは解らないんだけど、ざっくり言うと、星座早見盤や地図を使って、その時々の星の位置を線で結んだり、角度を見たりして、先々の予測をする…というものらしい。

おばさんはそうやって、日々の星の巡りや星の位置の研究を昔からしていたそうで、しかも、それがかなり的を得ていると噂になっていた。

例えば、この日は星がこの角度だから、火のトラブルに気をつけろ、というと…予測通り、近所の家で火事が起きたり。○○地方に○○という角度があるから、近々水害が…というと、台風で浸水被害が出たり…

噂は巡り巡って、テレビや雑誌の星座占いしか興味が無かった若い子達も、次第におばさんの占いに興味を抱くようになった。

当時のオカルトブームも重なって、一部の人からは予言者みたいに呼ばれていたり…それくらい、おばさんの占いは一時期かなり注目されていた。

そう、一時期だけ。

と言うのも…おばさんは、口が悪いことでも、有名になってしまったのだ。

それも、占いにおいては特に。

だから、個人鑑定をお願いした人で、二回目以降もおばさんに視て貰う人は稀だったし、特に…進学や習い事を控えた子供を持つ、お母さん方からの嫌われっぷりは有名だった。

「この星の位置じゃ、何をやっても中途半端に終わるよ」とか、「この子は芸術向きじゃない、本人がどれだけ好きでも、やるだけ無駄」とか…

酷いこと言われた!!って、井戸端会議で話しているのがよく聞こえてた。

まあ、いくら占いでも、希望を挫くようなネガティブな言葉を突き付けられれば、色々言いたくもなる。

でも、中には親の意向で習わせて、実際芽が出なかった子もいたらしいので…そういうエゴを読んだ上で、おばさんは発言したのだろう。

他人の気持ちには振り回されないし、興味も無い…という鋼メンタルだったおばさんのブログには、いつも自身の哲学みたいなものが書かれていた。

「綺麗で甘い言葉ばかり並べ立てる占いは何も意味がない。誰だって、楽な気持ちになりたい。でも、それで何か解決するの?人生舐めすぎ。現実は不条理で、誰も助けてくれないもの。そもそも…人間に生きる意味とか意義とか、思考を他人に委ねる行為は傲慢――――」…と。

ただ、どんなに心が強くても歳は取るもので、おばさんは、私が社会人になって三年くらい経った頃に病気に罹り、入院した。

一人暮らしだったこともあって、ご近所さんの何人かが定期的に様子を見に行っている…と母から聞かされて、私も一度だけ、夏休みの帰省の折に、お見舞いに伺った。

と言うのも、実家を出て一人暮らしをする際に、どこに住めば良いか試しに場所を視て貰ったことがあって、実際、住みやすくて土地柄も平和な良い場所だったから、私はおばさんに恩があったのだ。

お花と、ちょっとした手土産を買っていざ病室に入ると、おばさんは笑顔で迎えてくれた。

「占いってさあ、心理学と似てて、心を切り売りするものだから…ほんと、参っちゃう。やらなきゃ良かった…」

ベッドの上で、ため息交じりにハキハキ喋るおばさんを見て、安心した私は、

「大変ですよね。でも、おばさんに視て貰った所、凄く住みやすいですよ!ありがとうございます!」

と、おばさんに改めてお礼を言った。

だが…私の言葉を聞くなり、おばさんの顔から途端に笑顔が消えた。

「…は?」

「あの、一人暮らしするときに、おばさん視てくれたじゃないですか…私、嬉しかったですよ?」

「……はぁ???」

おばさんは、私から視線を逸らして俯くと…表情をみるみるうちに険しくさせて、ため息交じりに言った。

「あんた、性格悪いわねぇ、いや、純粋すぎて無神経ね。よくKYって言われない?そうそう…あんたの生まれ星の位置、トンチンカンで呆れたの、思い出したわ!」

おばさんが薄笑いを浮かべながら言うのを…私は、呆然と固まって、ただ聞いていた。私が言い返してこないと察したのか…おばさんは私の顔を睨んで…思いもよらぬことを、私に言った。

「あなたに教えたのは、忌み地だ」…と。

「どうせもうすぐ死ぬし、本当のこと教えてあげる。あんたみたいなのって馬鹿で純粋だから、変な場所でも有り難がって住むだろうと思って(笑)あ、恨むなら、母親恨みなさいよ?世界的にも不穏な星回りの時期に、無理して産んじゃうんだからねぇ……」

―――忌み地、忌み地!嫌だ嫌だ、これから何が起こるかしら……―――

それから、どうやって家に帰ったのか覚えていない。実家に寄ったのか、そのまま帰ったのか…それすらも。

ただ…おばさんの口の悪さを昔から知っていて良かったことには間違いない。

おばさんの言葉はショックだったけど…そのことをいつまでも引き摺るほど凹んではいなかったし、何故か不思議と、恨みも無かった。

むしろ、あれは…おばさんなりの愛情表現だったのでは?とすら思っていたのだ。

「バカは風邪ひかない。風邪をひいているのに気付かない」って言うのと、同じ意味合いで言ったのかも?…と。

何故あんな言い方をしたのか…再び伺って、理由を聞いてみたいとも思ったけれど…仕事に追われ、地元に帰省するタイミングを逃している間に、おばさんは亡くなった。

身辺整理は生前に行われていたから、手間取りはしなかったそうだが、親族や家族とは疎遠だったために、無縁仏として埋葬された、と…母から電話で聞いた。

おばさんの悪評で盛り上がっていたお母さん達も、他のゴシップや噂話に移行して、おばさんの死を気に留めることはおろか…存在そのものが、大多数に忘れられていた。

そして…今現在に至るまで、私が住んだ土地で、物騒なことは起きていない。

過去形にしたのは、家庭を持ったタイミングで引っ越したからで…それでも時々、その地域の情報をネットで見てみるけれど、事件や事故や、災害などの記事は殆ど無く、お祭りや学校のイベントといった、和やかな催し事に纏わるニュースばかりだ。

「毒舌タレントって人気者じゃん、それと同じだったんじゃない?」

…家族の言う通り、おばさんはそういうキャラだっただけなのかも知れない。

実際、他の人にこの話をすると、「癖の強いおばさんの面白エピソード」として、笑い話に捉えられて終わる。

だが…最近になって再会した幼馴染にだけは、全く違う反応をされた。

「…おばさんのこと…あんまり人に言わない方が良いかもよ…?」

訳を聞くと、おもむろにスマホを取り出して、私に画面を見せた。

それは、おばさんのブログだった。

「○月〇日、近所の○○夫婦が尋ねてきた。○○は妻が先に事故、夫が○○駅付近で倒れ一生介護。恨みつらみの言葉を投げてきた」

「○月〇日、○○一家が押しかける。子供の行く末を視たが、どちらも早死に。夫婦は私に恨みつらみの言葉を吐いたのちに消えた」

「○月〇日、同じ病院に入院している○○の母親が来る。私の死に際を見に来たと言われた。家族の生まれ日の因縁を視た恨みを、夜な夜な耳元で囁かれる」

「○月〇日、近所の○○家の娘が尋ねてくる。住む土地に関する感謝の言葉を言われたが、嬉しくない。なのに、しつこく有難がる。つらい」

――――私は、人に恨まれたい。恨まれて憎まれたい。他人の星周りを見ていたのは、人から悪意を向けられるため…私の目的をくじくあの女には、いつか、化けて出てやりたい――――

「…こういう人もいるんだよ。わざわざ、因縁深い世界に身を置きたい人がね…」

今の所、おばさんの幽霊は見ていない。そもそも、私も家族も霊感持ちではないから、いたとしても気付かないだろう。

だが、私の心はズキンと痛んだ。

…十年近くも経って、おばさんの言葉は、愛情ゆえでは無かったのだと気付いたのだ。

「どうしよう…」

「…なるべく早く忘れる。が…いいんじゃない」

それから更に後になって、私が住んでいた場所と、おばさんが言っていた場所は、地名こそ同じだが、全く別の場所だったと分かった。

前者は何の因果も無いただの住宅地だったけれど…後者は、関わった人間が、大なり小なり様々な災難に見舞われる、と噂される場所だった。

おばさんは、どこまで見えていたのだろう。私が間違えることは、予測できていたのだろうか…

なんにせよ、もうおばさんは、この世にはいない。恨みを抱えて死んだのか、それとも、人からたっぷり恨まれたことに満足して死んだのか…定かでは無い。

一つだけ、救いがあるとするなら…そのブログに表示されていた、広告の言葉だろうか。

『どんな嘘もどんな過ちもどんな悪行も、最後に神は許してくださいます!』

Concrete
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